第04話 旅立ちの朝
大いに盛り上がった卒業式の宴の翌朝、穏やかな朝日を受けて目を覚ましたレオニスが、旅支度を整えて寮の脇にある馬留めに行くと、ジュリエットとチャベスは既に旅支度を整えて、馬に餌を与えたり毛並みを整えてやったりしている所だった。
「おはよう!」
「おはよう!」
三人は挨拶を交わすと、朝の柔らかな光にたおやかな毛並みを輝かせてくつろぐ栗毛の牝馬たちに鞍や頭絡などの馬具を取り付ける。
それらの馬具の設計と制作にはチャベスの手が加えられていた。
頭脳明晰で手先が器用なチャベスは、【ウォール・ナイツ】では武具の開発を期待されている。
「チャベスが調整してくれた馬具はこの子たちも気に入ったみたいね」
感心した様に呟くジュリエットに撫でられている馬は嬉しそうに目を閉じてされるに任せている。
ジュリエットには不思議と動物と心を通わせる特技があるようだ。
(そういえばあの時の野ウサギどうなったのかな?)
三年前の死の森で、レオニスたちと一緒にスカーデッドに襲われそうになったあの野ウサギは、いつの間にか【ウォール・ナイツ】と共に姿を消していた。
(スカーデッドに襲われてアイツもスカーデッドになってたりしないといいけど……)
レオニスが野ウサギのその後に思いを馳せていると、ジュリエットが馬を撫でながら尋ねて来た。
「ねぇ、集まるのは十日後でいいの?」
三人がこれから入隊する【ウォール・ナイツ】のアメザス本部は、レオニスの父が治めるヤメス地方の更に北側に位置するため、ジュリエットとチャベスは一旦自分の故郷に戻って家族や友人と短い時間を過ごした後、レオニスの居城で合流してから三人一緒に入隊の門を叩く算段をしている。
ヤメス城までは馬に乗れば四日で着くが、二人の故郷は東と西へそれぞれここから丸一日掛かる。
そうすると親兄弟や故郷の友人たちと別れを惜しんで居られるのはせいぜい四~五日といった所だろうが、あまりのんびりもしていられない。
「そうだな、そんなもんでいいだろう、その頃には召喚状も届いてると思うよ」
【ウォール・ナイツ】の入隊には、レッド・ナイトと呼ばれる隊の最高指揮官からの召喚状が必要となるが、今回はレオニスの居城であるヤメス城に三人分まとめて届くことになっていた。
「そっかぁ、いよいよね!」
「うん、そうだね!」
武者震いをして気合いを入れ直すジュリエットとチャベスに、レオニスは爽やかな笑みで答える。
「俺は先に帰って、ご馳走を用意して二人が来るのを待ってるよ!」
「ほんと!? 七面鳥の丸焼き用意しといてね!」
チャベスのリクエストに親指を立てて応えるレオニスを見て、ジュリエットは呆れたように呟いた。
「あなた達、きっと長生きするわね」