第104話 勇者ふてくされる
海底洞窟に捕らわれていたローザ姫だが、保護した俺に蹴りを入れるくらい、元気だった。
俺は早くお城に連れ帰らないと、って少し焦る。
ほんと、いつまで海底洞窟に留まるんだ?
「よいしょ、と。」
「きゃ。」
俺はローザを抱きあげる。
「は、離してよ。」
ローザは暴れるが、俺はそのままローザを抱きしめる。
「ヒーリング。」
俺はそのまま、ローザに回復呪文を唱える。
これでくじいた足も、治ったはず。
「さ、もう大丈夫だぞ。」
俺はローザから手を離す。
「きゃ。」
ローザは反射的に、俺にしがみつく。
「ん?」
俺はローザに回復呪文を唱えるのに、また蹴られたらかなわんから、嫌がるローザを抱きあげた。
なのに、足が治ったローザは、俺から離れようとしない。
俺の後ろで、ユミコがくすくす笑ってる。
その意味が分からんが、今はローザを何とかしないと。
「なあローザ。いつまでしがみついてんだよ。
触るなとか言ってたのにさ。」
俺は幼いローザに、優しく言ったつもりだが、その言葉にはやはり、少し怒気がこもる。
「だ、だっこしてって、言ったでしょ。
あ、歩きたくないのよ。」
ローザは俺の胸に顔を埋め、表情を隠す。
そういえば、言ってたな。
「分かったよ。」
「きゃ。」
俺はローザの尻の下に回した左腕で、ローザをはね上げて、そのままだっこする。
世間一般では、お姫様抱っこってのがある。
だけどまだ幼いローザには、普通のだっこで十分だろう。
ユミコはまだくすくす笑ってる。
ほんと、意味分からない。
そんな俺の耳元で、ローザはつぶやく。
「かかったわね、勇者ユウタ。
私にはドラゴンさんの仇はうてない。
だけど、こうして魔物との戦闘を、邪魔する事は出来る。
私ごと、殺されるがいいわ。
くくくく、私の怨み、思い知りなさい。」
「あのねローザ。
そーゆーのは心の中で思うだけで、口に出しちゃダメだよ。」
俺も思わず、心に思った事を口にする。
「あら、何の事かしら、勇者様。」
ローザはすっとぼける。
ユミコはくすくす笑ってる。
「勇者様ってさあ、なんなの?
俺には姫って呼ぶなって言っといて、不公平なんじゃない?」
「そうかしら、勇者様。」
「むか。」
ローザの何気ないひと言に、俺はおとなげもなくムカついた。
俺はその場に腰をおろす。
「ちょっと勇者様。どうなさったのですか。」
ローザは俺にしがみついたままだ。
俺も、なんでムカついてんのか、よく分からない。
姫と呼ぶなって言うから、俺はローザと呼んだのに。
そのローザが勇者様って呼ぶ。
なんだか知らんが、気分の良いものではない。




