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第14話  祝勝会! そして――最大の敵!

 

 ミスティさんとのバトルを終えた僕は一度宿に戻る事にした。

 大通り付近にアイセさんもライラさんの姿も無かったからだ。

 恐らく面倒事に巻き込まれる前に退散したのだろう。


 かくいうボクも今はなるべく屋根の上を【跳躍ハイジャンプ】と【滞空ホバリング】のアビリティを駆使しながら移動している。

 歩いて行こうかと思ったけど、表通りは人通りが多くて目立つし、裏路地は道が複雑で迷子になるしで結局飛んで行った方が速いし確実、という結論になった。

 飛んだ方が目立つかなと思ったけど、今のところは見つかっていない。

 ただし! 誰かに見られる=パンツを見られる、という諸刃の剣だ!!

 あと地味に疲れる!


「やっと着いた~」


 そんなこんなでやっと宿に帰還。

 さて、堂々と凱旋したいところだけどボクも今やちょっとした有名人になっているところだろう。何せ、あのアイセさん率いるパーティ『ヴェイグランツ』の新メンバーで、AFC会長を倒したレベル1のサキュバスだ。

 宿に入るところを誰かに見られる訳にはいかない。


 右よーし。左よーし。前よーし。後よーし。上よーし。下よーし。

 いざ速やかに帰還!

『本日貸し切り』と書かれた入口ドアから素早く宿に潜り込んだ。


 ぱぱんっ! ぱぱぱんっ!

 

「初勝利おめでとう!」「おめでとう! ハルちゃん!」「ま、思ったより使えそうじゃねーの」「おめー」


 クラッカーと共にアイセさん、ライラさん、ココノさん、ネロちゃんが口々にお祝いの言葉を投げかけてくれた。まるで誕生日のサプライズパーティだ。

 思わず呆然としてしまう。


「え? えぇ? これ、何です?」

「何って、ハルちゃんの歓迎兼祝勝パーティだよ♪

 アイセちゃんが急にやろうって言ったんだよ?」


 アイセさんのアイデアなんだ。


「……その、余計な事だっただろうか?」


 アイセさんの方を向くと彼女は気恥ずかしそうに鼻の頭を掻いていた。

 正直、こんな風に気を遣ってもらえるだなんて思ってもみなかった。

 アイセさんって、ちょくちょく不器用な所もあるのに、こんな時だけ急に気を利かせるの――ずるいよ。

 ジーンとなってまうやろ…♪


「……皆さん…有難うございますっ」

 

 うぅっ、嬉しすぎて目から汗が…

 と、嬉し涙で滲む視界に、魔女ちっくなとんがり帽子を被ったロリエルフが映る。

 銀髪褐色肌の魔法使い――ダークエルフのネロちゃんだ。


「おい。淫ピン」

「ネロちゃん地味に口悪いよね!?」

「ライラが感染うつったからしょうがない。それより手え出して」

「人を病気みたいに言うんじゃねえ!? テメーは元から口悪いだろうが!」


 ライラさんのツッコミに思わず苦笑いしてしまった。

 パーティだろうが何だろうがこのメンツは平常運転で安心する。

 ええと、それより手え出せって? 


「お祝いのプレゼント。死ぬほど喜ぶべし」


 差し出した手に、何かを握らされた。

 ――これは、指輪? 装備アイテムかな?


「【多芸の指輪】。LPをちょっぴり上昇させる効果がある」

「LPって確かアーツやアビリティを装備するのに必要なポイントだよね?

 それを上昇させるなんて、すごいアイテムじゃないの?」

「10しか上がらない」

「10も上がるの!?」


 ボクのLP10だから倍になるやんけ!? 神アイテムか!?


「有難うネロちゃんっ♪ とっても嬉しいよ♪」


 思わずネロちゃんの手を取ってしまった。

 わ。手ちっちゃいなー。可愛いなー♪

 ――ってあれ? ネロちゃん顔赤くしてる?


「そ、そんなに嬉しいならそのデカパイ揉ませろ」


 ボクの胸元をチラチラ見ながらそんな事を言った。


「あー」


 そうか。ボクのOPPAIに見とれてしまったのか。

 ネロちゃんはこれでも一応♂だから、目に毒だったかもしれない。

 っていうかこの構図シチュ、オネショタ風ロリショタか!?

 真っ赤になってそっぽを向くネロちゃんに――こう、言いようのない萌えというか愛しさを感じる♪ なんか抱きしめて上げたくなってきた♪


「こらネロちゃんっ。今はそういうの無し!」

「むぎゃんっ」


 ネロちゃんを小突いたのは、一風変わったヒーラー衣装を着た犬亜人のココノさんだ。ケープマントの下には体にぴったりフィットするチャイナドレス風のセクシー衣装を着ている。


「ネロちゃんほんとエッチだから、ハルちゃんも気を付けなよ?」

「…あの…昨晩お風呂場でボクのOPPAIを揉み倒したのは誰でしょうか?」

「さ、さあ? 誰だったかな~? そんな事より、はい!」


 無理矢理アイテムを手渡される。また指輪だ。


「【乙女の指輪】だよ。DES(よくぼう)を10%低下させる代わりに、MND(せいしん)を10%増加させる効果があるの」


 DESを下げてMNDを上げるって事は――


「あ!【オーバー・ディザイア】し難くなる!?」

「そういう事♪」

「有難うございます! これ、すっごく助かります!」


 これで【夜時間】になってもそう簡単には我を失ったりしないぞ!


「そ、その代わりに、後でモフハグしても、」

「駄目です」

「キュゥ~ン…」


 きっぱりお断りすると耳と尻尾を垂らして悲しそうな声を上げるのだった。

 ドサクサに紛れてOPPAIを揉み倒されるのはゴメンだからね。


「次は俺か。ほれよピンク」


 ライラさんが取り出したのは一冊の本だ。


「?『ウェルカムハッピートリガーVol1』? 何ですこれ?」

「ハンドガンのスキル書だよ。ランク1のハンドガンのアーツを覚えられる」

「えっ!? それ滅茶滅茶スゴイ奴では!?」

「大袈裟だっつーの。店売りもしてるし、ダンジョンにもちょくちょく落ちてらぁ。

 ま、レアものには変わりねえがな」

「あ、ありがとうございます!」

「代わりに」


 ずい、とボクへと踏み込むライラさん。

 ヤクザがメンチ切る時のように鼻先がくっつくかと思うほど顔を寄せて来た。

 ウェスタンハットの下に釣り目の、男勝りなライラさんの顔がある。

 カッコ可愛い撫子系なアイセとは違って、野性味溢れる顔立ちだ。

 癖っ毛の強いショートの赤毛も、良く似合っている。


 あれ? 顔だけなら、結構悪くない? ワイルド可愛い。


 けど、その表情は真剣で、思わず息を呑んだ。


「絶対に足を引っ張んじゃねえ。こいつは先行投資だ。

 新しいメンバーが、足手まといにならねえようにする為のな。

 だから役に立てるって事を証明して見せろ。分かったかピンク?」


 コクコクと頷く。


「ならいい」


 顔を引っ込めるライラさん。

 不覚にも、ちょっとドキドキしてしまった。


「『ミスティをタイマンで倒すとはあいつやるじゃねえか』」

「っ!? おまアイセっ!」

「『アイセ狙いの只の脳味噌お花畑かと思ったら根性も座ってやがる』」

「てめー! 調子に乗ってんじゃねえぞっ!?」

「『あいつ、案外悪くない掘り出し物だったかもしれねえぞ?』」

「その口を閉じろーっ!」


 ライラさんの声真似をするアイセさんに当のライラさんが飛び掛かる。

 この二人実は仲良しか。

 そしてライラさんはツンデレと――( ..)φメモメモ


「ピンク! てめぇもニヤニヤしてんじゃねえぞ!?

 それと勘違いすんな! 俺はまだお前の事、認めてねえからな!?」

「あーはいはい。分かってますヨー」

「ちっ…!」


 ライラさんは舌打ちしながら料理の並ぶテーブルへと向かい、乱雑に着席する。さっさと飯にするぞ、と言外に急かしているようだった。まるで不貞腐れた子供だ。

 それがおかしくて、アイセさんと一緒に思わず微笑んだ。


「こほん。さて。最後は私だな」


 アイセさんが持ち出したのは、プレゼント用のラッピングが施された箱。

 大きさは、靴が入るくらいかな? 何だろう?


「開けても良いですか?」

「勿論だ。と言っても、そんな大層な物でもないと思うが…」


 なんて言われると余計に緊張しなーい?

 ボクはドキドキしながらラッピングを丁寧に外し――箱を空ける。

 中から現れたのは――


「これ、アームカバーですか?」


 指部分の生地が無い、手の甲から肘までを覆う、長手袋だ。

 黒のレース生地が色っぽく、手の甲はハート状に生地が切り抜かれていた。

 肘側の端の部分にはフリルも盛られていて、セクシー可愛いデザインだ。


「【練達淫魔の腕貫うでぬき】だったかな? 色装しきそうランク4の腕装備だ」

「ランク4!? ハルちゃん装備できるの!?」

「ええまあ、不本意ながら。っていうかランク4って凄いんですか?」

「参考なまでに、私の軽装スキルが4。中装が2だ」

「私、軽装3の中装1」

「軽装2」

「――中装3、重装1だ」


 アイセさん、ココノさん、ネロちゃん、ライラさんが順番に応えてくれた。

 防具のスキルが4に到達してるのアイセさんしかいないやんけ!

 って事はボク、防具だけならレベル100越えのアイセさんと同程度の装備が出来るって事!?


「見た目の割に防御性能が高い。それにDEX(きようさ)INT(かしこさ)をそれぞれ15ずつ上昇させる効果もついてるらしい。確かハンドガンを使うのだろう? 丁度いいと思ったのだが――」

「ん? でもなんで腕装備だけなの? 腕だけと言わず頭から足まで一式揃えればよかったのに。アイセちゃんならランク4の装備丸々一式揃えるくらいのお金稼いでるよね?」


 ココノさんが素朴な疑問を口にした。

 まあ、確かに。腕装備だけってのは、悪く言えばケチ臭い、とも言える。貰う側だからそんな罰当たりな事言わないし、腕装備だけでも充分ありがたいけど。


「【練達淫魔】装備一式は…その、見た目が…今以上に――」

「あ、もう良いですよアイセさん。察しましたから」


 顔を真っ赤にしながら言うんだもん。何が言いたいかくらい分かります。

 そりゃランク4で、淫魔の衣装なんだからエチエチに決まってる。


「まあ、そんな訳だが、どうだろう? 気に入ってくれただろうか?」


 ちょっと不安げにボクを見詰めるアイセさん。

 何だか気弱な表情が、いつもの凛とした表情とは違って、ギャップ萌え!

 じゃなくて!


「どうもこうもありませんよ! ほんとにっ、有難うございます!」


 ボクは手放しに喜んだ。

 ホントは女物の衣装をプレゼントされて喜ぶ趣味は――無い。

 むしろ転生前なら「喧嘩売ってんのかオラァン!?」ってなったろう。

 でも、アイセさんがボクの為に用意してくれた物なら話は別だ。


 メ ッ チ ャ 嬉 し い よ ぉ っ ♪


「大切に使わせてもらいますね!」


 えへへ♪ 早速付けてみよっと♪

 ボクはご機嫌で、皆から貰ったアイテムを装備するのであった。



 ***



 プレゼントタイムの後は皆で昼食。

 料理の味は――実はイマイチだったけどボクの為にやってくれたパーティだ。その心遣いと空気が美味しくしてくれた。

 

「しっかしミスティの奴も運が無かったな。どこの馬の骨とも分からねえレベル1のサキュバスが、とんでもねえエロ能力持ってやがるんだから。なんだよあのハートブレイク・アローのとんでも威力は」


 そして食事をしながら、自然と話題は先程のバトル一色に。

 

「あのー。その話は程々にしてもらえると…」


 パンチラとOPPAIに全振りしたエチエチ詠唱の事は今すぐにでも記憶から抹消したいんですけどねぇ。まあ、お陰でミスティさんに勝てたんだけど。


「いやいやピンク、テメェ分かってねえよ。

 一発目400オーバー、二発目が500オーバーとかバケモンだぜ?」

「それって凄いダメージなんですか?」

「馬鹿言え。あんなの食らったらアイセでも一発で【オー】しちまうっての。

 ってかテメェもそれ知っててミスティのバトル受けたんだろが」

「ボクはデリンジの使い方とエロチートの効果を確かめようとしただけですよ?」

「…は? おいおいちょっと待てよ。それじゃ、あのハートブレイク・アローでミスティが【オー】してなかったら、どうするつもりだったんだよ?」

「どうするもこうするも。負けてましたね、確実に」

「いやいや。お前、負けたらパーティから抜けるっていう掛け(アンティ)ルールだったろ? リスキーだとは思わなかったのかよ!?」


 多分、この事についてみんな勘違いをしている。

 この条件だと、ボクに不利益は一切発生しないよ?


「どこかです? パーティ抜けても、またパーティ加入申請すればいいじゃないですか?

『ヴェイグランツ』から脱退し再加入も出来ない(・・・・・・・・)だったら断ってましたけどね」


 ボクの言葉に、皆が口を『あ』の形をしたまま固まった。

 言葉のあやというヤツである。

 つまりさっきのバトル、ミスティさんだけがリスクを背負っていた事になる。

 そして見事ボクに負けたと。まあ、ボクへの逆恨みが原因のバトルだったし、自業自得かな。


「だからさっきのバトルでボクにリスクは殆どありませんよ?

 必要なのは、ひん剥かれてボコボコに痛めつけられる事の覚悟くらいです」


 いやそれだけでも相当な覚悟やん。

 この世界に来てまだ二日目だけど、エッチな目に遭い過ぎて感覚がおかしくなってるんとちゃうかボク。


「こりゃぁミスティが浮かばれねえな」

「あはは…私も。今回はミスティちゃんに同情するよ。ねえアイセちゃん?」

「ん? ああ…そうだな…」


 うん? 話を振られたアイセさん。ちょっと上の空だった?


「アイセさん? どうかしたんですか?」

「――皆、聞いて欲しい」


 真剣な声だった。そして緊張もしていた。あのアイセさんが、である。

 只事ではない、と皆も思ったのか小さなパーティは一瞬で静まり返った。


「ハルも、大事な事だ。ちゃんと聞いて欲しい」

「え、ええ。勿論…」

「アイセ。珍しくびびってんのか? ひょっとして――何かあったか?」


「――ああ。【ヴェタル】と会った」


 ライラさんが目を見開いた。かと思うと獰猛な笑みを浮かべる。

 まるで探し求めていた親の仇でも見付けたかのような、凶悪な笑みだ。


「やっとお出ましかよ! こんなド田舎に来た甲斐もあったってもんだなぁ!」

「【ヴェタル】って、誰です?」

「俺達『ヴェイグランツ』のターゲットだよ!」

「はー、やっと尻尾を出したんだね」

「長かった」

「え、ええと…」


 皆安堵したような表情を浮かべている。

 でも、その中にピンと張り詰めたような緊張を、ボクは感じ取ってしまった。

 話を聞く限りクエストのターゲットっぽいけど――強敵なのかもしれない。


「ハル。聞いてくれ。大事な話だ」

「は、はい」


 仮面越しにも、アイセさんが真剣だという事が伝わってくる。

 その【ヴェタル】という人は、それほど恐ろしい存在なのだろう。


「ヴェタルは冒険者ギルドが懸賞金を掛けているモンスターだ」

「ギルドが懸賞金を……強いんですか?」

「レベル100越え、って話だね」


 つっよ!? アイセさんと同クラスやん!?


「でも問題なのは単純な強さじゃねえ」

「どういう事です?」

「情報がねえんだよ」

「え…?」

「討伐に向かったパーティは8組、30人以上だ。が、帰還したのは一人だけ」

「えっ?」

「それもメンタルをバッキバキに折られちゃっててねぇ。

 まともに会話も出来ないくらいに精神をやられちゃってたの」

「えぇっ!?」

「聞き出せた情報は【吸血鬼ヴェタル】【レイドボス】【アイセ】の三つ。多分精神干渉系のアビリティ・アーツも持ってる」


 めっちゃ強そうやん!? いや、それ以前に――


「なんでアイセさんの名前が出てくるんです?」 

「分からないんだ。心当たりがまるで無い」


 って事は、逆恨みかな?


「まっ、人違いでも逆恨みでも何でも構わねえっての。

 どっちみち俺達ヴェイグランツに喧嘩を売ったって事には違いねえ。

 ボコボコにするまでだぜ」

「そうだね。私達なら軽い軽い♪」

「オイラの魔法で一撃」

「いや皆さん自信満々ですけど、レベルいくつなんです?

 相手100越えなんですよね? 怖く無いんですか?」

「121だ」

「92だよ」

「私98♪」

「85」 

「皆さん高いですね!?」


 アイセさんとライラさんのレベルは知ってたけど、ココノさんもネロちゃんも高い! ってかボクレベル1だよ!? このパーティに居ていいの!? 


「だからまあ、皆一緒なら平気だって♪」


 それなら、まあちょっとは安心出来るけど――


「あ、そう言えば【レイドボス】って言うのは何です?」

「ボスモンスターの事だね。ボスモンスターは二種類いるの。ダンジョンとか一定の場所を根城として、そこから動かない【ガードボス】。対して【レイドボス】っていうのは決まった拠点を持たなくて好き勝手に移動してるの。あとバトルの申請とか一切無しで問答無用で街や人を攻撃出来たりするね。あ、あと大量のモンスターを指揮出来るよ」

「メチャ厄介じゃないですか!? 街とか奇襲されたら対応出来るんですか!?」

「…出来ねえ時もあるな」

「他人事みたいに話さないで下さい!」

「慌てたってどーしよーもねえだろうが。どーんと構えて、出てきたところを返り討ちにしてやればいいんだよ」

「そうそう。どっちみち私達にはヴェタルの居場所が分かんないんだもん。じっとしてるしかないんだって」


 むぅ。


「まあ、そういう事だ。ただ、奴がこの街にいると分かった以上、こちらも常に警戒せざるを得ない。各自単独行動は控えてくれ。出かける場合は私も一緒についていく。私からは以上だ」


 ――やっばい。思ったよりもシリアスな展開になってきたぞ。

 ボク、皆から色々アイテムは貰ったし、いざとなったらエロチートも有るけど――それでもそんなおっかない吸血鬼の相手なんか務まらないぞ。何だったら足手まといだ。


「お? 何だよピンク。びびってんのか?」

「普通ビビりますよ!? いやそれよりも、何か今の内に対策を取るべきです!」


 そんな凶悪な敵が相手だ。何かあってからじゃ遅い。

 出来る事があるなら事前にやっておいた方が良い!


「ふむ……ハル。何か案があるのか?」

「そんな大した事は思い付かないですけど――相手が吸血鬼で、しかも身近にいるのが分かってるなら、アンデッドに特攻を持った装備やアイテムを予め用意しておくとか。他にもこの街に冒険者ギルドの支部があるなら、そこを通して滞在している冒険者達にも注意喚起をするべきかと思います。それも出来るだけ早く!」

「…成程」

「うん。良い考えだと思う。アイセちゃんとハルちゃんでギルド行ってきなよ。アイセちゃんが顔を見せたらギルドの人達もちゃんと動いてくれるだろうしね。ついでにハルちゃん用のアイテムとかも買ってきなよ」

「そうしよう。ハル。出られるか?」

「はい! すぐにでも行きましょう!」


 食事もそこそこに、ボクとアイセさんは席を立つ。

 吸血鬼【ヴェタル】か――どうにも嫌な予感する。

 家族からは良く、考えすぎだ、とか心配性だとか言われたりするけど――ボクの嫌な予感って、結構当たるんだよね。


 ふと、窓から外を見る。

 ボクの胸中を表したかのように、空は薄暗い雨雲に覆われていた。



 ***



 一方その頃、路地裏を進む少女剣士の姿があった。

 バトルがあった大通りから逃れるように進むのは、ミスティだ。

 高貴な生まれを思わせる端正で美しい顔も、今や痛々しい腫れや青痣で見るも無残な事になっていた。

 

「あのサキュバスあのサキュバスあのサキュバスーっ」


 ミスティの胸中はハルへの憎しみですっかり埋め尽くされていた。

 試合の最後などには好敵手ライバルとしてお互い認め合ったような空気もあったが――どうやらそれは幻想で終えたようだった。


(装備もレベルもそのままですが所持金は0、何より私が惨敗したせいでAFCから抜けていく会員が後を絶ちませんわ!)


 会費がふんだくれなくなるのは痛い。会員達の会費を利用して普段から派手に金を使っていたミスティにとって、所持金をロストする事と同じくらい会員離れは辛い状況だ。

 

(いえ、それだけじゃありません)


 ミスティは立ち止まり、震える手でメニューウィンドウを開いた。

 そう、問題はまだあるのだ。


『================


 名前:ミスティ=フォーエスト 

 性別:♀

 年齢:19

 種族:ヒューマン

クラス①ファイター(20/20)

   ②フェンサー(30/30)

   ③ソードダンサー(15/50)

 称号:クソ雑魚ナメクジ以下w

 状態:ヤローテメー

    ブッコロシテヤル!

 所属:AFC、冒険者ギルド

 ファミリー:フォーエスト

 パーティ:アイセ様を悪い虫から

      お守りし隊!


 LV:65

 EXP:1402/1570

 LP:135/138


 AP:143/143

 SP:202/202

 MP:200/200

 HP:0/198


 STR:288(-86)

 DEX:310(+86)

 VIT:288(-86)

 AGI:310(+86)

 INT:200

 MND:200

 LUC:198

 DES:198


 所持金:0Z


       PAGE:『1』/2/3/4  

 =================』


 称号が【AFC会長!】から【クソ雑魚ナメクジ以下w】になったのだ!


「く、屈辱ですわああぁぁっっ!!」


 プライドの高いミスティにとって、この称号は受け入れられる物では無い。

 しかも任意で外す事が出来ないのだ!

 これからバトルの度にこの称号を読み上げられるかと思うと、それだけではらわたが煮えくり返る想いである。


(全部、全部あのビッチサキュバスのせいですわああぁぁぁっ!)


 と、ハルへの復讐心を燃え上がらせている時だった。


「あらあら。AFCの会長ともあろう方がみっともない」

「っ!? 何者ですの!?」


 路地裏から急に出て来た人影に、ミスティは身構える。

 さっきまで人の気配は無かった。これでも一応ミスティの戦闘能力は高い。場数もそれなりに踏んでいる。だというのに声の主の気配を捉える事が出来なかった。

 まるで空間でも飛び越えて突如現れたかのような。


(何ですのこいつ!? 只者じゃありませんわ!?)


 先程対戦したハルのH魔法は確かに強力だったが、何の制約も無い普通のバトルでは簡単に回避出来るだろう。所詮実戦経験を伴わないレベル1だ。種が分かれば怖くはない。

 だが目の前のこの人物。黒いローブで全身を覆った、いかにも『悪役』なこいつは得体が知れない!


「バトルなら受けて立ちますわよ!?」

「ふふふ。違うわよ♪ バトる気は無いわ。むしろ逆。私は貴方の味方よ」

「…どういう意味ですの?」

「あのちびっこいサキュバスに仕返しする気は無い?」

「っ!?」


(それは、勿論ありますわ! しかし、どこの誰かも知れないやからの手を借りる必要性は)


「あのアイセを、独り占めしたくはない?」

「それはっ、でもっ」


 したいに決まっている。

 だが、そんな夢みたいな事はあり得ない事も分かっている。


「出来ないと思ってる? 大丈夫、私なら出来るわ」


 だが、何故だろう。

 この女性の声を聞いていると――何でも出来る気がするのだ。


(金色の瞳…綺麗ですわ…)


 フードの下から覗く金色の瞳は怪しくも美しい魔性の魅力を感じる。

 ぽつり、と鼻先を雨が湿らせた。

 どんよりと曇った空から、次々と雨が降り注ぐ。

 春の花の匂いを侵食するように、雨の香りが鼻を突いた。


「私に協力なさい。そうすれば貴方の願いなんて、いくらでも叶えてあげるわ」


 ローブの女が何時の間にか背後に回り、ミスティ体を背中から抱きしめる。

 傷ついた顔に、優しく指を這わせた。

 冷たい。雨のせいだけではない。この女の指が冷たいのだ。

 だが、それを恐ろしいとも不快だとも思わない。


(あ……これは、いけない。きっとこれは、悪魔の囁きですわ)


 彼女の声を聞き続ければ、きっと取り返しのつかない事になってしまう。

 そう直観するが、抵抗する事も出来ない。


 ――ミスティが気付く由も無い。

 その女の瞳を見た時点で、運命が決まってしまった事に。


「可愛そうなミスティ。こんなに傷ついて。でも心はもっと傷だらけ」


 頭を撫でられる。それが気持ち良くて、幸せで、子供扱いしないで、と振り払う気すら怒らない。耳元で囁かれる言葉が、心に、魂に染み込んでくるようだった。

 心地よい。ずっと抱きしめて欲しいとすら思ってしまう。


(でも、悪魔の囁きが、こんなに心地の良いものだなんて…)


 後ろから抱き留められるのが心地よい。

 頭を撫でられるのが幸せだ。

 まるで飼い主に撫でられるペットのように、体が脱力し、恍惚とする。

 この見知らぬ女性を、支えてあげたいとすら思ってしまう。


 ミスティの瞳から、意思の光が失われていく。


「私が癒してあげる。私が貴方の復讐を手伝ってあげる。

 貴方の高貴な魂を、私が再び取り戻してあげる。

 だから――私のモノになりなさい(・・・・・・・・・・)?」


 とんでもない事を要求されたというのにミスティに抵抗の意志は無い。

 むしろアイセにキスをされた時のように頬を赤らめ、乙女の顔をしながら――コクリ、と頷く。そしてか細い声で言うのだ。


「…は…い…♪」

「ふふ。良い子ね」


 ローブの女がミスティの首筋・・にキスをした。

 冷たい、まるで死人にされたかのような口づけ。

 だが、それだけでミスティの全身が多幸感に満たされた。

 思わず、はん♪ とはしたなくも色っぽい声が漏れてしまう。


「良い子にはご褒美を上げるわ。人間には得られない強大な力と」


 ぺろり、と女が唇を舐める。

 血のように真っ赤なリップを引いた妖艶な唇から、凶悪な一対の牙が覗いた。


「闇の魂をね」


 そうして先程キスをした首筋に、女は牙を突き立てた。


 次回投稿は9/7(月)AM8:00の予定です。


 以下オマケコーナーの【プリーズテルミー! リリウム様!】

 お題は『ミスティの称号ってどんな効果?』


『=================

      AFC会長!

 =================

 取得条件


 1、AFCの設立

 =================

 説明


  今や時の人となった【アイセ】の

  ファンクラブを作った貴方の功績は

  偉大! イケメンなアイセちゃん

  には女の子のファンが続出するから

  貴方はそれを管理、制御する義務と

  権利があるよ!


  称号の効果で金運と先を見通す力が

  上昇!


  バトル時の獲得Zが15%上昇!

  アイセちゃんの居場所もフワッと

  だけど分かるようになるよ!

 =================』




『=================

    クソ雑魚ナメクジ以下w

 =================

 取得条件


 1、バトルでレベル1の敵に敗北

 2、自身のレベルが50以上

 =================

  説明


  あーあ。やっちゃったね~。

  この称号は、所詮格下相手にw

  と舐め腐った挙句に返り討ちに

  遭ったお馬鹿さんに送られる

  称号だよ~。


  効果は

 1、【ライトサーブ】で絶対に

   勝てなくなりまーす。

 2、バトル中、被クリティカル率が

   20%上昇。

 3、バトルで敗北時に所持アイテムを

   一つランダムドロップ。

 4、バトル敗北時に所持金を25%

   ドロップ。

 5、バトル敗北時相手のボーナス

   タイムが倍化。 

 

  この称号を付けている限り君に

  明日は無い!

  早く別の称号に変えよう!


  あ、分かってると思うけど~?

  この称号は取り外せないよ~?

 =================』



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