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第1話 真偽館殺人事件

*主な登場人物*

<メインキャラクター>

・日裏(ひうら) 零一(れいいち) 25歳 男性

本作の主人公。諮問探偵。

・日隠(ひがくれ) 雪(ゆき) 19歳 女性

零一の助手。零一の師匠の娘。

・蛇塚(へびつか) 晃侍(こうじ) 25歳 男性

警視庁捜査一課強行犯三係の刑事。階級は、警部補。零一の親友。

・絞結(こつけつ) 歩(あゆむ) 23歳 女性

ルポライター。零一の友人。高校時代の後輩。


<事件関係者>

・日暮(ひぐらし) 夕輔(ゆうすけ) 28歳 男性

ルポライター。歩の先輩。

・大隣(おおどなり) 強士(こわし) 50歳 男性

審議館の館長で、元弁護士。

・声高(こえたか) 富興(ふきょう) 33歳 男性

弁護士。大隣の弟子。

・小越(こごえ) 弱夜(じゃくや) 24歳 男性

審議館の職員。

・日食(ひじき) 皆斗(かいと) 23歳 男性

審議館の職員。零一の大ファン。弱夜とは、親友。

・深石(ふかいし) 騒子(そうこ) 41歳 女性

審議館の清掃員。

☆真偽館(しんぎかん)殺人事件☆


 午前6時。東陽市(とうようし)にある家の部屋に、春の日差しが差し込んだ。その部屋にいた1人の男性がベットから起き上がった。その人物が、窓の外を覗くと、桜の花びらが、風で数枚、宙を舞っていた。

 「おはようございます。零一様。」

 すると、女性の声が聞こえた。

 「おはよう。雪。」

 その人物は、そう返事をした。彼の名前は、日裏(ひうら) 零一(れいいち)。諮問探偵をしている。諮問探偵とは、国公認の探偵組織であり、仕事は主に、警察などの公的機関からの依頼、名のある政治家や芸能人からの個人的な依頼を引き受けて、それを解決することで報酬を得ている。もちろん、一般の人からの依頼も引き受けることはある。

 そして先ほど、零一に声をかけた女性は、日隠(ひがくれ) 雪(ゆき)。零一の助手で、零一が住んでいる家の同居人だ。

 「今日は、私が朝ごはんをお作りになりました。まだ温かいので、冷めないうちに来てくださいね。」

 「ああ、分かった。」

 零一がそう言うと、雪は、部屋から出ていった。零一は、少し眠いのか、あくびをしていた。だがこれは、仕方がないことだ。昨日の午後11時半に、突然、零一の元に、探偵組織から数ヶ月前に、解決した事件の資料が必要となったことで、急な調べ物をしなければいけなくなったからだ。実際、その時の資料は、机の上に起きっぱなしなっていた。

 零一は、ベットから起き上がると、朝ごはんを食べて、顔を洗い、歯を磨いて、服を着替え、身支度を整えた。

 「雪。そろそろ。出るぞ。」

 「はーい。」

 雪は、そう返事をして、玄関に向かった。そして、玄関の下駄箱の上に置いてある写真を見て立ち止まった。

 「行ってきます。お父さん。」

 零一は、その様子を見ていた。そして、雪が玄関を出ると、扉を閉めた。


 * * *


 零一が運転していた車は、ある建物の駐車場で止まった。零一と雪が車から降りると、

 「零一さぁーん。」

 男性の声が聞こえた。そして、零一の元に近づき、その後、右手の中指と薬指でメガネのブリッジを触った。おそらく、メガネがずれたのだろう。

 「おはようございます。夕輔さん。」

 零一は、そう返した。この人物の名前は、日暮(ひぐらし) 夕輔(ゆうすけ)。仕事は、ルポライターをしている。

 しかし、雪は、夕輔が来たのに驚いたのか、零一の後ろに隠れた。

 「おはよう。零一さん。雪ちゃんも、相変わらずね。」

 すると、夕輔と一緒にいた女性が話しかけた。彼女の名前は、絞結(こうけつ) 歩(あゆむ)。夕輔と同じ、ルポライターであり、零一とは、高校生の時からの友人だ。

 「おはよう。歩。」

 零一は、そう返した。

 「おはようございます。夕輔さん。歩さん。」

 雪は、そうか返した。挨拶が終わると、4人は、建物へと向かって、歩き出した。雪は、零一の後ろから離れ、歩と手を繋いで歩いた。

 「すまないねー。昨日の夕方に、急な依頼を申し込んでしまって。」

 「別に構いません。特に、これといった用事はありませんでしたし。」

 「そうですか。それなら、安心しました。」

 零一と夕輔がそう会話していると、建物の入り口近くに到着した。

 「夕輔さん。ここが。」

 雪がそう言った後、夕輔が、メガネのブリッジを右手の中指と薬指で触った後に、こう言った。

 「そうーです。ここが、昨日電話でお伝えした様々な裁判の記録が資料として、保管されている博物館・"審議館(しんぎかん)"です。」


 * * *


 午前9時前。零一たちは、審議館の中にいた。すると、2人の男性が近づいて来た。

 「いやー、夕輔さん。お待ちしておりました。そちらが、例の探偵さんですか?」

 その人物は、零一の元に近づくと、名詞を出した。

 「私、この審議館の館長をしております。大隣といいます。」

 「どうも。」

 零一は、名刺を受け取った。名刺には、大隣(おおどなり) 強士(こわし)と書いてあった。

 「ちなみ私は、こういうものです。」

 その人物も零一に、名刺を渡した。名前は、声高(こえたか) 富興(ふきょう)と書かれていた。

 「声高さんは、"弁護士"、何ですか?」

 「はい。これでも、実力には、自信があります。全盛期の頃の大隣師匠には、まだまだ、実力も迫力もありませんが。」

 「師匠。もしかして、大隣さんって、元弁護士なんですか?」

 雪がそう尋ねた。

 「はい、その通りです。でも今は、お聞きの通り、この審議館の館長をしています。最近は、昔自分が担当した事件も見つつ、他にどんな裁判が行われ、どのような審理があったのかを確認するのが、日課になっていますがね。」

 「師匠。そろそろ、本題に入ったほうが良いのでは。」

 声高が、大隣の耳元でつぶやく。

 「そうだな。皆さんに無駄話をしに来たわけじゃないしな。それじゃ、皆さん。ロビーに案内します。ロビーに着きましたら、ご自由の席にお座りください。」

 そうして、零一たちは、審議館のロビーに案内された。ロビーには、すでに、大隣や声高よりもかなり若い、白い服に黒いズボンを履いた男性が1人、部屋の掃除をしている白い服に黄土色のズボンを履いて、服の上に緑色のエプロンを着た清掃員らしき女性がいた。零一たちは、それぞれソファーに着席した。

 「日食くんと、深石くん。しばらくの間だけ、部屋の外に待っていて欲しいのだが。構わないかな?」

 大隣が、2人に尋ねた。

 「構いません。でも、皆さんにお飲み物を出すために、じゃく、いや、小越さんが、出入りすることがあるということだけは、事前に伝えておきます。」

 若い男性の方は、そう答えた。どうやら、この審議館の職員らしい。

 「別に、構わないですよ。でも、あまり汚さないでくださいね。掃除したばかりですから。」

 女性の方がそう答えた。見た目から、感じていたが、どうやら、清掃員で間違いないらしい。

 その2人は、退出しようとした。すると、職員の男性のズボンのポケットが鳴ったので、スマホを取り出した。それを確認していると、それに気を取られすぎたせいか、または、掃除で床が滑りやすくなったかは、分からないが、左足を滑らした。そして、最悪なことに、

 「館長。お飲み物をお持ちしました。」

 全身黒いの服装をした男性が入って来て、大隣たちのいるところに、向かっている途中で、先ほどの職員と、ぶつかってしまった。

 持っていたお茶は、床やテーブルに溢れた。零一たちには、当たらなかったが、館長の大隣だけは、無事では、なかった。頭に紙コップが乗っかり、服やズボンも濡れていた。

 「大丈夫。弱夜(じゃくや)。」

 「大丈夫。皆斗(かいと)の方は。」

 2人は、どうやら、気づいていなかった。それが火に油を注ぐ結果となったのかは、分からないが。大隣は、2人の方を睨んで言った。

 「貴様。どういうつもりだ。」

 先ほどの2人は、そのことに気付いた。

 「すみませ・・・」

 皆斗と呼ばれていた職員が、謝罪をしようとすると、

 「すみません。館長。私のミスで、とんだご無礼を。」

 弱夜と呼ばれていた職員は、頭を下げて謝罪した。

 「すみませんが、お客様。少しの間、お待ちください。」

 大隣は、そう言って出ていった。

 「ごめん、弱夜。僕のせいで。」

 「別にいいんだよ。誰にだって、ミスは、あるし。それに、僕たち、親友だろ。」

 「・・・。やっぱり、僕、館長と少し、話をしてくる。」

 皆斗は、そう言って出ていった。

 「全く、さっき掃除たばかりなのに、これだから、最近の若者は。」

 清掃員の女性は、弱夜にそう言うと、出ていった。

 「すみま、・・・せん。」

 言われた言葉刺さったのか、弱夜は、かなり小さな声でいった。

 「全く、そんな小さい声してるから、ミスをするだよ。もっと、腹から声を出せ。」

 声高は、そう言った後、弱夜の腹を掌で叩いた。そして、ロビーを出ていった。

 「あの、大丈夫ですか?」

 歩が、そう尋ねた。

 「はい、問題ありません。私も、退出するので、館長が来るのを待っていてください。」

 弱夜は、そう言って、出ていった。


 * * *


 しばらく、沈黙の時間が流れた。

 時間は、午前10時前になっていた。すると、清掃員の女性がやって来て、床の掃除を始めた。

 その後、午前10時ぴったりに、皆斗が入って来た。数分して、清掃員の女性は、ロビーから、出ていった。

 そして、午前10時半前。

 「うぁぁー。」

 どこからか、叫び声が聞こえた。

 零一たちは、一斉に部屋を出ると、2階から、声高の声が聞こえた。零一たちは、階段を登って、2階に行くと、

 「おい、誰だ。誰がそこにいる。」

 声高は、そう言いながら、ドアを叩いていた。

 「どうしたんですか。声高さん。」

 メガネのブリッジを触った後に、夕輔が尋ねると、

 「さっき、師匠の声が聞こえて、そこの部屋から出たら。ドアが勢いよく閉まったんだ。最初は、師匠が閉めたのかと思ったんだけど、私が来た途端に、鍵を閉めた音がしたのを思い出して、もしかした、誰かいるのではないかと思いまして。」

 「この部屋の鍵って、ありますか?」

 歩がそう尋ねた。

 「はい。一応、合鍵は、私が1つだけ所有しております。犯人がいると考えると、1人で行くのは、不安だったので。」

 「では、お願いします。」

 零一がそう言った後、声高は、鍵を鍵穴差し込んだ。そして、鍵を開けた。零一たちは、ゆっくりとドアを開けた。すると、何かがドアにぶつかった。ぶつかったものを見ると、それは、狩猟用のライフル銃だった。

 「零一様。あれ。」

 雪が、指を刺した方向を見ると、頭から血を流した。大隣の姿があった。

 零一は、大隣に近づき、首に手を当てたが、

 「ダメだ。もうなくなっている。雪。警察に連絡してくれ。」

 「分かりました。」

 雪は、そう言うと、スマートフォンを取り出した。

 「何かあったの。」

 1階にいた清掃員の女性がそう言った。その後ろには、弱夜の姿もあった。

 「大変なことが起こった。館長が、頭から血を流して、亡くなっている。」

 「え。」

 2人は、驚いた顔をした。


 * * *


 しばらくして、警察が到着した。

 「また、事件に巻き込まれたのか。」

 1人の刑事が、零一に話しかけた。

 「そうみたいだな。」

 「まぁ。お前は、諮問探偵だからな。前にあった高校生探偵が何度も事件に遭遇したって、わけでもないから、そこまで驚きは、ないんだけどな。」

 零一に話しかけたこと刑事の名前は、蛇塚(へびつか) 晃侍(こうじ)。階級は、警部補。そして、零一の親友だ。

 「それじゃ、晃侍。そろそろ、そちらで分かっている情報をこちらにも共有してくれるか?」

 零一がそう言ったら

 「ああ、そうだったね。被害者は、この審議館の館長の大隣強士さん。50歳。現場は、この館長室で、凶器は、鑑識からの報告によると、床に転がっている狩猟用のライフル銃で間違いないらしい。ライフル銃の柄の部分が被害者の額の傷口とも、一致したから、その部分で殴られたことによる撲殺で間違いないそうだ。」

 「現場の状況は?」

 「この館長室の窓は、4mの高さにある換気窓を除けば、すべての窓は、はめ殺しになっている。お前の話だと、ここは、密室に近い状況だったらしい。もし犯人が中から脱出するには、あの換気窓しかないらしい。大きさも、細身の人間であれば、誰でも出入りできるらしい。だか、4mもあるから、登るのは、難しいだろうね。それこそ、忍者でもない限りは。」

 「・・・。それで次に、被害者については、何か分かったことは?」

 「被害者は、どうやら、釣りと狩猟が趣味だったらしい。その証拠に、凶器のライフルは、被害者の持ち物だったし、館長室には、魚拓が飾ってあったから。」

 「そうか、それで。事件関係者と彼らからの情報は、それは今から行うところだ。もちろん、お前も同行してくれよな?」

 「ああ、もちろん。」


 零一と晃侍は、ロビーに来た。事件の関係者は、全員、ここで待機していた。

 「皆さん。お待たせしてすみません。今から、簡単な聴取を取りますから、どうぞ、ご協力をお願いします。その前に、あなたがたのお名前をお伺いしてもよいですか?」

 晃侍がそう言った。

 「はい。では、私から。私は、声高富興。弁護士です。」

 「僕は、小越(こごえ) 弱夜(じゃくや)です。ここの職員です。」

 「僕も、ここの職員です。名前は、日食(ひじき) 皆斗(かいと)です。」

 「私は、深石(ふかいし) 騒子(そうこ)。ここの清掃員よ。」

 深石だけ、落ち着きがないような感じをしているのか、目が様々な方向に泳いでいた。

 「それでは、事件発生時の皆さんの行動を教えてください。」

 「私は、2階の資料室で、資料を見ておりました。そしたら、師匠の声が聞こえたので、現場に向かいました。」

 声高がそう言った。

 「僕は、その時、1階のスタッフルームにいました。」

 弱夜がそう言った。

 「僕は、そこの探偵さんたちと一緒にいました。そうでしたよね。」

 「ああ、間違いない。」

 皆斗がそう言うと、夕輔もそう答えた。

 「それは、私たちも保証するわ。」

 歩もそう言った。

 「私は、しばらくは、このロビーで、この人たちと一緒にいたけれど、事件が起きる少し前に、トイレ掃除に向かって、そのまま、トイレを掃除していました。」

 深石がそう言った。

 「日食くん。だったけ。どうして、僕が探偵だと?」

 零一が皆斗に尋ねた。

 「え?」

 「まだ僕は、君に自己紹介していないよね。どうして、分かったんだ。」

 皆斗は、顔を下に向けたが、

 「それは、あなたのファンだからです。零一さん。」

 零一の手を握ってそう言った。

 「え?」

 零一は、少し引いた感じでそう言った。

 「探偵さんのファンになってから、探偵さんが今まで、解決した時間を見返すようになって、その時に、何度も顔を拝見したので、だから、顔も覚えていたんですよ。」

 皆斗は、目を輝かせながら、そう言った。

 「あ、ありがとう。」

 零一は、そっと、手を離して、皆斗を座らせた。

 「話を戻してもいいですね。皆さんは、被害者に恨みを持っている人に心当たりはありますか?」

 晃侍がそう尋ねると、深石が答えた。

 「もちろん、ありますよ。そこの職員2人なんて特にね。」

 「それは、どう言うことですか?」

 メガネのブリッジを触った後、夕輔が、そう聞いた。

 「あまり、死んだ人のことを悪くは言いたくないんですが、館長は、一度怒りのスイッチが入ると、激しく怒鳴りつけることがあるんです。もしかしたら、仕事でミスをして、そのことを恨んでいるのでは、ないかと、思いまして。」

 「まあ。」

 弱夜がそう言った。

 「否定は、しませんけど。」

 皆斗がそう言った。

 「いや、私としては、横領犯が怪しいと思っています。」

 声高がそう言った。

 「どういうことですか。声高さん。」

 零一がそう尋ねた。

 「今日、ここにあなたを呼び出したのは、この審議館のお金を着服、つまり、横領している人を見つけて欲しいという依頼をするためだったんです。なので、もし、横領のことがバレるのを恐れて、横領犯が師匠を殺害したのではないかと、思いまして。」

 「なるほど、確かに、その可能性は、否定できませんね。」

 晃侍がそう言った。零一は、声高の発言している時に、下を向いていた人物を見つけて、話しかけた。

 「どうしましたか?深石さん。」

 「あー、いえ。なんでも。」

 また、目を下にして答えた。

 「あくまで、推測ですが、横領犯に心当たりがあるんじゃないですか?」

 「え、え?」

 大きな声でそう言った。

 「その反応。どうやら、本当に心当たりがあるようですね。」

 「まさか、あんたが盗んでいたのか?」

 声高がそう言った。

 「ち、ち、ちが、う。何か、証拠でも。」

 「今は、ありません。でも、横領されたお金のナンバーを調べて、あなたの身辺を徹底的に調査すれば、証拠の1つや2つは、見つかるかもしれませんね。」

 零一がそう言うと、

 「今のうちに、認めた方が、後々、楽ですよ。」

 晃侍がそう言うと、

 「はい。私が、横領犯です。」

 深石は、罪を認めた。だが、

 「で、でも。私は、殺人は、やっていない。だって、私、その時は、本当に、トイレ掃除をしていたんです。信じてください。そ、それに、凶器は、狩猟用の銃で、大隣さんは、頭を撃ち抜かれていたんでしょう。だったら、ここにいる人間は、みんな怪しいわ。だって、私も含めて、ここにいる全員が狩猟用のライフルの銃の免許を持っているですもの。」

 「とりあえず、落ち着いてください。私と晃侍も、あなたが殺人犯とは、一言も言っていませんよ。」

 零一のその言葉を聞いたのか、深石は、少し安心した様子で、ため息をついた後に、座った。

 「そういえば、声高さん。1つ確認をしても良いですか?」

 零一は、そう尋ねた。

 「何でしょうか?」

 「館長室の鍵は、いくつありますか?」

 「師匠が持っているものと、私が持っているものの2つだけです。」

 「その鍵の1つは、館長室の机の引き出しに入っていたのを、捜査員が確認している。」

 晃侍が、そう言った。

 「となると、あの密室が作れる人間は、あなたしか、いない。声高さん。」

 皆斗がそう言った。

 「は?何で、そうなる。」

 声高は、そう言った。

 「で、でも。現実的に考えると、そうとしか。」

 「違う。私じゃない。これは、罠だ。何かの罠だ。」

 「その通りです。声高さんは、犯人じゃない。」

 「え?」

 零一のその声を聞いて、声高は、驚いた口調で言った。

 「それでは、零一様。」

 雪がそう言った。

 「ああ、この事件の謎は、全て解けた。」


 「それって、どういうことですか?零一さん。」

 皆斗がそう言った。

 「そのままの意味ですよ。日食くん。この事件の犯人は、声高さんじゃない。別にいるんだ。」

 「それじゃ、教えてください。誰が犯人なのか、どうして、声高さんは、犯人じゃないのかを。」

 「そうだね。まずは、声高さんが容疑を外れる理由を説明しよう。その根拠となったのは、現場のドアを開けた時、凶器のライフル銃がドアにぶつかったことだ。」

 「零一さん。それが、何の根拠になるんですか?」

 歩がそう尋ねた。

 「確かにこれだけなら、根拠にはならない。しかし、声高さんは、ドアを勢いよく閉める光景を目撃している。だが実際には、ライフル銃がドアを開けた時に、ぶつかっている。これは、おかしなことなんだ。」

 晃侍は、少し考え込んでいたが、すぐに何かに気付いた。

 「確かに、それは、おかしい。」

 「どういう、ことですか?刑事さん。」

 メガネのブリッジを触りながら、夕輔がそう尋ねた。

 「いいですか?もし、ドアが勢いよく閉めたのならば、その時に、ドアにライフル銃が、ぶつかることは、ありえても、その後に、ドアを開いたとしても、決してぶつかることはないんだ。」

 「そう、なんですか?」

 歩は、まだ納得していない感じだった。

 「なら、これを見てください。こうしたら、分かりやすいので。」

 雪は、ロビーのドアを開けて、その部屋にあったリモコンを床に置いて、ドアを閉めると、リモコンに当たって、リモコンは、相対値よりズレた。そして、ドアを開けて、閉めてを繰り返すと、リモコンに当たることはなかった。

 「分かりやすくいうと、ドアを開けた時も、閉めた時も物が当たったら、近くにその物を動きを止めるような物がない場合を除くと、再び、ドアを開け閉めしても、最初に当たった時と、位置が変わり、その位置が、ドアに当たらない距離になるから、再び物が、当たることはない、ということであっているよな?零一。」

 「ああ。その通りだ。そして、なぜこのようなことが起こったのか、それは、犯人が、声高さんが部屋の前に来た時に、まだ館長室にいたということ、つまり、声高さんの証言には、信憑性があるということを意味している。」

 「確かに、今ので、声高が犯人では、ないということは、分かりましたが。だったら、犯人は、どうやって館長室から、脱出したんですか?館長室には、鍵がかかっていますし、仮に、館長室から出られたとしても、部屋の外には、声高さんたちがいて、逃げられるような状況じゃ、ありませんよ。」

 皆斗は、そう言った。

 「それは、違うよ。日食くん。館長室から出る方ができる場所は、1つだけ残っていた。それは、換気窓だ。」

 「か、換気窓。でも、換気窓までは、それなりに高さがありますよ。一体、どうやって。」

 「確かに、普通の高さの人間には、とても不可能なことだ。しかし、あの現場にあったライフル銃を使えば、それも可能だ。」

 「ライフル銃?零一、それを使って、どうやって、脱出するんだ?」

 晃侍がそう言った。

 「晃侍。その方法は、お前が言ったことだぞ。」

 「え?」

 「言っただろ?忍者でもない限り、登れないって。」

 「・・・。あ、そうか、忍者の壁登り。」

 「忍者の壁登り?」

 雪がそう言った。

 「忍者の壁登りっていうのは、忍者が、自身の刀を壁に立てかけて、その刀の鍔を足場にして、壁を登る技のことよ。」

 歩がそう言った。

 「つまり犯人は、刀の代わりに、ライフル銃の銃口を下に、柄の部分を上にして、壁に立てかけて、柄の部分を足場にして、換気窓まで登った後、それを隠すために、被害者が趣味の釣りで使っていた釣り糸をライフル銃の引き金部分に、通しておき、換気まだまだ登った後に、それをなるべく音がしないようにして、壁から離れた場所まで、放り投げた。しかし、ドアに近づけすぎるというミスをしてしまった。」

 「それで、犯人は?」

 皆斗がそう尋ねると、零一は、答えた。

 「これは、君だ。」

 零一が指名したのは、皆斗の横に座っていた人物だった。皆斗は、驚いた顔をした。

 「そんな、嘘だろ。」

 その人物は、小越弱夜だった。


 「零一さん。何言っているんですか?弱夜が犯人な訳、ないじゃないですか。だって、彼は、僕の親友です。それに、今朝のことだって、僕の不注意で起こったことなのに、自分一人で、責任をとってくれて、こんな優しい奴が、殺人犯だなんて。ありえません。何か、決定的な証拠でも、あるんですか?」

 「もちろん。あります。」

 零一の言葉に、皆斗は、引き攣ったような顔をした。

 「この事件は、凶器が、被害者の持ち物であったことから、おそらく、衝動的な犯行だ。そして、声高さんが来た時は、おそらく、犯行直前のことだったはずだ。おそらく、服を着替える時間もなかっただろう。だったら、被害者の返り血を隠すことができるのは、全身黒の服装をしている。小越さんだけだ。」

 「で、でも。それなら、深石さんの場合でも、脱出後に、着替えてきたということにすれば、説明は、つきます。」

 「いいや。それは、ありえない。だって、深石さんは、先程、"頭を撃ち抜かれた。"と、まるで、銃殺されたかのような発言をしていた。これは、君が、被害者が、"頭から血を流して、亡くなっている。"と、凶器が見慣れた狩猟用のライフル銃であること、そして、事件現場を見ていなかったことによる誤った認識だ。深石さんが、犯人なら、そんな間違いをする訳がないんだ。」

 「で、でも。」

 「もし、納得できないのなら、小越さんの服を調べてみるといい、きっと、服には、大量の返り血が残っているはずだから。」

 「分かりました。それで、何も出なかったら、弱夜の容疑が晴れるなら。それじゃ、弱夜、調べてもらう。」

 皆斗は、弱夜の肩を掴んだ。

 「もう、いいよ。皆斗。」

 「え?」

 弱夜の声を聞いて、皆斗は、手を離した。

 「こんな僕を、これ以上、庇わまないでくれ。」

 「そんなこと言うなよ。まだ、決定的な証拠が出た訳じゃ。」

 「証拠は、出ているよ。君の手の中に。」

 「え・・・、は。」

 皆斗が自身の手を見ると、手のひらには、血が付着していた。

 皆斗たちは、それ見て、呆然とした。

 「弱夜。どうして。」

 皆斗が、そう尋ねると、弱夜は、答えた。

 「皆斗。話す前に言っておく、お前は、悪くない。悪いのは、僕自身だ。」

 弱夜は、落ち着いた声で言っていた。

 「お前には、話したことがあるだろう。僕のトラウマのこと。」

 「もちろん、覚えているよ。中学生の頃、人生で初めて行った職員室のことだよね。」

 「そうだね。確か曜日が、金曜日で、毎週その日に持って帰っていた給食で使うエプロンなどが給食袋を教室に忘れて、それを取りに行くために、鍵が必要で、僕は、その日に、人生で初めて、職員室に行くことになったんだ。そしたら、ただでさえ、初めてのことで、緊張して、声が出にくい中、団長先生が、『もっと大きな声を出せ。』や、『そんなんじゃ、社会で苦労するぞ。』とか言われて、挙句の股には、そんな疲れもあって、その後に、『はい。』と言う返事がかなり小さくなって、それが原因で、聞こえなかったのか、その後に、机を叩かれて、『返事もできんのか。』って、大きな声で怒鳴られてさぁ。そしてそのことが引き金になったのかは、分からないけど、しばらくしてから、大きな声が耳障りになり始めて。音楽を大音量で、聞くのなら大丈夫だと気づいたけれど、人が発する無駄に大きい声を聞くと、そのことに敏感となって、気分が悪くなるように感じるようになったね。さらに、声を出すことにもさらに、恐怖心も覚え始めるようになって、大声を出すことに躊躇(ためら)うようになって、余計に声を出せなくなったね。だって、僕の場合は、お腹から声を出す時が、相手に怒鳴りつける時くらいしかなかったから。そして、そんな悩みを理解してくれる人も、人生の中で、皆斗だけだったから。そして、今日ね。例のことがあったから、館長に呼び出されたね。色々、言われたよ。『お前は、ミスばかりするできない奴だ。』とか、『声が小さくて、何言っているか、理解しにくいんだから、もっと腹から声を出せ。』って言われたから、お腹を叩かれるとか、当然、何も感じていない訳じゃなかったけれど、そこまでだったら、僕にも非があることだから、殺意にまでは、変わらなかった。でも、最近、夜に何度も目が覚めて、疲れていたこともあって、最後の、『返事は。』の後に、言った『はい。』が、人生で一番小さい声で言ってしまったね。そのことに、気づく前に。館長から。」

 両手で机を叩いて。

 「返事もできんのか。」

 大声で、怒鳴った後、そして、今度は椅子から立ち上がって、右手だけを机で叩いた。

 「そんな常識的なこともできん奴は、いらん。お前みたいな奴は、クビだ。急いで、審議館(ここ)から出ていけ。」

 さらに、大声で、怒鳴られた。

 「その時ね。僕の心に何かが突き刺さって、館長が一度、出ていった後、それは、殺意に変わっていった。そして、いつも、ライフルを保管しているところの鍵を壊して、待ち伏せた。そして、館長が帰ってくると、ライフルを振り上げました。」

 全員が、沈黙して聞いていた。

 「その後に、我に帰りましたが、その時には、何もかも、遅すぎました。館長は、死んでいて、部屋を出ようとしたら、声高たちがやって来て。咄嗟に脱出することを考えついて、よくできたと思っていましたが。やっぱり、悪いことをしたら、隠し通すことはできませんね。」

 (小越さんの最後の言葉は、まるで何か重たいものが取れたような、そんな感じの言葉のように感じた。)

 零一は、そう思った。

 「それでは、お願いします。」

 弱夜は、晃侍に向かって手を出した。

 「小越弱夜。殺人の容疑で逮捕する。」

 晃侍は、手錠をかけた後、そこを布を被せて、隠した。

そして、連行しようとしたが、

 「弱夜。ごめん。僕のせいで、こんなことに。」

 皆斗がそう言ったが、

 「気にしなくてもいい、皆斗。それに言っただろ。お前は、悪くない。悪いのは、僕自身だって。」

 「弱夜。」

 「それに、この件がなくても、僕は、人を殺していたかもしれない。例えば、『これだから、最近の若者は。』を無駄に大きな声で言っている人とか、『もっと大きな声を出せ。』と言った後に、お腹を叩く人とか。僕は、偏見で見られたり、お腹を立たかれたりされること、本当に嫌だったから。」

 弱夜は、一瞬、声高と深石を見て、そう言った。彼らは、そのことに気づいているのかは、分からないが、呆然としていた。

 零一たちは、その様子を黙って見ていた。弱夜が、パトカーの中まで、連行されるまでは。

 こうして、審議館で起こった殺人事件は、幕を閉じた。


 (しかしこの時、俺たちは、まだ気づいていなかった。この審議館での殺人事件は、これから遭遇する数々の大事件のほんの一部に過ぎなかったということを。)


* * *


 事件から、しばらく経った後、声高は、夜の公園のベンチで、審議館での殺人事件が書かれたニュース記事を見ていた。

 「ふふ、あーはっはっは。」

 声高は、高笑いをしていた。

 「いやー。俺の弱みを握っている奴が、この世から消えてくれて、本当に良かったわ。それにしても、師匠思いの弟子を演じるのは、本当に疲れるわ。まぁ、これが、俺の経歴に少しでも、残るようになるのであれば、安いもんだなぁ。」

 しかし、彼は、気づいていなかった。自分に近づいてくる。足跡に。そして、その足跡が、声高の前で止まると、

 「なんだあん・・・」

 口にサイレンサーを入れられた。もちろん、サイレンサーの後ろには、拳銃もあり、その手は、引き金を押さえていた。そして、「パン。」という少し小さな音が響く。声高は、口から、血を流して、絶命していた。

 すると、その人物は、急に振り返った。その顔は、能の面の1つである"痩女"のお面を被って、隠されていた。

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