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白寿堂~アルバイト先にはつくもがみがいる!?~  作者: exa(疋田あたる)
金の章

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8、光の射さないステンドグラス

 雨を降らせる雲におおわれて、ステンドグラスはここしばらく陽の光を浴びていなかった。

 それでも昼間であればいくらかは明るい光を通すけれど、あたたかさの足りない光を透かしたステンドグラスは、どこか白けたような色味を見せていた。


 静かな白寿堂の室内で、花緑青は自身の椅子に腰かけてぼんやりしていた。

 座面に手をついて行儀わるく脚をぷらぷらさせながら、花緑青は玄関を見つめている。


「……よつは、来ないわね」


 ぼつりとつぶやいたことばに、棚の影に隠れているシバイヌがくふん、と鳴く。よつはが店に来なくなってから毎日、石灯籠を本性に持つこのイヌは店の中で過ごしている。

 それが雨に濡れるのを嫌がってのことなのか、それとも別の理由があってのことなのかは、他のものにはわからない。


「ずいぶん長いこと、会ってない気がするわ」


「かれこれひと月近く、お姿を見ていませんね」


 ため息をつく花緑青に相づちを打つのは、珠串だ。お盆を持って現れた珠串は、手近な台にお盆を置くと急須を手に取る。


 こぽぽぽ、と茶器に注がれる飲み物から湯気が立ち上るのを花緑青はぼんやりと見送る。


「よつは、いつ来るのかしら」


「さて。しばらく来られない、とご友人のかたから伝言をいただきましたが」


 そう言いながら珠串は、よつはの友人を名乗ったひとの姿を思い出していた。

 時代が時代なら美人画を描きに絵描きがたくさん来ただろうと思わせる、若い女性であった。よつはが置きっぱなしにして行った自転車を取りに来た、と玄関を叩いた彼女は、よつはからの伝言だとしばらく来られない旨を伝えてきた。

 そのあいだじゅう、美人が台無しになるほど眉間に深いしわを寄せて珠串をじろじろと見る。さんざん眺めてから「よつはちゃんは渡しませんからね」と言い放ち、礼華と名乗った美女は不機嫌そうに帰って行った。

 その背を見送りながら、椅子の化生である少女と雰囲気が似ていたな、などと思ったことは胸のうちにしまって、珠串は淹れたばかりの茶を手に取る。湯気の立ちのぼる茶に口をつけてひと息ついた珠串は、やれやれと首を振る。


「それにしても。よつはさんが壊したわけではないというのに、もうすこしやさしい物言いはできなかったのですか」


 呆れた口調で珠串が問うのは、階段に座って頬杖をつく男。よつはには店主として認識されている男だ。

 よつはが泣いて駆け出したあと、花緑青に責め立てられている最中に出先から帰ってきた珠串に促され、ついでにシバイヌにじいっと見つめられてことの顛末を話した店主は、それ以来ずっと不機嫌な顔で白寿堂のなかをうろついている。

 きょうもきょうとて玄関の見える位置に陣取って、むっすりとしたまま黙り込んでいる。

 そんな店主を見て、花緑青がこれ見よがしにため息をつく。


「あーあ、よつはも不運よね。たまたま嫌な客が来たときに限って、こんな不愛想なやつしか居なかったなんて。あたしがもうすこし早く起きてたらそんな客、蹴っ飛ばして追い返してやったのに!」


「そうですねえ。わたくしももう少し早く戻っていれば、と悔やまれます。せめて石灯篭を室内に入れていれば、留守番もできないだれかよりはよっぽどよつはさんの助けになったでしょうに」


「くうん」


 含みのある珠串のことばに返事をするようにシバイヌが鳴けば、店主は玄関をにらみながら歯をぎりぎりと食いしばる。

 その様子をこっそり盗み見た珠串は、声に出さずにやれやれと肩をすくめる。そしてふと、シバイヌにちょっかいを出している緑のワンピースの少女に目をやって首をかしげた。


「それにしても、よつはさんがいらっしゃらないことに関してあなたはもっと取り乱すと思っていたのですが。こうも落ち着いて待っていられるとは、意外ですね」


 珠串に視線を送られた花緑青は、きょとりと瞬いてからふん、と鼻を鳴らす。


「当然よ。あたしは、そこのぼんくらと違ってよつはを信じているもの。よつはがしばらく来られないと言うなら、来られるようになるまで待つだけだわ」


 胸を張って言う少女と、少女のことばを耳にしてさらに苦々しい顔になる店主とを見比べて、珠串はおやおやと苦笑を浮かべる。


「そうですね。それでは、わたくしはよつはさんがいついらっしゃっても良いように、お慰めする準備をして待っていましょうかね」


 そう言って珠串は茶を飲み干すと、いそいそとお盆を持って台所へと引っ込んでいった。きっと、よつはの好む茶葉の状態を確認したり、よつはが遠慮せずつまめるような茶菓子について検討しに行ったのだろう。

 棚の影のシバイヌも立ち上がったかと思うと、低い位置にある引き戸を開けてごそごそとブラシを取り出した。いつだったか、健太郎がシバイヌを手名付けるために持ってきて、置いて行った品だ。取り出したブラシに背中をすりつけているシバイヌの目的は、おそらく毛づくろいだろう。よつはに撫でられるときのために、身ぎれいにしているようだった。


 珠串を見送りシバイヌを眺めていた花緑青は、階段に座ったままなにやら考え込んでいる様子の店主をちらりと見て、ふう、と息をこぼす。

 不甲斐ない男が失敗したときのためによつはへの慰めのことばを考えなきゃ、と思いながら、花緑青はちいさくつぶやいた。


「しばらく来れないって、どれくらいなのかしら……」

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