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探求者  作者: あきみらい
第五章 のぞむもの
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のぞまれたもの(前)


 到着した援軍は、状況を予め全て分かっていたかのように素早く対応した。

三の聖騎士ガルドと四の聖騎士ヴィンスの二人が中心となり、騎士団や魔導士、司祭の手を借りて、集落内にいた魔物を討伐していく。

あちこちで倒れていた敵兵たちは捕縛され、必要に応じて治癒を施された。

家々を燃やし尽くす勢いの炎は、魔導士たちの手により消火された。

悲しい魔物たちの遺骸は、司祭たちの祈りにより光になり空へと還された。

私を安全な後方に運んだ後自らも剣を持ち、二の聖騎士セシルがこの戦場の指揮を執った。


 セシルに抱かれ治療のために馬車に運び込まれている途中の、本当にボロボロな状態の私の姿を、クリスに連れられたセティが真っ白な顔で見ていた。きっと心配してくれてのことだろう。泣くのを耐えているようなそんな少年に、私は微笑んでみせる。


「リチェさん……」


 声はかけてみたものの、何を言えばいいか分からない。そんな躊躇いや困惑といったものを隠さず浮かべた目。なんとなく幼かった頃の自分を思い出した。きっと神樹を切り倒し、ボロボロになった養父母を迎えた時の私もこんな顔をしていたのではないかと思う。

 ほんの少しだけ視線を上げれば、セティの背を守るようにいるクリスと目が合った。まるで、よくやったと褒めてくれるように頷くその目に、私も頷くようにゆっくりと瞬く。そうして再びセティを見つめる。


「……大丈夫、よ」


 あの時の養母もそう言った。自分を案じた私に、痛みも何もかも呑みこんで笑ってみせた。もう心配しなくていい、と、請け合うように笑っていた。あの時の養母と同じところに、やっと辿り着けた。




 集落の門前に停められた馬車の中に寝かされ、私はその状況の報告を一つずつ受けた。

 私の傍らで司祭ヘレナが泣いている。泣きながら私の体を治癒している。護衛を兼ねてルイーナとレゼがヘレナの補佐をしていた。いつかと同じようだと笑うと、怒られた。敵兵たちと戦っていた時は無傷だった私だが、魔物たちとの戦いで何カ所も骨が折れていたらしい。強く噛みしめ過ぎて奥歯が割れていた。酷使され過ぎた筋肉が、あちこちでぶちぶちと切れかけていた。

 打撲に裂傷、擦り傷。限界まで使い果たした魔力も体力も、そして心も。彼女たちがその柔らかく温かな手で癒してくれた。

 濡れた布で唇を湿らせるようにして、水も飲ませてくれた。ゆっくりと、ひりつくような渇きが癒え、私の中の何かが再び潤いを取り戻していくのを感じる。そうしてやっと、目尻から熱いものが流れていった。


 朦朧としつつも、なんとか気絶せずにいた私のところに、何人も見舞いの人が訪れた。


「リチェ……」


 私の枕もとで、バーンが馬車の床に座り込み、項垂れ、泣いていた。私の手を握り、生きていてくれて良かったと何度も何度も繰り返す。恥も外聞もなく、大人の男がそうやって泣いていた。何度も何度も感謝の言葉を重ねられた。彼が守っていた職人たちは誰一人欠けることなく、全員無事だと教えてくれた。若者二人も一緒に保護されたと教えてくれた。

義父に似た背中を持つ元冒険者の男剣士が流す涙に、ほんの少し救われる。義父も生きていたらこんな風に泣いてくれただろうか。


 馬車のすぐ外には騎士団付き筆頭秘書のレミリアが居て、そこで戦況報告を受けながら全てを記録していた。そこで行うことで馬車の中に寝かされた私にも全て聞かせてくれた。その配慮は謝罪の代わりなのではないかとひっそり思った。きっと彼女も、全てを知った上でここにいる者の一人だ。

  

 助けた職人たちが馬車を覗きに来て、ルイーナに今は無理だと断られていた。布製の幌の外から、口々に礼を言われた。返事をしたくてもまだ碌に声が出ない私の代わりに、泣き腫らした目のままバーンが出て行って、彼らを連れて行った。


 バーンと一緒に戦っていた五人の騎士たちもそっと窺いに来た。

職人たちと同じようにルイーナに断られ……。その場できっちり五人揃えて、カツ、と踵を鳴らした。本来は戦死者と王に対してのみするはずの最上位の敬礼。聞こえた音でそれを知った私は目を閉じた。動かない手でその場で敬礼しようとした私の耳に、「リチェさんは生きてます!!」と怒るルイーナの声が入ってきて、笑ってしまった。傷めた喉で笑ったせいでむせてしまい、ヘレナを慌てさせた。


 バルトザックとケレスも来た。どうやら重要参考人扱いされているらしく、騎士の監視付きのようだ。馬車の外で「そこで喋れば聞こえる」と促されて、しばらく迷ったらしい間を空けてから、バルトザックの彼らしい大きな声が聞こえた。


「ありがとうございました……!」


 何をと言わないのは、きっと胸の内にあるいろんなものを含んでいるからだろう。

少し遅れてケレスの声も聞こえた。


「……師匠を、死なせないでくれてありがとうございました」


 その言葉に朧げな記憶を辿る。目くらましの光弾を受けた魔導士がその後どうしていたか、残念ながら思い出せない。ただ、魔物たちが暴れ始めた後、確かに魔導士らしき者も助けてやったような気がする。震える青年の声が何を意味しているのかまでは分からない。でも、なんとなく。らしいな、と思った。命を助けたことよりも、己の師に償いの機会を与えたことに礼を言っているような、そんな気配を感じた。




 やがて、外で歓声が上がった。

大勢が戻ってくる足音が聞こえる。騎士団の小隊長が号令をかけている。たくさんの声や物音に混ざって一番聞き慣れた声が遠くから近づいてくる。

それらを聞きながら、私はゆっくりと意識を手放した。辺りは暗いのに。まるでよく知った部屋で日向ぼっこをしているような、そんな安らかな気分だった。





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