プロローグ
見上げれば満点の星空が無機質な仮面の向こうに広がっていた。
月は妖艶なまでに美しかった。
仮面の人間はまるで重さを感じないようにユウカを抱え走っていく。
ビルのふちからアズハが跳躍し、宙を横切っている間、心臓が浮くように感じる。だが、いくら心臓の鼓動が激しくなっても、ユウカは不安も恐怖も感じなかった。
ユウカは自分を抱きかかえ、ビルの間を跳躍して行くアズハの仮面とその向こうの夜空を見上げていた。
今夜は美しい。
絶望的に危険で、どうしようもなく美しい。
しばらくの間、まるでBGMのように銃声が響いていたが、すでにその音は鳴りやんでいる。
追手の機械化兵の姿も消えた。
赤線地帯のはずれのビルから、アズハは走行中のトラックの荷台にとびおり、トラックが信号待ちの車列に近づき減速すると、とびおりて暗い路地に駆けこんだ。
数十分後。2人は廃ビルの屋上にいた。
片側には二級市民地区の夜景が、反対側には暗い闇に沈んだ廃墟の海、三級市民地区が広がっていた。
何台ものパトカーがけたたましくサイレンを鳴らして広い道を動いていた。赤い光が点滅しながら赤線地帯にむかって流れていく。動き続ける赤い光を見おろしながら、アズハはつぶやくようにユウカに言った。
「あなたって本当にバカ。もう元の世界には帰れないのに」




