54. 埼玉の拠点
「ところでアリスさん」
「私の事はアリス隊長と呼びなさい」
アリスの目が鋭く光る。
「は、はい、アリス隊長」
背筋をピーンと伸ばす女性。
「それであのぉ、どうやって私達を強くするんでしょうか? こう言っては何ですが、この世界の人間は信じられないくらい弱いですよ。
どんなに鍛えたところで、あのオーガ擬には到底敵わないと思うんですが?
私達には普通の感染者を倒すのでやっとです」
そう、いくら鍛えたところで地球生まれの人間が、異常な硬さ、桁違いな身体能力、不死身の再生能力を持ったオーガ擬に勝てる可能性はゼロに等しい。
この世界の人では100mを1秒で走る事も、パンチで分厚いコンクリート壁を破壊する事も、ジャンプで数百m飛ぶ事も、魔法を使う事もできないのだから……
しかし、
「ふふふっ、大丈夫ですよ。私に任せておきなさい」
アリスには考えがあった。
この世界の人間でもオーガ擬と戦える方法が。
「そんな事より、貴方達も休みなさい。その状態では明日の訓練は持ちませんよ」
そう言ってアリスは部屋から出て行ってしまった……
〜〜大悟〜〜
大悟はあの場を脱出した後、自分の部屋に戻り、地図を開いて目的の場所を確認していた。
「近いな、ついでだから寄っていくか。
備蓄の確認もしたいし」
奴らの軍事基地は、大悟が最初に作った拠点(埼玉)から数十km離れた場所にあった。
なので、大悟はドワーフ達に任せていた拠点に立ち寄り、拠点の確認と備蓄の補充をしておこうと考えていた。
そんな事をやっているとノックの音が鳴る。
「トントン」
「ん? どうぞ」
扉が開くとそこには、エビスとアリスがいた。
「失礼するでござる。
あれ? エリ殿とユリ殿は?」
「あぁー、彼女達には美香達を呼びに行ってもらったんだよ。あっちにいるよりもこっちにいる方が安全だろうからね。
勇巳達とも一緒に特訓できるし。
で、どうした?」
アリスとエビスは同時に喋り出す。
「実はお願いが……」
◇◇
次の日の朝。
城壁の前に大悟達は集まっていた。
「それじゃあ、行ってくるね」
そう言って大悟は城門を開ける。
「はい、お気をつけて」
お見送りには、アリス、勇巳、優希、努、それと美香達も来ていた。
大悟達は彼等に見送られながら外に出た。
襲撃隊は3人と1匹。
大悟、エリ、ユリ、エビスである。
大悟は昨日、急いで作った装甲車を取り出し、全員を乗せる。
「今回はこれで移動するから」
装甲車は7人乗りで、強固に補強されている。
ルーフ(屋根)部分には機関銃、サイドには誘導ミサイルが設置されており、窓は防弾ガラス、タイヤには自動修復機能が加えられている。
そして、フロントガラスにはカーナビ、熱感知システム、360°カメラ、ロックオンシステムが搭載されている。
次はキャンピングカーでも作るかな。
移動は順調に進み、何事もなく進んでいく。
そして、東京を抜けて数時間ほどで埼玉の拠点の近くまでやってきた。
「そろそろかな……ん?」
大悟は一瞬、体を硬直させた。
そして、
「な、なんじゃこりゃあ〜」
大悟の目の先には小さな家(拠点)ではなく、城壁に囲まれた小さな街ができていたのだった。
大悟は城壁の前まで来ると車を止め、外に出た。
「お、俺の家は何処へ……?」
すると、城壁の上から1人の男性がひょこっと顔を出した。
「おぉー、大悟じゃないか。
どうだ、びっくりしただろう?」
顔を出したのはドワーフ三兄弟の長男、ドノだった。
「バカ、やり過ぎだ。
ってか俺の家はどこだよ」
大悟は呆れたように答える。
「ちゃんとあるぞ。今、城門を開けるから待っとけ」
暫くすると城門が開き、大悟達は中へと入っていった。
城壁の中には、20軒程の家と整備された道路に公園、噴水などが設置されており、奥には大きな屋敷が建っていた。
まさか……あの屋敷
「ガハハハっ。凄いだろ?」
ドノは、ドヤ顔を見せる。
「いやいや、俺は部屋数を増やしてくれって言ったよな?」
「増えただろ?」
「いやいや、家が増えてるし」
「1人1部屋より、家1つの方がいいだろう? ガハハっ」
そう言ってドノは大悟の背中を叩いた。
もっと、ちゃんと釘を刺しておくべきだった。
大悟は「ハァー」とため息を吐いた。
「相変わらずですねドノ様」
後ろにいたエリがドノに話しかける。
「おぉー、エリとユリ、それにエビスもこっちに来とったんかい。久しいのう。
まぁー、立ち話もなんじゃから、あの屋敷に行くでよ。みんなもいるだろうし」
そう言ってドノは大悟達を屋敷へと案内する。
「ところでドノ、あの屋敷って?」
「大悟の家に決まってるだろう」
やっぱりかよ。全く面影ねぇーじゃねぇーか
屋敷の中に入ると、ドワーフ三兄弟のドリ、ドク、エルフ族のティーノ、クリア、オリオが大吾を見るや否や一斉に集まってきた。
「大悟ぉー! 知識、知識、知識、知識ぃー」
「資料を持ってきたんだろ? よこせぇー」
「この世界の知識をぉー」
そのままドリ、ドク、クリア、オリオが大悟に飛びく。
「げ!」
大悟は素早くエビスを持ち上げ、盾がわりにする。
エビスブロック!
「へ?
……ちょ、ちょっと何してるでござるか?」
迫りくるドワーフとエルフ。
「ふおぉぉぉぉー!」
が、地面から突如出現した土の壁にドリとドクが激突し、天井から伸びてきた植物の蔦にクリアとオリオの足が絡みつき、2人を宙ぶらりんの状態にした。
「すまんな、大悟」
「ごめんなさいね、大悟」
土の壁を出したのはドノ、蔦を足に絡みつかしたのはティーノだった。
「全く、相変わらずだな」
そう言って、大悟はエビスを下ろす。
ドワーフとエルフは、三度の飯より知識好き。
彼等にとっての3大欲求とは、食欲、睡眠欲、知識欲と言われている。
「す、すまない。この世界の知識を得られると思ったら興奮してしまって……」
4人は横一列に正座させられ、ドノとティーノに説教を受けていた。
「拙者も大悟殿に説教したいのでござるが」
エビスは大悟の頭に乗ってブツブツと文句を言っていた。
その後、1時間ほど続いた説教も終わり、今は豪華な部屋で食事をしながら、今までの経緯を説明していた。
「なるほどね。
そんな奴らがこの近くにいたなんて、全然気づかなかったわ」
ティーノは、口についたデミグラスソースをハンカチで拭いながら答える。
「まぁー、近いと言っても数十km離れてるから。
ただ、ここがバレてる可能性は高いかもね。明日には俺達行っちゃうから、少し不安だなぁ。
全員、生産職だし」
ドワーフとエルフは、ほとんどの者が生産職として生まれてくる。
が、稀に戦闘職を持った者が生まれてくることもある。彼等は希少種と呼ばれトップクラスの戦闘能力を持っている。
だが、ここにいる者達は全て生産職。
戦えない事はないが、不安が残る。
戦闘の前は、できる限り不安を残しておきたくはない。
うーん。
「誰かに護衛を頼むか?」
大悟が、ボソッと発した言葉にエビスが反応する。
「大悟殿!
それなら、アイツらを召喚してほしいでござるよ」
口の周りにデミグラスソースをべっとりと付けたエビスが大悟に迫る。
それを左手一本で止めた大悟。
アイツら?
……あぁー、エビスの部下か。




