第21話 生活の基盤
初めてにも関わらずたくさんの方に読んでいただき感謝です!
物語が多少地味ではありますが、最初のうちは現実世界の感覚を大事に進めているので、多少小説としてはペースが悪いですが、今後少しづづペースアップしてくると思いますので、楽しみにしていただければ幸いでございます。
翌日から、生活は決まった形になった。
朝はギルドの奥にある小さな部屋へ行く。
言葉を教わる時間だ。
最初のうちは、昨日と変わらない。
短い単語。区切られた文。
聞いて、真似して、直される。
それでも三日もすると、感覚が変わってきた。
音が、ただの音じゃなくなる。
意味を持って、頭の中に残る。
(……文の並び、英語に近いかも)
単語はまったく違う。
でも、文法が似ている。
主語が来て、動詞があって、目的語が続く。
最後まで聞かなくても、途中で意味が取れる。
午前の終わりには、簡単な指示なら聞き返さずに分かるようになっていた。
午後は仕事だ。
最初は、倉庫周りの雑用が多かった。
荷を運ぶ。数を確認する。移動する。
言葉が少し分かるだけで、仕事は楽になる。
無駄な時間が減る。確認が短く済む。
二週目に入る頃には、町の中の仕事も増えた。
短い距離の護送。荷の受け渡し。
危険なものはない。
それでいい。
ルーシーは、頼まれたことだけをやった。
無理はしない。
でも、止めもしない。
その繰り返しだった。
三週目には、言葉の部屋でやり取りが成立し始める。
「……今日、仕事?」
「午後から」
「……気をつけて」
短い。
でも、ちゃんと意味がある。
返す言葉も、自然に出る。
「ありがとう」
発音はまだ甘い。
それでも、通じる。
四週目。
袋が、少し重くなってきた。
数は数えていない。
でも、お金を多少使っても不安にならないくらいにはなっている。
(……結構、貯まってきたな)
倉庫にいた頃とは違う。
食事も寝床も、「与えられるもの」じゃない。
自分で選べる。
言葉も、仕事も、生活も。
全部が、少しずつ繋がってきた。
言葉を学び始めて、もうすぐ一ヶ月。
大きな出来事はない。
派手な変化もない。
でも――
(……ちゃんと、ここでの生活基盤ができた)
町の音が、前よりはっきり聞こえる。
人の言葉が、少しだけ分かる。
ルーシーは歩きながら、袋の重さを確かめた。
急ぐ必要はない。
でも、もう立ち止まってもいない。
ここに来た時に感じた予感は、間違っていなかった。
ここから先は、
自分で仕事も選べる。
明日で、ちょうど一ヶ月。
そう思うと、胸の奥が少しだけ軽くなる。
「自由」が、やっと手の届くところに来た気がした。
ルーシーは、ほんの少しだけわくわくしながら、ギルドの扉を押した。




