陰の少女
放課後、俺は先生に職員室に呼び出されていた。
まぁ、書類の確認とか、内容はいろいろ。
俺は結局、どの子が佐倉家の娘なのかわからなかった。
父上に写真くらい見せてもらえばよかったなぁ。
俺がわかったのはこの学校の生徒はいわゆる見える人じゃないということだ。
俺はいわゆる見える人だ。
小さい頃から俺はみんなと見える世界が違っていた。
ないはずのものが、いないはずのやつが俺にはみえる。
人はそれを妖怪とか幽霊とか怪物だとかいうけど、正確には妖魔というらしい。
妖魔は人の世界とそうでない世界の狭間に住んでいて、人の世界に来ては悪さをする。
だから人の世界に入ってきてしまった妖魔は消さなくてはいけない。
俺にはその妖魔が見えてしまう。
物心つく頃には側に妖魔がいた。
家には結界が貼ってあって、入ってくることはほとんどない。
けど、一歩外にでればたくさんの妖魔に会ってしまう。
この学校にもたくさんの妖魔がいた。
妖魔は悪い心を持っている人の側に集まりやすい。
いじめ、暴力、悪口、盗み、殺人といったことをした人には必ずといっていいほど妖魔が側にいる。
側に妖魔がいると、その事が悪い事だと分かっていた心が薄れて、さらなる犯罪を起こしやすい。
そんな妖魔が多い学校に姫さんが…ねぇ…
佐倉家当主はどんな考えをお持ちなのやら。
先生の用事が終わったので、帰ろうと思って教室に鞄を取りに行く。
そのときだった。
教室の中からきゃはははという女子何人かの声がきこえた。
泣き声みたいなものが聞こえる。
恐る恐る教室の後ろのドアを少し開けて中を覗いてみた。
そこにいたのはあの少女。
桜の香りの黒髪の女の子。
それとその他の同じクラスの女子数人。
そして、今朝ぶつかってきた2つ結びの大人しそうな少女がうずくまっていた。
もしかしなくても…これってさ…
………いじめ?
「ねぇ、これあたしが飲みたかったやつじゃないんだけど」
桜の香りの少女が言う。
「ご、ごめんなさい…カフェオレ売り切れで…」
2つ結びの女の子が言うと、桜の香りの少女はその女の子の顔を蹴った。
「きゃあっ」
女の子は派手に転ける。
鼻から血が出ていた。
周りの女子はクスクス笑う。
「小紅様はカフェオレが飲みたいって言ったのよ。自販機売り切れてたら、店まで行って買ってくるのが常識でしょう?」
周りの女子の1人が意地悪そうな笑みを浮かべて言う。
「で、でも、コーヒーだって似たようなものじゃ…」
「口答えすんな!!」
その少女の声をきっかけに周りの女子が2つ結びの女の子を蹴り始めた。
女子のいじめってこえー……
いつもなら俺はここで見なかったことにするはずなのに。
それなのに俺の体は動いていた。
ドアを勢いよく開ける。
途端に中の女子が全員こっちを見る。
「あ、あんた転校生の…」
桜の香りの少女の顔が引きつる。
「あんた、すげー可愛いのに、残念だよ。いじめなんてだせーからやめろよ」
俺の口からそんな言葉が勝手に出ていた。
「小紅様になんて口を!」
周りの女子の何人かが俺にとびかかってきた。
男子の力を見くびられちゃ困るなぁ。
俺はケガさせない程度に女子を振り払ってかわした。
それを見て力じゃかなわないと思ったのか、いじめっ子達は教室から出ていった。
「大丈夫?たてるか?」
俺はうずくまっていた2つ結びの少女に落ちていたメガネと手を差し出した。
女の子は戸惑ったような顔を一瞬して、それから笑顔になって
「助けていただいてありがとうございます」
と言った。
その瞬間俺はドキッとしてしまう。
その笑った顔があまりにも千代に似ていたからだ。
もしかして俺がとっさに助けちまったのはこの子が千代ににていたから…なのか?
その子は何度もお礼を言った後、教室から出ていった。