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探求者  作者: あきみらい
第四章 見つけるもの
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まだ謳われぬ詩


 アティスはそんなに大きくはない村だ。前に行ったサイルーンとは比べようもないし、バレーラと比較してもこちらの方が小さい。全員合わせても二十人ほど。待機している間に見せてもらった小麦畑の広さを考えるとびっくりするほど少ない。

 村の中央にある農家に、村の人たちは集められていた。調査隊の騎士たちも数人混ざっている。家主によってお茶が振舞われていた。室内にいる調査隊のメンバーもレゼさんをはじめとした女性と俺、セティなので、避難中ではあるけれどあまり物々しい感じはしない。元々村の話し合いなどにも使われる部屋は大きく、その隣にある調理場や他の部屋に人が行き来しているのもあって、息苦しさなどはあまりなかった。


「ねぇねぇ、セティ」

「セティ!」

「うん?」


 窓の外を眺めていたら、村の子に声をかけられた。この村に子どもは彼女たち姉妹しかいない。似た年というには若干離れているけれど、それでも滞在中に懐かれるまでには時間は要らなかった。


「今って、あの聖騎士様が何かと戦ってるんだよね?」

「だよね?」


 姉のリンダが少し不安そうに、でも、好奇心を抑えられないような様子で訊いてきた。リンダの真似をして妹のイーダもちょっと偉そうに聞く。

『何か』のことなどは村の人たちに知らせられないので、曖昧にぼやかしてある。村の人たちを攫って行く変種の魔物が……などと、割とおとぎ話のような内容がリンダたちには知らされているようだ。


「うん。今頃リチェさんが頑張ってるはずだよ」


 俺はちょっとだけ考えてから、嘘でもないけど何の説明にもなっていないような言葉を返した。それでもリンダやイーダには十分だったようだ。そっかぁ、とこくこく頷く。俺はカーテンの隙間から外を覗くのをやめて、窓辺から離れる。ここに居続けると二人まで外を見始めてしまう。

 まだ魔物の気配は感じないし、外を見ても男性騎士たちが待機しているだけで動きはない。いざとなったら、俺はこの農家から外に出て戦わなければならない。俺には騎士たちの武器に魔法の付与をする役割がある。でも、今のところまだそんな気配は微塵も感じなかった。


「ねぇ、セティもあの武勲詩って歌える?」


 多分暇なんだろう、そんな風に会話を続けてきたリンダに頷く。二人を窓から遠いテーブルの椅子に誘導しながら俺は苦笑する。


「歌詞は全部覚えてるけど、俺は歌うのは得意じゃないかな」

「えー、そうなの?」

「なの!?」


 考えてみると歌ったことは一度もない。何度も聞いていたし、クリス師匠に連れられてモーゲンにも何度も行ったことがある。謳われている聖女グレンダは俺が生まれるずっと前に亡くなっているけれど、聖騎士リドルフィことリドさんと話したこともある。

 テーブルの方に向かえば、二人のお母さんからにっこり微笑まれた。ちょうど用意していたところらしい。カップを三つ、こんこんこん、と音を立ててテーブルに置かれる。


「良かったらセティもお飲み、ありがとうねぇ」

「あ、どうも」

「わぁ、ホットミルクだ!」

「お母さんのホットミルク、美味しいんだよ」


 妹のイーダの方が歓声をあげる。蜂蜜か何か入っているらしい。ほんのり甘い匂いがする。大喜びでカップを持ち上げ飲み始めるイーダの横で、リンダも嬉しそうにしながら勧めてくれた。

 本当はいつでもすぐ動けるように待機していた方が良いんだろうけれど、と、少し困って見渡せば、俺に気が付いた女騎士のレゼさんが大丈夫という風に頷いてくれた。なら良いかなと判断して俺も二人の横に座る。どうぞ、とリンダが渡してくれたカップは温かい。初夏に入りかけの今飲むにはちょっと熱いかなとも思ったけれど、口を付けてみたらなんだかとてもホッとした。


「聖騎士様かー。カッコいいよねぇ。特にリチェさん。女の人なのに聖騎士様になれるんだねぇ」

「ねー」


 リンダに同調するようにイーダが訳知り顔で相槌を打つ。その様子がおかしくてちょっと笑ってしまう。リンダの方もだけど、まだ祝福も貰っていないイーダは、きっとリチェさんの凄さの半分も分かっていないのに、それでもなんだか少し嬉しかった。


「ねぇ、もしかしてさ」

「ん?」


 素敵なことを思いついた、という風にリンダの声が弾んだ。


「リチェさんの武勲詩もそのうちできたりする?」

「する?」


 ぱちん、と手を叩いて言うちょっと高い声が部屋の中に響いた。聞くともなしに聞いていたらしい大人たちが微笑ましげにこちらを見ている。リンダに問われた俺はと言うと、思いつきもしていなかったことなので、目を丸くするしかなかった。


「……え。」


 ごくんと口の中にあったホットミルクを飲みこんでから、考える。確かに今一番有名な武勲詩は聖女と聖騎士のものだ。人々を救った英雄、人の光となる者たちの歌。リチェさんも聖騎士で、そして今、前代未聞と言っていいような事態と戦っている。この村の人たちを守るために、今頃『何か』に接触を試みているはずだ。それは確かに命がけで、武勲詩などで謳われてもいいようなことのように思えた。でも……


「……どうだろう」


 クリス師匠が以前話していたことを思い出す。聖女グレンダはずっと長い時間人々を守っていたのにもかかわらず、歴史の表舞台に出てきたのは神樹を切り倒した後からだ。それ以降も本人の意向に従って、名は伏せられ正体は隠されていた。彼女の本当の姿を知っているのはごく一部の限られた人だけであり、彼女は聖女として謳われるようになった後も、それまでと同じようにモーゲンで静かに過ごした。

謳われるということは、歌う人がいるということだ。歌を広めようとした人が居るってことだ。今ある聖女たちの武勲詩は、当時の国王や改革を行おうとしていた神殿などが率先して広めたって師匠が話していた。

 なら、リチェさんの武勲詩ができた時にそれを歌い、広めようとするのは誰だろう。


「リチェさんの武勲詩、できたらいいなぁ。できたら私覚えて歌うんだ。会ったことがあるんだよ、守ってもらったよ、って、いっぱい自慢しちゃう」

「イーダも! イーダも!」


 うっとりと言う姉に賛同して、妹もぴょんぴょこ跳ねる。その振動でテーブルに置かれたカップも跳ねた。中身が零れる前に慌てて持ち上げる。俺が持ち上げたカップを、二人のお母さんが受け取ってくれた。


「確かにねぇ。あの聖騎士様もいつか謳われたりするのかもねぇ」


 娘たちに落ち着きなさい、という風に肩を押さえて座らせてから言われた言葉に、俺はもう一度窓の方を見る。しっかりカーテンを引かれているため外は見えないけれど、その遥か向こうにいるリチェさんのことを考える。


「……確かに、俺も、リチェさんの武勲詩だったら歌ってみたいな」


 もしかしたらそこには仲間としてクリス師匠や俺のこともちらっとだけ出てくるかもしれない。

そう思ったらなんだか俺までワクワクした。


 そうして、ふと気が付いた。

リチェさんの武勲詩を歌うのは、近くで見ていた俺や、リチェさんに守られたこの子たちなのかもしれない、なんてことに。





我ながら書いていてちょっとビックリしつつ、サブタイトルを着々と回収しています。

ただ、リチェの武勲詩は、リドたちの武勲詩よりも内容がとびとびでやたら長くなりそうですよね(汗)

リドたちの武勲詩を作る時もかなりの時間悩みましたが、リチェのはもはや文に起こしたくないレベルかもしれません……。いっそ、誰か作って。セティ君、頑張って!?

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