15 これまでのまとめ
(……さて。ここまでのことを一旦まとめてみよう)
解散後。
自分の部屋に戻ってきた私は律儀に用意されていたノートから1ページちぎってペンを持った。
まず、私は見知らぬ異世界へでやってきた。覚えていることはおぼろげ。多分浴室で頭を打ってそのまますってんころりでこの世界へ着地。
なんと落下地点は怪物のすみか。
正確に言うと、深淵って呼ばれてるらしい異世界の裏側。
もっと細かく言えばそこに住んでいる、虫のような竜のような植物のような……色んな要素が合わさった恐ろしい見た目の、大きな大きな生き物の体のお腹の中がこの世界での私のおうち。
ここで暮らしていれば安全だからとお腹の主のエルトから言われて、右も左もわからない私は従わなくちゃいけなかった。
エルトは私が深淵に落ちてくることを知っていて、白く光る怪しい人物・キュリオフェルと約束をし、私を守ってくれている。
彼は家族という単語に何故だか強く執着している事を除けば親切で優しい。
よく微笑むし結構真面目そう。怪物の姿からは想像できないほど穏やかないいひとだ。
エルトの中は安全が確保されているし、最低限以上の生活ができる環境も保証されてる。
けれどやっぱりドアの外の景色は気色悪い。落ち着くまでまだ時間がかかりそう。
と、いうか一生慣れそうにはないんだけど。
「ぴゃい!」
ふわふわなお尻に触ると元気なお返事をするこの子はメナちゃん。
エルトの中で出会った友達。本名はメナリシス……なんだったっけ。
何でも美味しそうに食べるけれど、性格はちょっと臆病。私には懐いている。
とにかくふさふさで素直でかわいい。
今のところ一番信頼してくれてるのはこの子なのかな。
お喋りは出来ないし小さくて頼りないけれど私の話を真剣にきいてくれるし、再会してからはずっと寄り添ってくれている。
そして、私のこの姿。
かつて魔王と呼ばれた少女……ミナリスと似ているらしい。
小さな村で生まれ育った儚い少女は人々を助けた代償に呪いに蝕まれ、やがて不気味な風体となり助けたはずの人々に魔王と噂されて恐れられるようになった。
なんて理不尽な話だ。
なんて人間たちは恩知らずで自分勝手なんだろう。
と、思ってしまったのは今の私だけじゃなくて。
エルトも、エルトの中に住んでいるディフも、そしてミナリス自身もその感情のままに抗った。
世界の崩壊は人々への報いで救済で、仕返しで、魔王たちの嘆き。
結果的に魔王は打ち倒され、今の世界には平和が訪れハッピーエンド。
でも、
「……なぁんか納得出来ないんだよね、私。メナリスは魔王っていうか悲劇の少女じゃないのかな。っていうか。せめて女の子なんだから魔女、とかでもいいのに」
「ぴぴょ?」
エルトの心臓の側には黒い輝石が残っている。
世界にはまだそれと同じ物が存在していて今も苦しんでいる人達がいる。
私は人々を哀れむべきなのか。それとも。
「ねぇ、メナちゃん。私は何をするためにここへ来たのかな?」
「ぴゅーゆっ?」
「エルトに生えてるあのでっかい岩を取り除くため? 人間たちを救ってあげるため? それとも、もう一回人々の敵、魔王になって今度こそ……」
「ぴゃ……」
「ううん。なんでもないよ。なんでもない」
私の表情が曇ったんだろう。メナちゃんは心配そうに瞳の中の私の姿を滲ませた。




