第52話 スズメがいれば、世界は最高!(終)
ホーホーホッホーホーホーホッホー。
「んーーーー、もう朝かあ」
枕元にはスズメ人形たち。
「みんな、おはよう」
1羽ずつ、スズメ人形のおでこをつついていく。
1、2、3、4、5、6、7!
全員いる! ヨーシ!
「今日も1日、がんばりますかねー!」
カーテンを開けると――朝日がまぶしいっ!
窓ガラスもあったかいし、すっかり夏だね。
クーラー vs 日光!
ファイッ!
とまあ、あとは緊迫した戦いをしてもらっておいてー、と。
わたしはスズメの家に行ってきますねー。
うわっ、外、暑っつ!
うちからスズメの家に移動するだけで焦げるわ!
なんかこう、日除けの屋根とかつけてほしいよね。むしろもう、家を繋げてほしい!
なんてこと……オモッテナイヨ?
夏最高!
……じゃなくて、夏もほどほどに好き!
「おはようございまーす。今日もスズメを起こしに来ましたー」
勝手知ったる第2の我が家。
スズメのお母さんに挨拶しつつ、2階にあるスズメの部屋へGO!
ノックをせずにそっとドアを開けると、今日もスズメはふんわりと微笑みを浮かべたまま就寝中。
「わたしの天使ー! 今日も起こしにきたよ」
とまあ、起こす前に……秘密のモーニングルーティンをさせていただきましょうかね。うひひ。
「やっぱりスズメは夢の中でも世界を修復してるのかなあ」
* * *
パジャマから制服に着替えさせて、ほっぺたをプニプニしていると、スズメが目を覚ました。
「あ、マミおはよ~」
「おはよう。今日も暑いけど、学校に行こう!」
「うん! 顔洗ってくる~。……あれ? 今日って体育あったっけ?」
スズメがブラウスの首元を引っ張って、何かを確認していた。
「そうだよ。さすがにこの暑さだと、体育館だとは思うけど……」
「そっかぁ。それでスポブラなんだぁ~」
もちろんよ。時間割はちゃんと頭に入ってます。
「ありがと~。洗面所に行ってくる~」
何にお礼を言われたのかは存じませんが、行ってらっしゃいませ、お嬢様。
* * *
スズメのお母さんが作った朝食をいただいた後、定刻通りにスズメの家を出る。
ここからが地獄の登校時間……。
現在の気温34度。
「暑っつ……」
「もうこれって、フライパンの上だよね……」
ホントね。アスファルトの上に卵を割ったら、目玉焼きができそう……。食べられなくなっちゃうから、やらないけど。食べ物を無駄にするのはいけませんよ?
「これなら水着型の制服のままにすれば良かったぁ」
「常夏の太陽2倍キャンペーン再び⁉ 嫌よ! あんなハレンチな夏服は認めませんっ!」
ビキニの水着っぽい制服なんてダメでしょ!
ここはジャパン! ハワイじゃないんだからね!
「え~。私は気に入ってたけどなぁ。おそろいの水着、着たいなぁ」
「中学生にビキニは早過ぎます!」
「そっかなぁ」
スズメは自分の体の破壊力を正しく認識したほうが良いよ!
男子を全員亡き者にしないといけなくなるでしょ!
キキーーーッ。
「えっ……?」
スズメの家の前にタクシー――じゃなくて、黒いリムジンが!
「まさかこれって……」
運転席から降りてきたのは、スーツ姿の背の高い女の人――通称、宝塚の人(仮)。
手を胸に当てて小さく頭を下げてくる。
「お迎えに上がりました。お嬢様方」
「えーーー! また⁉ ちょっと、スズメ⁉ 生き物は修復したんじゃないの⁉」
この人、人間だよね⁉
「ん~……今、マミが呼んだんじゃない、かな?」
「わたしのせい……?」
暑いし、水着を着たくないって思ったから……なの?
「本日は日差しが強うございます。さあ、学園までお送りいたしますので、お乗りくださいませ」
「いや……日差しが強いのはそうなんですけどぉ……」
宝塚の人(仮)が、笑顔で背中をグイグイと。
まあ、せっかく来ていただいたのに、そのまま返すわけにも行かないので、乗せていただきますけどぉ。
「うひ~。クーラー最高!」
「涼しい……」
冷え冷えの車内は、まるで天国のよう。
『冷たいお飲み物もご用意しております。どうぞご自由にお飲みください』
運転席からスピーカーを通じて。
小さい冷蔵庫を開けると、たくさんのペットボトル飲料が入っていた。
「「ありがとうございます!」」
思わず声が重なり、2人で顔を見合わせて笑ってしまった。
「おいしいねぇ~。車登校最高だね♡」
終始ご満悦な様子のスズメ。
口角が上がり過ぎていて、ホントかわいい。
でもね。
「すっごくありがたいけどぉ、毎日この生活をしちゃったら、人としてダメだと思う……」
「マミマミ~! こっちに乗るプイチュン?」
「……乗らない」
ていうか、なんでモルカーがリムジンの中にいるの。
「無機物の修復は間に合わなかったから~」
「これ、動物じゃなくて無機物扱いなんだ……」
「プイチュン!」
かわいいんだけど、さすがに手のひらサイズの乗り物には乗れないよ……。
「マミマミ~! こっちに乗るチュン!」
リムジンの窓ガラスを叩く音……は無視無視。
「マミマミ~! エコな三輪車を忘れないでチュン!」
そりゃエコだけどさ。
三輪車はクーラー利かないし。
「スズメ、あれの修復も……?」
「無機物だからね~」
「ゴミ袋と合体して、空も飛べるチュン」
うん、窓の外には何もいなかった。良いね?
さ、カーテンを閉めましょ。
「無機物だからね~」
「それで全部片づけようとするのはダメよ?」
「えへへ♡」
なんで照れてるの? 褒めてないよ?
* * *
学園の正門前。
リムジンから降りて、宝塚の人(仮)に頭を下げる。
「送っていただきありがとうございました!」
「またのお帰りをお待ち申し上げております」
かっこよ過ぎる。
執事喫茶みたいな……。
「いってらっしゃいませ、お嬢様方」
「いってきま~す!」
冷房の冷気をチャージ済みのスズメが、元気に走っていく。
「い、いってきます!」
もう一度、宝塚の人(仮)に会釈してからわたしもあとを追った。
教室に入ると――。
「いや、なんでよ……」
クラスメイトの半分くらいが、水着型の制服を着ていた。
ブーメランパンツの男子は、学校までその格好できたの? 何かの罪で逮捕されたら良いと思う。
「全員揃ってるか~? 朝の会を始めるぞ」
教室に入ってきたのは、担任の池中先生。
理科担当。マッドサイエンティスト幼女先生の名をほしいままにするわたしたちの愛すべき担任――のはずが。
「先生……三十路が白衣にスク水は犯罪って、言いましたよね?」
白衣をはだけて、パタパタ風を入れないでください。
男子がエロい目で見てます! あ、いや……先生をエロい目で見るってことは……ロリ……考えるのやめよう。
「暑いんだから仕方ないだろう。柊こそ、やせ我慢はやめて、水着になったらどうだ?」
「絶対嫌ですっ!」
「マミは恥ずかしがり屋だから~」
そういう問題じゃないから!
倫理観の問題だから!
「この格好は教育委員会にも許可は取っている。何もおかしくはないぞ?」
ニヤリと笑って……悪い顔だあ。
世界の捻じ曲げた常識を悪用している大人の顔だ!
【ピンポンパンポ~ン! ピンポンパンピンポンパン! ピポピポピポピピピピピちゅ~ん!】
えっ、これは……⁉
【こちらスズメ=スカイエアー放送! 朝の校内放送の時間だよ~! もうすぐ1時間目が始まるから、移動教室の人は急いでね~!】
「おお、もうこんな時間か。朝の会は終わりにしよう」
いや……。
「なんでスズメ=スカイエアー放送が……」
先生……だけじゃなくて、教室のみんなも、自然と受け入れているのはなぜ?
「無機物だからね~」
スズメが半笑いだった。
「まさか、この放送も残ってるの……? これ、スズメがしゃべったのを録音してるわけじゃないよね……?」
わたしを騙そうとしている、なんてことは……。
【今朝のマミの体重は60.42kgだよ~。ちょっと増えてきたから要注意! ラッキーカラーは黄色! ラッキーアイテムはゴミ袋だよ~!】
「ちょっ!」
わたし、今朝の体重量ってないのに!
「ね?」
スズメが得意げににっこりと笑う。
「ね、じゃないんだけど……」
生放送だってのはわかりましたけど……なんで全校生徒にわたしの体重がバラされないといけないのよ⁉
【ちょっと丸くなったマミも最高にかわいいよ! みんな、ちぇきら~】
恥ずかしいわ。
「……痩せよう」
男子、こっち見てくんな!
目を潰すぞ!
「マミ~。一緒にダイエットする~?」
「スズメは……痩せちゃダメ」
「え~! 私もお腹のお肉が気になるかも~」
「大丈夫。今朝も完璧だったから」
チェック済みです。
スズメは最高の体形なので、今の状態をキープしましょう。
【みんな~! 今日も暑いけど、元気にがんばろうね~! 体調が悪くなった人は無理せず、保健室に行こうね。じゃあ、またお昼の校内放送でお会いしましょう! 以上、スズメ=スカイエアー放送でした~♡】
うん、今日もがんばらなきゃ。
「でもなんていうか……」
「どしたの、マミ~?」
スズメがわたしの顔を覗き込んでくる。
「うん。なんか、不思議だなって」
「えっ、また、不思議なことが起きちゃった? 修復する?」
「違うの。ほら、時間切れで戻らなかった無機物の……」
スズメ駅もそうだし、スズメ=スカイエアー放送もそうだし、三輪車やゴミ袋もしゃべるし。
「不思議な世界だなあって」
「マミは……嫌?」
少し不安そうな様子を見せる。
「ううん、ぜんぜん……って言っちゃうとウソになるけど、嫌じゃないよ」
「……そう?」
まだ不安そう。
「だってさ、ここにはスズメがいるもん。それだけでこの世界は最高に決まってる!」
「マミ~~~♡」
抱き着いてくるスズメ。
いつもの笑顔。最高のスズメに戻っていた。
「スズメ!」
スズメの体を強く抱き締める。
もう、絶対にわたしの前からいなくならないでね。
スズメさえいれば、わたしはどんな世界だって受け入れるよ。
世界が勝手に願いをかなえてきて、それが解釈違いでも、ぜんぜん良いよ。
「スズメ、大好き!」
ずっとずっと、わたしの傍にいてね。
第一部 完




