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探求者  作者: あきみらい
最終章 選びとるもの
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選びとるもの13


「そう言えば、頼んでた担当分けなどは決まった?」


 近くの席にいたレオンに訊く。私と同じように事務仕事をしていた彼は顔を上げると、はい、と頷いた。私が難民たちの護衛に行く前に彼に頼んでおいた仕事、集団行方不明事件の被災地の復興準備の件だ。

 私が『何か』の向こうにいた者たちと接触したことで、行方不明になっている集落の住人たちの生存が判明した。正直なところ、あちら側で眠らされている状態が本当に生存と呼べるのかはよく分からないが、とりあえずこちらに戻せるとは言われた。戻ってきた者たちは、後遺症なども考えて一時保護する必要はあるだろうが、それでも早いうちに元いた村に戻すことになるだろう。

 一番初めに行方不明者が出たのは今年に入ってすぐのことだった。そこからもう半年近く経っている。長期化しそうだと分かった時点で、腐敗しそうなものなどは調査に入った者たちの手によってある程度撤去されている。それでももう一度住めるようにするにはかなり手間だろう。騎士団や王立魔導宮の魔導士たち、それに司祭たちなどが、全面的に復興支援に入ってくれることになっている。

 調査隊が主に受け持つのは、そのための再調査と見積、初動の部分だ。私がレオンに頼んでいたのは、そのための手配やメンバーの担当分け、それに資材調達などの段取りだ。


「一部、うちだけでは人数が足らなくて保留になっている部分がありますが、それ以外はほぼ固まりました」

「どこ……?」


 自分の席から立ち上がると、私はレオンの方へと歩いていく。

渡された書類を受け取り、目を通す。少し四角張った几帳面な文字が並ぶ書類を読んでいくと、確かに空白が目立つところがある。調査タイミングや作業内容、持ち込み資材などは全て埋めてあるのに、実施予定者の欄が空いている。現場責任者の欄は全て埋まっているが、同行し作業を行うメンバーが足りていない。


「ん-、この作業とか、騎士じゃなくても出来そうな感じがするんだけど、その認識は合ってる?」

「あってます。力仕事とかも混ざっているんで、多少なりとも鍛えてある必要はありますが」


 ふむ、と頷いた私は、改めて書類を確認する。空いている枠は合わせて十ほど。


「この作業の守秘レベルってどれぐらいだっけ?」

「言いふらさないって簡単な書類にサインが必要なぐらいですね」

「なら、年長の聖騎士候補生と騎士候補生でもいけるんじゃない?」

「……あー、なるほど!」


 レオンには目から鱗だったらしい。ください、と手を出されたので書類をその手に返す。彼は空欄になっている部分をざっと目を通し、手元のメモにあれこれ書き留め始める。横から覗いてみたら、現場責任者はそのままに、それ以外のメンバーを組み直していた。おそらく候補生たちの指導もできるよう、向いている者の再配置をし始めたのだろう。


「聖騎士候補生からは二名出せると思う。騎士候補生の方は調整任せて大丈夫よね?」

「えぇ、この後騎士団事務所と騎士学校の方に顔を出してきます」

「お願い」


 この件はこれで大丈夫だろう。レオンの机を離れて、私は自分の席に戻る。

その途中、視界に入った地図に立ち止まった。目立つように色付きのピンが刺してあるところが六ケ所。どれも集団行方不明が起きた現場だ。六ケ所合計で約百二十人。けして少なくない人数がもうすぐ帰ってくる。

 それは、とても喜ばしいことだ。行方不明が判明してからずっとこの件に関わっていた誰もが望んでいたこと。もっと晴れやかな気分になっても良さそうなのに、なぜか心が動いていない。素直に喜ぶところまで至れていない。単に実感がないだけかと思っていたが、なんだかまだ何か見落としがあるような気がしてならないのだ。


「あ、おかえりなさい!」


 部屋の入口の方で明るい声がした。受付役を引き受けてくれているルイーナのものだ。調査隊のメンバーでも年若い数名は入り口近くに席を持っており、調査隊にきた来客の対応をしてくれたりしている。


「セシルさん! リチェさん帰ってきましたよ……!」


 聞こえた名前に、私は思わずその場で固まった。「そうか」といつもの口調で応えた低い声を耳が拾った。分かるはずがないのに彼の視線が私の背中を捉えたのを感じた……気がする。自分でも、なんでここまで意識するのか。小娘でもあるまいに。そう心の中で己を叱咤してみるが、自分の鼓動まで感じるようになってしまっていて手遅れっぽい。

 上手く振り返る事も出来ずに、地図を見ながら深く考え込んでいる風を装いながら、耳は入り口の方から歩いてくる足音まで拾っている。今、この部屋にはそれなりに人数がいるから誰かが話していなくても物音はたくさんしているはずなのに。


「リチェ」

「あ、おかえり」


 私はぎこちなさがないようにひどく苦労しながらゆっくりと振り返る。さもたった今、気が付いたという風を装って、へらりと笑った。笑いながらまるで戦闘中のように即座に周りを確認する。大丈夫、こちらを見ている者はいない。セシル以外は。


「ただいま。そっちもおかえり。護衛任務お疲れ」

「ただいま。ありがと」


 彼がそれ以上は特に何も言わず、自分の席へと向かう様子に、私はこっそりと胸を撫でおろした。






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