71話 ミアリー・ラボロロニアイナの手紙
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2月です。私が住んでいたマダガスカルではその月は夏真っ盛りでしたが、日本の海浜幕張という地域は寒さで髪の毛が抜けてしまいそうな程です。それでいて空は何処までも青空で突き抜けるかのようです。それはそれでなんと艶やかで素敵な冬でしょう。
そんな時候の挨拶なんか気にならないのは、私たちが未だブラジル領小マゼランに居るので艦隊勤務のままだし、艦内の気温はいつでも21℃になるように調整しているからです。
本当に季節感有りませんよね。でもお手紙には時候の挨拶って必要だと思うんですよね。
私が通信手として乗り込んでいる旗艦『チェリーブロッサム号』は、ナオミ・フィッシュバーン船団長が名付けたそうです。
理由を聞くとまず小一時間日本ラグビーの素晴らしさを語られ、そのエンブレムがサクラであり、その後自分がかつて勤めていた鉱山の周囲に日本人バイヤーが喜ぶからと桜の木を植えていて、その桜たちの美しさに惚れ込んだのだと滔々と語っていたものです。
ここら辺を語るナオミさんは普段なら冗談交じりにハハと笑いながら、自分も含めて世界を笑い飛ばしたような目をしながら言うのに、真剣な目をして語るものだからじっと聞きこむしかありませんでした。ラグビーは知らなかったので私には苦痛しか有りませんでしたけど。
さて、この旗艦には毎日沢山のお客様がお見えになります。艦隊の中から外から。今日のお客様はどうやら艦隊内部からのお客様が多いようです。
「どうです?私と揚陸艦たちの斬り込み隊。世界では『チームカミカゼ』なんて二つ名頂いちゃいましたよ」
「お見事でした。半ばチームカミカゼと各船団の師団長が勝敗を決しましたよ」
「宜しいですよ。笹本さん。もっと褒めて欲しいよ。もっとちやほやして欲しいよ」
まず一人目のお客さんはカナメ・コジマ筆頭揚陸船団長です。今回准将から2階級特進で中将になります。この方はホントにスリムでモデルみたいです。声も可愛くて語尾に『よ』の付くのがもうあざと可愛い女の子ですが、本人は嫉妬深くて我儘です。
「そうだね。チームカミカゼの全員に何か報償を、痛い!」
笹本副提督は本当に女の子の事が分かっていません。ここはカミカゼガール・コジマを全力で誉める所でしょうに。本人がどう思っているのかは知りませんけど。しょっちゅうこの人カナメからskeen蹴られています。
そうそう。この笹本副提督は色々と気付かなければいけない事が多いですね。もう今更ワイシャツの裾が背中からはみ出している事や、ワイシャツの袖のボタンを付けていない事とか、無精ひげの剃り残しの事なんて言いませんよ。いや、ちゃんとしたいようなので見かけたら私も言うのですが、笹本副提督はそれでもどこかがずっこけています。
いえ。私が気付いて欲しい事はそんな事ではありません。
「ケンジサン、あなた昨日の日報出していないでしょ?早く出しなさいね。全くもう」
「え?日報?書いたよ。ああこれだ」
「必要な物を書類に埋もれさせるなんて、笹本君はアナクロな人だなぁ」
エチエンヌ・ユボーさんとウルシュラ・キタさん。この二人の思うところを早く気付いてあげてどちらかを選んで欲しいという事です。笹本副提督は顔立ちも悪くはないし、優しいし、それに服のずっこけ具合がそれでも微妙に可愛いので実際女性からはモテてはいます。多くの人はお友達になりたいみたいです。カレシにしたいとは言われてませんが。
カレシにしたいと言われない理由がこの二人に有ります。エチエンヌさんとウルシュラさんです。適度に高給取りの副提督を狙う二つの美貌の乙女達です。他の方なんか近寄れません。
笹本副提督は早い所この二人から恋人を選ぶべきだろうとは思っています。今はまだ顕在化してはいないけど、必ず二人は揉めるでしょう。結構居心地のいい職場環境なので亀裂を作って欲しくありません。
そう言えば他にもカップルになっちゃえばいいのにって二人が居ます。
「こんにちは参謀長さん」
「おいケンジ。帰ってラーメン食わせてくれ」
航宙隊のタカオ・タカナシとアリーナ・ガイスト両准将です。
今回の戦役以来頻繁に来るようになりました。正直可愛らしくておままごとみたいな二人は私も大歓迎です。このまま可愛らしいおままごとのような交際をして結婚もして欲しいとか思っています。
「ラーメン好きだよねアリーナちゃん」
「当たり前だ。ラーメンと日本とそして私だ」
「どこをどう当たり前なのかまるで見当つかないけど。僕もご馳走するよ」
本当にお似合いになると思います。皆もこの二人は目を細めて眺めてしまいます。
一方無線で喧嘩を始めたご夫妻もいらっしゃいます。ナオミ・フィッシュバーン船団長とDJフレデリックさんです。
「何を言っているんだ。神の前で帽子を被るなんておかしいだろ」
「帽子を被らないお前の方が不敬だ。ハハ」
今日の喧嘩の材料は神様と帽子についてな様子です。
先日も子供が産まれたらどちらの教会に連れて行くかで大揉めに揉めていました。同じキリスト教徒みたいですが、宗派の違いで喧嘩になっているようです。
ああ。でもこの神様の事以外はお二人とも凄くラブラブで、無線で愛を囁き合っているんですよね。そこら辺は本当に素晴らしいです。早く子供1ダースくらい作ればいいのに。
でもこの二人、聞かれていないとでも思っているんでしょうかね?聞いてはいないけど見てはいるんですよ。だって私通信手なんですもの。
「ミアリーさん、何を書いているんです?」
そう言って私に話しかけてくるのは参謀のサナエ・ムラクモです。
「あ?え?手紙?」
「そうですか」
正直な事を言います。この人は怖いです。
いえ、暴力的だとか言葉が乱暴とかそう言ったことは無いのですが、ただどんなに見ていても心が読めないし何を考えているのかが分かりません。
笹本副提督を慕っているという事は分かるのですが、恋人になりたいのか、ただ友人で居たいのかすら読めないのが難しいです。見事な胸が目を引く立派なスタイルなのに、どうした事か髪の毛や化粧にお金をかけない。一重の瞼の細い目でにっこり微笑む。でも何を思って微笑むのかも分からない。本気で怖いです。
もう一人何を考えているのか分からない人が居ます。秘書官のワカバ・カガミハラです。でもこの人は温和な雰囲気を纏っていてあまり恐怖には感じません。言って来ることは福利厚生の話だけですし、結構恩恵に預かっていてありがたいです。
若干嫌われ気味な方ですが、この艦隊の数少ない常識人である事に反論の余地はないでしょう。
ただ常識人である反面、プライベートはゴチャゴチャな人です。全体寮の自室は薄い本でぎっしりにしてしまい、どうも艦隊の船の一室には置ききれない薄い本の図書館まで作ってしまったみたいです。正直なところ、それはリモート艦のどこかという事しか分かりません。
まだまだ紹介したい方は居ますが、今回はこの辺で。
お返事を心からお待ちしています
宇宙開発歴287年 2月11日
ミアリー・ラボロロニアイナより
送り先無き遠き未来にこの手紙を見つけた皆様へ
将来マダカスカルの歴史史家として名を遺すミアリー・ラボロロニアイナの手紙は約100点に及び、当時の事を偲ばせる貴重な資料となっています。
読んでくれてありがとうございます
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