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亡国の反逆少女たち  作者: しゃぼてん


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第10話 夜を駆ける少女達

 ドアの先には狭く暗い空間が続いていた。ライトで照らしたが、人はいない。階段の先は見えないが、アズハは一気にかけのぼった。

 すぐに重たい金属の扉があらわれた。アズハは扉を開けて、一気に外にとび出た。


 とたんに、マスター・ジンの笑い声が響いた。


「おやおや、追いかけてくるとは」


 そこは袋小路だった。ビルの高い壁に囲まれ、路地の出口には警備員のような服装の男達が待ち構えている。マスター・ジンはその向こうに立っていた。

 マスター・ジンの言葉が終わる前に、アズハは撃った。

 だが、その瞬間、警備員達も一斉にアズハにむかって発砲した。

 アズハは横にそびえたつ壁にむかって跳躍した。銃弾がかすっていったが、防弾性能をもつスーツが流血は防いだ。

 マスター・ジンも無傷だ。


 アズハは壁を走りながら、拳銃とナイフを握り、マスター・ジンに向かって跳躍した。

 だが、マスター・ジンに到達するまえに、警備員のような姿の大男が跳び、空中でアズハの前にたちふさがった。


(こいつもサイボーグ……)


 ハンマーのような腕で地面にたたき落とされた次の瞬間、さらにおそってきた追撃の蹴りをよけ、アズハは大きく跳びずさった。

 すぐに横から警棒がふりおろされ、アズハは身をよじってかわした。

 今相手にしている敵も、おそらくサイボーグ。

 

「ハハハハハ。その身のこなし、ただの人間ではないな。まぁ、いい。サイボーグ兵相手に、せいぜいがんばりたまえ」


 一斉にサイボーグ兵が襲いかかってきた。正面からのタックルを避けたところに蹴りをくらい、アズハは壁までふきとばされた。


 サイボーグ兵の打撃をアズハは首を振り避けた。壁が陥没し、パラパラと崩れたブロックの塊が落ちていく。

 サイボーグの胴体を思いきり蹴り、それでできたわずかなすきに、地面を転がり壁際から離れた。だが、立ち上がろうとした次の瞬間、アズハのうでをサイボーグがつかみ、アズハは激しい力で地面に投げつけられた。


 


 ・・・・・・・・


 サイズのあわない男物の服に、かつらとサングラスとマスク。車内で歩に渡された服装に着替えて、ユウカは派手で下品なネオン看板があふれる夜の街を早足で歩いていた。スマホもサイフも全部おいてきた。

「君が誰かわかるようなものは持っていっちゃいけないよ。家族にまで悲惨な目にあわせたくなかったら」と歩に言われたから。


 週末のせいもあってか、人が多い。

 だが、アズハの匂いははっきりと辿ることができた。

 同じ方角のどこかから銃声らしき音が聞こえた。ユウカの心臓は破裂しそうに鳴り響いていたが、走れば匂いがわからなくなりそうで、焦る気持ちをおさえながら歩いていた。


 狭い道をふさぐように停車している黒いリムジンの横を通り抜けた直後、ユウカは気がついた。

 アズハだ。

 ごてごてと華美な装飾のほどこされた和風建築を模したビルを超えた先、そこにある狭い路地、その先にユウカはかけこんだ。


 警備員のような制服をきた人達に仮面をつけた人が両側から腕をつかまれて取り押さえられていた。顔は見えないがその仮面の人物がアズハだと、ユウカにはわかった。

 一人の男が笑いながら、大男達の後ろからアズハの方にむかって歩いていく。


「ハハハハハ。さぁ、待ちに待った、お愉しみの時間だ。その仮面をとろうか。じっくり愉しめるような相手だといいのだが。痛覚も羞恥心もないほどに全身機械化されていると興がそがれるからな」


 その時、ユウカは歩に渡されていたEMPグレネードを投げた。

 車内で歩は言った。


「ちょっと重たいけど、EMPグレネードを持って行って。万が一サイボーグがいたら、これが必要になる。EMPグレネードは周辺の機械を破壊する。起動はここ。2秒後に発動。効果は範囲5メートルくらいだから、必要なら、投げて。効果は限定的。リブートするまでの一時的なものだ。それに、当たり前だけど、生身の人間にはまったく効かないよ」


 ユウカには警備兵たちは生身の人間に見えた。でも、EMPグレネードのほかには何もなかった。(効いて)と必死に願いながら投げるしかなかった。


 男がユウカの方に振りかえった。その手には拳銃がにぎられていた。


「共犯者か?」


 撃たれる。

 ユウカは死を覚悟した。


 だが、その時には、サイボーグ兵の手から逃れたアズハが跳躍していた。

 銃声が響いた瞬間、マスター・ジンの側頭部にアズハの足がめりこんでいた。

 銃弾はビルの壁に穴をあけた。だが、それだけだった。


 ユウカが目を開けた時、男は地面に倒れていた。

 アズハは拳銃をつかみ、至近距離からゆっくりと男の頭に銃弾を撃ちこんだ。


 警備兵たちの動きはとまっていた。ある者は直立したまま、ある者はひざをつき、ある者は地面に崩れ落ち、そのまま動かなかった。


「よかった……」


「よくない。なぜここに来た?」


 アズハは糾弾するように言った。


「たすけに」


「よけいなお世話だ」


 機械化兵たちが動きだしはじめた。


「走れ!」


 ユウカは走り出したが、すぐに「遅い」と言う低い声が聞こえ、体が抱えあげられた。


 発砲音と風切音が聞こえた。行く手にある建物のネオンサインが破壊され、ガラスを飛散させながら消灯した。

 道行く人の驚いたような叫び声が聞こえたが、銃声は容赦なく続き、建物の壁、看板、窓に穴があき、悲鳴が響く。


 ユウカを抱いたまま、アズハはネオンの光が溢れる風俗街を駆け抜け、暗い路地へと入りこんだ。

 背後からは、悲鳴や撃たれたという声、それから、「絶対に逃がすな!」というサイボーグ兵達の声が聞こえていた。


 アズハは路地の中にひそむようにあった、錆びついた金属の階段を駆け上がり、屋上に出た。

 サイボーグ兵たちが階段をかけてくる音が聞こえる。

 アズハは屋上を走り抜け、ユウカを抱えたまま、軽々とむこうのビルの屋根へととび移った。


「すごい......」


 屋上を走りながらアズハはユウカにたずねた。


「EMPグレネードはまだあるか?」


「もう一つ」


「サイボーグはこれくらい簡単に跳んでくる。奴らが追い付いてきたところで、EMPグレネードを投げろ」


「わかった。でも……」


「私はただの人間だ。私にEMPは効かない」


 ただの人間の跳躍力ではなかったが、それ以上気にしている暇はなかった。

 顔をのばしてアズハの背後を見ると、アズハが言った通り、後ろからサイボーグ数体が追いかけてくるのが見えた。

 サイボーグの跳躍力も速度も、アズハを凌駕していた。距離が縮まってきた。


 このままでは追いつかれる。アズハが跳躍した瞬間に、ユウカはEMPグレネードを背後の屋上に向かって投げた。

 アズハを追いかけて跳躍した機械化兵一体が、空中で機能停止して、ビルの間に落下していった。他のサイボーグは向こうの屋上で倒れている。


 うまくいった。

 もうユウカにできることはない。

 ただ運ばれながら、見上げれば、星空が超人のようなアズハの無機質な仮面の向こうに広がっていた。


 アズハはまるで重さを感じないようにユウカを抱え走っていく。

 銃声はもう聞こえない。

 赤線地帯のはずれの低いビルから、アズハは走行中のトラックの荷台にとびおりた。トラックから暗い路地に駆けこんだ頃には、追っ手の気配はまったくなかった。


 数十分後、2人は二級市民地区のはずれ、三級市民地区を囲う有刺鉄線付きの塀の傍にある廃墟ビルの上にいた。

 片側には二級市民地区のきらきらと輝く夜景が、反対側には暗い闇の海に廃墟が沈んだ三級市民地区が広がっていた。 


 何台ものパトカーが赤い光を点滅させながら、けたたましくサイレンを鳴らして、赤線地帯へと走って行く。その動き続ける赤い光を見おろしながら、アズハはどこかやさしく、悲しそうな声でつぶやいた。


「あなたって本当にバカ。もう元の世界には帰れないのに」


「バカでいいの。あなたと一緒に生きていられるなら」


 アズハは答えなかった。ユウカはさらに続けた。


「わたしは死んだみたいに生きていくより、短いあいだでも好きに生きたい」


「じゃあ、私も好きにしていい?」


「え?」


 不意にアズハは仮面の下部をはずし、ユウカの顔を覆っていたマスクをおろした。

 気がついたときには唇がふれていた。


 一度おさまっていた鼓動と熱がユウカの胸からあふれでてきた。

 闇に沈んだ世界が、一瞬にして命を吹きこまれたように色彩をもって輝きだしたような気がした。

 この瞬間のために生きてきたとでもいうかのように、すべてが色のない闇のなかで鮮やかに息をしているように感じた。


ありがとうございました。

第1章終わり、という感じの場所ですが、とりあえず、ここで連載は終わります。

続きは、気が向いたら。

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