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探求者  作者: あきみらい
第五章 のぞむもの
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のぞむもの28


 光弾を叩きこまれた魔導士が、仰け反った。敵の発動直前だった魔法が狙いを外し、空へと撃ち上がる。まるでそれは王城の真上で今も続いている打ち上げ魔法のように、空に光の花を咲かせた。魔導士は眩い光に視界を焼かれたようで、目を抑えている。生活魔法を応用した目くらましでしかない光弾だが、きっちりと目的は果たしていた。


「……師匠っ」


 聞き覚えのある掠れた声に、私はちらりとそちらを見た。ケレスだ。ということはあの魔導士はケレスの師匠ということか。く、と、唇を噛む。撃ったのは単なる光弾だ。一時的に視力は奪ったが物理的ダメージは一切与えてない。ケレスは心配しているかもしれないが、今、彼に構ってやる暇はない。

 思考していたのはほんの一瞬。私は再び動き出す。この体がもつ内に可能な限り敵を無力化し、職人たちを逃がさねばならない。敵の捕縛はこの際、二の次だ。こんな人数を今、こちらの手勢だけで捉えるのは無理だ。


「うわぁぁぁっ」


 上がった悲鳴に、反射的に呪文を唱える。養母が組み替えてくれた極限まで簡略化された詠唱。


「守護盾っ!!」


 屋根から飛び降り、走りながら叫ぶようにして術を完成させる。バーンが抜けたことで手薄になったところに、敵兵が迫っていた。震えながら斧を振り上げている職人の前に、大きな光の盾が出現した。突然現れた盾に職人が驚いて尻もちをつく。慌てて周りの職人仲間が彼を引きずり後ろに下がる。その空いた場所に私は滑り込むように割り込んだ。


「下がってっ!」


 薄い盾を叩き割るようにして斬り込んできた敵を剣で受ける。ぎーんっと金属と金属が激しくぶつかり合う音が響いた。重い一撃。私は、ぐっと重心を下げることでそれを受け止めきる。間近になった敵兵の男を睨み、体のばねを使って無理矢理弾き飛ばす。即座に後ろに飛んだ相手は追わずに、その場で足の置き位置を変え、身構えた。

 そんな私たちの方に、若者二人を背負ったり支えたりして、職人たちとバーンが戻ってくる。


「他はっ?!」

「これで全部だ!」


 私の問いに答えながら、バーンが私の隣に並ぶ。純粋な力で言ったら私よりもバーンの方がずっと強い。さっきの相手と打ち合うなら私よりバーンの方が適任だ。私は場所を譲るように、じりりと横にずれる。ふ、と、バーンが息で笑った。それだけで十分だった。


「このまま後退する! 私とバーンで食い止めるから門へ!」

「はっ!」

「おぅ」

「わかったっ!」


 バーンが言うならこれでこちら側の者は全員だ。健気にたった五人でこの街を守っていた騎士たちが同時に応える。それに僅かにずれて職人たちも返事をする。私が無傷のまま何人も倒したことで少し安心したのだろう。声が力強い。戦闘職ではないが、鍛冶師などは冒険者などを相手にする者たちだ。肝は据わっている。背後で動き出すのを感じながら、私は前を見据える。探査の魔法で視界に重なる光の点の位置を確認する。バーンに背を預けるようにして後方も確認し、退路の途中に回り込もうとしている者を見つけた。


「西っ!」

「はっ」


 私の声に騎士が即座に反応した。そちらは任せる。腰のポーチからポーション瓶をまた引っ張り出す。重ねて飲むほど効き目は減っていく。でも、飲むしかない。今飲まないと次はいつ飲めるか分からないから躊躇わずに飲み干す。さすがにそろそろ救援部隊が到着するはずだ。何か見落としがあるような気がしてならないが、今踏ん張り切れば、職人たちを守り切れるだろう。おそらく、この状況を仕組んだ者もこちら側に不要な死者が出ないようにタイミングを見ているはずだ。怪我人が出ても死者は出さない。その状況を作り出すために、わざと職人たちの移住をこんな男性だけ先に、なんて誂えたような形で行ったのだ。


「リチェ姐さん、俺も残る……」


 背後から聞こえた声に振り返らずに首を横に振る。


「怪我してるでしょ。皆と下がりなさい」

「……でも……あれはどんなに強くても姐さん一人じゃ……」


 バルトザックの声が震えてる。聞こえた言葉に私は片眉を上げる。そう言えばさっきも彼は何か伝えようとしていた。


「何?」

「……余計なことは言うな、ザック」


 私の問いに、前方から割り込んだ者がいた。さっきから何度か声だけは聞いていた、敵側の指揮官。黒っぽい姿は見ていたがこちらに仕掛けてこないため、まだ剣士なのか魔導士なのか、それ以外なのかすら不明の人物。錆びた声に少し癖のある訛り。なんだか酷く不快な感じがする。


「バカなやつらだ。あれを見て、それでもそちら側につくか」


 ははっと笑う声が響く。火事の明かりを背負うように立っている男の顔は見えない。


「バルトザック、下がりなさい。聞かなくていい」

「一の聖騎士、随分と強気だな」

「えぇ、女だてらにこのマントを纏うにはそれなりに度胸も必要でね」


 私の言葉に、更におかしそうに男が笑った。

 さっき斬り込んできた男は、指揮官の隣へと移動している。牽制するようにバーンが長剣を握り直す。私はもう一度、下がれと言いながら、自分自身も一歩下がる。バーンもそれに合わせて後退する。あちらは何か隠し種を持っているようだが、先に皆を逃がしてしまえば、とりあえずはこちらの勝ちだ。

出される前に撤退した方が良い。幸い、後ろに回り込んだ敵に対処していた騎士は、なんとかなったようだ。


「さすが、それでこそ英雄の後継者! 最近は詩人の真似事までして、次はお前が君臨するつもりかっ!」

「……さぁ、どうでしょうね」


 あぁ、こいつは本当に敵だ、と、今更実感する。命令されて向かってくる兵ではない。成り行き任せに、長いものに巻かれている者でもない。自分の意思でこの場に居る。この新しい街を焼き、職人たちを傷つけ、そして何かを為そうとしている。


「知っているか。かの戦乱期中、何人の聖騎士が我らに壊されたのかを」

「……何?」


 その時。

ぞわり、と、背筋に何かが走った。


「……光よっ!!!!」


 新たに守護盾を追加しようにも間に合わない。私は、咄嗟にバーンの前へと躍り出る。刀身に当てた左の手のひらにその刃が当たり、切れた。聖剣が強い光を帯びる。それを血が滲んだ左手も使って両手で構える。


 目の前で。

展開してあった守護盾が、割れた。

眩い光が、私の目の前で炸裂した……っ!!




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リチェ!負けないで!(泣)
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