見つけるもの25
その後も私たちの全く知らなかった話をミリエルは次々に明かし、クリスはその全てをメモに取っていた。三人の聖騎士たちは頭の中で情報を整理するのに忙しいのか、ほとんど口を挟まずに聞き役に徹していた。私はというと困惑しつつも、一つの可能性に気が付いてそのことばかり考えていた。
扉をノックされて、我に返る。約束していた一時間が過ぎてしまったようだ。慌てて立ち上がり応対に行く。すごく申し訳なさそうに時間だと告げる王城のメイドに、わかった、と素直に頷いた。
「今日はこれでお開きね。クリス、悪いのだけどミリのことをお願い」
「承知しています。……ミリ、モーゲンに送りましょう」
「ありがとうございます」
振り返り言えば、それぞれに立ち上がり動き始める。
「リチェ、イリアスから伝言だ。グレンダみたいなことをするな、と」
「……了解。ごめんって言っといて」
「わかった」
ガルドからの言葉に苦笑する。きっと大変渋い顔で伝言を頼んできたのだろう。なんとなくその様子を思い浮かべれば、素直に受け取ることができた。
「俺は引き続き、準備をしておきますね」
そう言ったのは四の聖騎士ヴィンスだ。彼は、クリスが立てた予測の最後の場所、王都から南に位置する穀倉地帯にある村へ出向いている。これから起こるだろう事の準備として、村人たちの退避やその受け入れ先の交渉などを受け持ってくれているのだ。
「お願い。私も謹慎が解け次第合流するわ」
ミリエルの話を聞いたからこそ、次は『何か』の出現時にその場に立ち会いたい。先日のように出現した後の消えかけている状態では、間に合ったにはならないのだ。場所の予測がたった今、何日待つことになるのだとしても、そこに待機して今度こそ『何か』に接触するつもりだ。先日までとは違い、仲間たちも今では私があれに接触することに賛同している。
ミリエルを連れたクリス、それにガルドとヴィンスを見送って、私は小さく息をつく。
振り返れば、さっきと同じ場所に座ったままセシルがこちらを見ていた。
「謹慎中だし、あなたはいかなくていいの?」
「許可は得ている」
「そう」
謹慎ってそんなものだったかなと思いつつ、私は彼の方へと戻れば隣に腰を下ろした。
そうして、側机に置かれたものを見る。ここにミリエルを呼んだもう一つの理由。
「もしかして、とは思っていたけれど本当にできたね」
「そうだな」
手に取ったのは、水晶のようになった鉛筆と、それにくくられていたメモ。
見つけた時には完全に一体化してしまっていたその二つが、ばらばらになり、メモに至っては折りたたんでいない広げた状態になっていた。
そのような形に変えてみせたのは、もちろん精霊のミリエルだ。
「『神』のレプリカ……」
ミリエルが自分のことを最初に話してくれた時、彼女は自分のことをそう表現していた。今日も随分と説明をして貰ったが、彼女の言う『神』がどんな存在なのかは、正直まだピンとこない。ただ、人によく似た容姿をもっていながら全く性質の違う者、私たちには持ちえない力と慈悲を持っている者だということだけは分かった。イメージ的には慈悲の心に溢れる魔族といったところだろうか。魔族の特性を考えると中々シュールな感じがする。
「とりあえずそこは一度置いとけ。ミリエルが言うことが本当なら『神』とやらは味方なんだろ」
「そうね。ミリエルが嘘つくとも思えないし。……正直、全然頭が追いついていかないわ」
俺もだ、という肯定の言葉にちょっとほっとする。セシルが理解しきれないのに私が理解できるわけがない。多分あの様子だとクリスですらまだ半分も納得できていないはずだ。ミリエルをモーゲンに送るついでに更に質問を重ねていることだろう。
私は手に取った透明な板状になっているメモを改めて見る。紙と同じほど薄いのに折り曲げることも、叩き折ることも、私にはできそうになかった。透き通っているのにほんの少し光の跳ね返し方が違う部分があり、それが文字を形成している。ガラスに軽く傷をつけて文字を彫り込んだみたいな感じだ。書かれていたのは丁寧だけど少し癖のある文字。それに何かが引っ掻いたような痕。刻まれた言葉をミリエルに見せられた時に、私は悲鳴を上げた。
「……セシル、これ、どう受け取ったらいいと思う?」
ため息混じりに問えば、男は嫌そうな顔をした。私も、よりによってセシルに聞くのは一番良くないと思いつつも、他に聞ける相手がいないのだから仕方ない。私の顔をじーっと見た後、彼は渋い顔のまま口を開いた。
「とりあえず、お前があの時感じたことの裏付けにはなったな。『何か』の向こうにトゥーレのやつがいる。おそらく一緒に消えた守護の狼一頭も」
「うん……」
「どうせ、止めてもお前は行くんだろ。だから、もう止めない。ただ、絶対帰ってこい。……あと」
彼は私が手に持っていたメモを取り上げ、側机に戻す。そうしてから、私の顎を捕まえて真直ぐに見据えた。逃げられなくされた状態で見つめられて、私はつい体が引ける。が、それも許さないという風に逆の手で肩を押さえられた。
「俺は、三十年もほったらかしにしたやつになんて、お前を返してやる気はない」
「……」
透明になったメモに書かれていたのは、私があの時書いた短い文章と名乗り、そして、その返事。
『もし、そこに誰かいるなら返事を グラーシア王国一の聖騎士リチェルカーレ』
『リチェ、約束を覚えている?』
懐かしい癖のある文字で書かれたその言葉の後ろには、いなくなった幼馴染の名が書かれていた。




