選びとるもの18
予定通り、モーゲンの食堂で姉たちの作ってくれた昼食をしっかり食べた後、私とクリスは聖騎士候補生二人と、それにモーゲンの村長であるデュアン、聖騎士養成校学長のグイードを伴って王都へと戻った。
戻ってすぐに女王エレノアへの謁見を申し込む。もちろん説明役のクリスも込みでだ。
今から申し込んでも、多忙な女王の予定を空けられるのは早くて夜だろう。場合によってはそのまま御前会議に雪崩れ込む。その前にこちらで出来る限りの準備を進めておく必要がある。ここからは、時間との戦いだ。救出者たちを受け入れるための準備も予定通りしなければならないが、戦うための準備もしなければならない。
聖騎士候補生たちは騎士候補生たちと合流してもらった。彼らはこれから調査隊メンバーから説明を受け、明日には現地に旅立つことになる。まだ成人していない候補生たちには少し進行が早く負荷がかかるかもしれないが、頑張って欲しいところだ。きっと全てこなした後には一回りも二回りも成長してくれていることだろう。
予定表を作っていたレオンには、無理を言って明日までに線引きをし直してもらうことにした。前調査は最小限に留め、戦闘の準備期間を確保する。理由を言わずにスケジュールの立て直しを頼んだら、レオンは、うわぁぁと顔をしかめた後、それでも何も聞かずにすぐに取り掛かってくれた。
クリスは王立魔導宮へと戻り、魔導師団長との相談に入るとのことで王城に入ってすぐのところで分かれた。魔導宮内との連絡役に、セティをこちらにやると言ってくれた。
モーゲンから連れてきたデュアンとグイードは、騎士団に挨拶に行った。騎士団の事務所でモーゲンの現状を騎士団と共有するために地図を広げているはずだ。モーゲンとその近辺は四十年前と比べて多少建物は増えたが大きくは変わっていない。変わらないようにジョイスとデュアンがあの村を守ってきたのだ。
デュアンは今でこそモーゲンの村長をしているが元は騎士団所属の騎士だ。騎士団長ダリオン、それに調査隊で班長をやっているザザとも同期。グイードもそこからいくつか下だがやはり元騎士だ。二人とも、モーゲンという特殊な村を守るため、自ら望んで退役し今の役職に就いた。そんな二人だから、騎士団は勝手知ったる古巣だ。村の防衛については彼らが策を詰めてくれるだろう。
「ルノー、冒険者ギルドに行って。ギルドマスターに城に来るように知らせを」
「はっ」
私の言葉を聞いて年若い騎士が即座に返事をした。普段斥候として動くことも多い、騎士の中でも身軽な青年だ。真直ぐ私に向けられた目が、今すぐ行っていいかと問うている。頷けば、即座に事務所を飛び出していった。
「ゲイル、あなたは神殿へ。可能なら大司祭、無理なら神殿の幹部を連れてきて。早ければ夕方には会議が始まるから、それまでに」
「承知しました。……なんとかしてみます」
「何か文句を言ってきたら、私にぶん殴られたくなかったら早く来いって言ってやって」
「……はは、それはすぐに来てくれそうですね」
神殿は昔と違い王の統制下に入ったが、それでも他の機関に比べて反応は鈍い。師匠である零の聖騎士リドルフィもだが、私も今までに何度も神殿の幹部とは喧嘩をした。実際に私自身が鉄拳制裁を行ったことはないが、それでも多少効果はあるだろう。理由を説明できれば、一も二もなく飛んでくるだろうが、まだ女王に話を通せていない。今やれるのは私が脅すことぐらいだ。
私は一度地図をちらりと見て、目を細める。次の指示を出す。
「レゼ、今すぐ使いを出して、ガルドとヴィンスを呼び戻して。セシルは王城内にいるわね?」
「承知しました! いるはずです」
「アルフレッド、セシルを探してきて」
「わかりましたっ!」
戻ってきて唐突に指示を出し始めたのだから何事かと気になるだろうに、皆、理由は聞かずに動いてくれる。まるで私の指示を待っていたかのような、その反応に私自身が面食らうぐらいに。それだけ信頼して貰えているということだろう。私も彼らであれば信頼できる。私は本当に良い仲間に恵まれたのだと思う。
必要なメンバーを呼びにやるための指示を出し終えたところで、一瞬、間が空いた。その間も事務所にいる者たちは皆、指示を待つように私の方を向いて待っていた。その顔を見渡して、私は笑みを浮かべる。
「ルイーナはレオンを手伝ってあげて。他の騎士たちで手の空いている者は、武器と自分自身のメンテナンスを」
私の言葉にすでに自席ですでに作業に取り掛かっていたレオンが助かったという顔をした。名指しで指示を受けた女騎士が小気味良い返事をして彼の方へと向かう。室内に残っていた数人の騎士は、簡易敬礼をその場でして、早速部屋を出て行った。
「……リチェさん、私は?」
最後に残っていたヘレナが丸い目を瞬いて問うてきたので、私は微笑む。
「もうちょっとしたらクリスが来るから、彼のメンテナンスを。多分ほとんど寝てないはずよ。目もしょぼつかせていたし、背中とかきっと鉄板みたいになってるわ。彼にはまだ働いてもらわなきゃだから」
「承知いたしました」
なるほど、と、ヘレナが頷く。そして、「なら……」と私を見て手をワキワキと動かした。
「待機中にリチェさんのメンテナンスもさせてもらっていいですか?」
彼女の表情に、これは難民たちの護衛中の不摂生や寝不足がバレているなと悟る。あの状態のヘレナはかなり頑固だ。私は無駄な抵抗を諦め、苦笑を浮かべた。
「えぇ、お願い」
調査隊の敏腕司祭は、お任せください、と満足そうな顔で笑った。




