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白寿堂~アルバイト先にはつくもがみがいる!?~  作者: exa(疋田あたる)
茶の章

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作戦会議

 椅子の姿のままでありながら、まるで意志を持つかのようにゆらゆらと珠串の手から逃げる安楽椅子をじいっと見つめて、よつははつぶやく。

 

「この椅子も、つくもがみ?」


 よつはの頭には、いつだったか椅子の姿のまま不満を能わすようにきしむ音をたてていた花緑青の姿が浮かんでいた。

 それを静かな声で否定したのは、店主だ。


「いずれは成るだろうが、まだだ」


「このように、わずかに意識を持つような動きをみせることはありますが、形を変えて動き出すにはもうしばらくかかるでしょうね。そうなれば、避けられている理由をたずねることもできるのですが」


 寂しげな珠串に、よつははううむと考える。


「和菓子屋さんにいたころに避けられたりは?」


「しませんでした。ごくまれに、山口家のみなさまがお留守の折にひとの形をしてこの椅子に触れたこともありましたが、そのときには座ることもできました」


「その当時はまだ、動くことさえできなかった可能性も考えられる」


 ゆるゆると首を横にふる珠串のことばに、店主がなぐさめなのか追い討ちなのかわからないひとことを添える。真面目な顔で悪意を感じさせない物言いであることから、きっと悪気はなく可能性のひとつを挙げただけに過ぎないのだろう。


「意図はわからないけど、避けられはじめたのは白寿堂に来てから。避けるのは珠串さんだけ」


「ええ。和菓子店からこちらへ移る際になにかをしてしまった、という覚えもないものですから。手の打ちようもないのです」

 

 さみしげにほほえむ珠串を見て、よつははむむぅ、と考え込むのだった。

 そのとき。

 かたん、と軽やかな音がして部屋のなかが華やいだような気がしたかと思えば、明るく愛らしい声が聞こえてくる。


「んんんー、よく寝た!」


 音のしたほうを振り向けば、細い手足をぐんと伸ばして立つ花緑青がいる。


「あっ、よつは!」


「おはよう、花緑青」


 うれしげに駆け寄ってくる少女を抱きとめたよつはの横で、珠串がやさしくほほえむ。


「ようやくお目覚めですね。それでは、お茶を入れてまいりましょう」


 くるりと背を向けて台所に向かう珠串は、もういつものおだやかな彼だった。けれど、よつはの心はまだ晴れていない。なんとか理由をさぐって、珠串と揺り椅子の関係を改善したいのだけれど。

 考え込んでいるようすが、顔に出ていたのだろうか。気づけば、眉をさげた花緑青が心配げによつはを見ていた。すこし離れたところに立つ店主も、こちらは内心のうかがえない表情をしてはいるがよつはをちらちらと見ている。


「よつは、悩みでもあるの? 相談なら、あの無愛想なやつよりもあたしのほうがきっと役に立つわ!」


 胸を張る花緑青に、がんとショックを受けたような顔をする店主。

 ふたりのようすがおかしくて、よつはの気持ちはすこしだけ晴れた。でも店主が傷つきそうだから、笑うのはがまんする。


「うん、ひとりで考えることない。相談させて、ふたりともに」


 気持ちが晴れて余裕が出てきたら、こんなこともするりと言えた。よつはではわからないことも、みんなで集まれば良い考えが浮かぶかもしれない。

 そう思って言ったことばに対して、ふたりはそれぞれ違う反応をしてくれた。


「なんだ」


 よつはの申し出から間をおかず言ったのは、店主だ。顔はいつもの仏頂面だが、どことなく表情が輝いて見えるのは、よつはの気のせいだろうか。


「ええ? あたしだけでいいじゃない」


 不満げにほほをふくらませたのは、花緑青だ。口をとがらせて、かわいい顔で精一杯の不満をあらわしている。気に食わなげに店主を横目で見ているようすさえかわいくて、よつははついつい彼女のほほをつついてしまう。


「もちろん花緑青の力も借りたいけど、みんなでいっしょに考えてほしい」


「……よつはがそう言うなら、いいわよ。それで、相談って?」


 ほほのふくらみをしまった花緑青に促されて、よつはは台所に意識を向けた。かちゃかちゃと陶器のかすかな音が聞こえる。まだ珠串は、台所で作業をしているようだ。

 ふと、台所とこちらの部屋の中間地点にある物陰になかばさんがちょこりと座っているのに気がついた。いつの間にそこにいたのだろう。よつはと目があったなかばさんは、半分だけ見える顔をこくりと上下させた。

 つぶらなひとみをきりりとさせてうなずく姿は、まるで敵のようすをうかがう精鋭部隊が「敵影なし」と伝えているかのようだ。


 なかばさんにうなずき返したよつはは、気持ち小声になって珠串と揺り椅子のことを話し出す。そしてその関係を改善するためには、どうしたら良いかと問いかける。

 きっとこの話が耳に届いたところで、珠串は怒りはしないだろう。けれど関係改善のためによつはたちが何かすることもまた、止めてしまいそうな気がする。

 だから、できれば珠串には内緒で計画を進めようと言えば、店主も花緑青も賛成してくれた。

 それから珠串が戻ってくるまでの間、三人は意見を出しあって、計画を練るのであった。

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