80話 戦慄の殲滅女王
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笹本がインフルエンザで傷病兵扱いになっている状況でも艦隊は動いている。
「ところでサナエ、このような時期にインフルエンザって流行っているものなの?」
「流行ってなんかいません。ただ先輩さんは時期がずれて罹患する事が多いと妹の四つ葉ちゃんが言っていました」
1月2月にそう言えばインフルエンザで傷病兵になった兵員が多かったのをウルシュラが思い出して言った。
「流行遅れの人なのかな?」
「少なくとも疫病には流行遅れのようね」
「いえ。ファッションも流行遅れです」
エチエンヌのまとめに秘書官の各務原が、パソコンから目を離さないまま答えた。
「参謀長は私服の靴がいつもバスケットシューズです。あれ、日本で10年くらい前の流行ですので」
「全般的に流行遅れなのね」
割と笹本にとって放っておいて欲しい話が展開されている中、通信手兼レーダー手のミアリー・ラボロロニアイナから報告が入った。
「レーダー感。総数5万、エンブレムは公国国旗に26。敵です」
「こりゃ凄いね。旗幟が無い奴まで提督させちゃうんだ」
ウルシュラが頓狂な声を上げた。
旗幟というのはエンブレムの事で、国旗に26というのはエンブレムの無い人物の26番目だという意味だ。
2日前にウルシュラと、12戦艦船団長でプログラミングの福富昌孝のエンブレムが登場した。ウルシュラのエンブレムは水色に『一方通行出口』の標識、福富は若草色に黒の1と0の羅列だ。
福富のそれは2進数で、10進数に直すと29103なのだそうだ。実際の数字は111000110101111だが、誰も気付かないだろう。
ウルシュラのエンブレムは文字通り一方通行出口で『日本のカーライセンスを取得する為に勉強していた時から一番好きな標識なんだ』とニマニマしながら言っていた。ウルシュラは時々意味が分からない。時々か慢性的にかは別として。
「で?如何しますか」
航海長のフセイン・ゼルコウトは去就を決めて欲しいようだ。逃げる戦うほって置く。どうするにせよ準備が必要だ。
「どうもこうもないではありませんか。せっかくこの艦隊はウルシュラさんの改装でステルス性が25%アップしているのですよ」
笹本が置いていった参謀長のバッジを胸に付けた叢雲が全艦に激高した。
「敵を殲滅します!」
その宣言の瞬間、各地から「オオオオオオオオオオオオ」の掛け声が上がり、その模様をハイライトが映し出す。
大場父の元を一礼して道場から原隊に戻る小鳥遊とアリーナ。
一人一人の手を両手で握り督戦を促し送り出す学習塾の栗林恵梨香先生。
航宙機置場を盛んに駆け回り武装を用意する航宙機隊。
何故かやる気は充分だ。これはかつての戦績が大きく影響している。
笹本は強大な敵を巧妙に嵌めて倒す傾向が強いのに対し、叢雲はパラメスワラで見せた通り、同等或いはそれ以下の敵を踏み潰すのに向いた傾向を持っていると思われているのだ。
「各主砲はエネルギー充填急いでください」
「相手の斉射を躱すのは任せて」
「取り敢えず遮蔽物になりそうな小天体を拾いながら前進よ」
叢雲の決定にサントスとエチエンヌが合わせる。正直笹本の時よりスムーズだ。
士気も俄然高まっていく。
『殲滅女王、起つ!』
『滅殺滅殺』
『女王に勝利を捧げよ』
掲示板が盛り上がり。
「エネルギー充填了解」
「イエス、マイロード」
「イエス、ユア ハイネス!」
艦隊内の了解の返答も意気軒昂だ。この流れはもはや止まらない。
「迎え撃ちます。宜候!」
フセイン・ゼルコウトの返しも意気高い。
この迎え撃つ流れを誰も止める事は出来ないだろう。
「間もなく敵を視認できます」
「見えています。主砲充填無し。気付いてはいるけどどうにもならない状態みたいです」
ミアリーがレーダーの様子から。モンゴル原始共産主義国出身の見張り員がレーダー以上に良い目で報告を入れる。
「航宙機隊発艦。武装は何でも良いです」
叢雲の指令に後方に控えていた航宙母艦が活気づく。大量の航宙機が出撃し、早くも敵艦にまとわりつく。その間も艦隊は前進し、警告ブザーを鳴らす。先に航宙隊が出ているのだ。主砲斉射の前に航宙機を一旦逃がす為だ。
斉射のタイミングは相手の主砲がエネルギー充填が遅すぎる為に充分に接近できた。軽巡洋艦が放つ小さ目な主砲でも2隻の艦艇を沈めるほどに接近し、撃ち放った。
「斉射」
「ナハトドンナーミサイルの発射準備急いで」
叢雲とエチエンヌの指令が飛ぶ。その指令で次々敵艦が吹き飛ぶ。
「本気で何の用意も無いっぽいね」
サントスの呟きに叢雲が答える。
「それは好都合です。武装を持っているなら攻撃に備えるのは軍人の心得です。それが出来ない宇宙外来有害鳥獣なんかに同情する気は有りません」
「まあ、言い様は悪いけど仕方ないわね」
「さあ奏でてください。殲滅のメロディーを」
この叢雲の一言で第6艦隊全体がヒートアップした。敵からの反撃は精々電磁レーザーがたまに撃たれる位。これは用意の有無の問題ではない。士官学校か何かの研修生を攻撃したのかもしれない。しかしその事について第6艦隊は何も責められる事は無い。武装艦に乗った敵を攻撃しているのだ。例え中に小学生だけが乗っていてもそれは正当化される。
叢雲は容赦ない。一番過激な意見を持ってくる子なのだ。そんな子が相手の事など構うはずもない。
「敵艦隊沈黙」
「うわ!敵の艦隊緊急脱出テレポーター使ってないね。提督死んじゃったよ。ついでに生存者25名」
穴ぼこだらけになった敵の旗艦が無残に残された。開戦13分。世界が仰天するほどのスピード終了だ。
「ふん。再利用されたら面倒です。全てスペースデブリにしましょう。エチエンヌさん、この後の指揮を頼みます」
「あらサナエ、あなたはどうするの?」
「仕方ないでしょう。生存者の救出位してやります」
それでも人の子なのだな。と安堵した艦橋要員はその後叢雲の衝撃映像をまざまざと見ることになる。
叢雲は師団長50名とAI歩兵1個師団を連れて生存者の救出に向かった。敵艦隊はかなり多くの兵員が緊急脱出テレポーターを使用しておらず、遺体が折り重なった状態だった。
叢雲がその遺体を蹴飛ばした。
「げぇ」
「うわ」
その行為にドンびいた師団長が声を上げた。
「おや。知らないのですか?生存者を確認するのはこのようにやるんですよ」
叢雲は次々死体を蹴り飛ばし、反応が無い事を確認したら宇宙空間に投げ捨てた。
「食べる事の出来ない肉は邪魔ですからね」
遺体の中から生存者を見つけたら叢雲は一人一人に丁寧に言って聞かせた。
「私達が強かったんじゃないです。お前たちが腰抜けだっただけです」
文字通りの死体蹴りに言葉攻め。殲滅女王叢雲が敵に戦慄を与え始めた瞬間である。
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