見つけるもの24
あれから二日ほど、私は謹慎という名の療養休暇を言い渡された。
流石に死にかけたのは女王エレノアの目にも余ったらしい。帰投後、執務室に呼び出され、ちくりと痛い言葉と共に、大粒の涙をもらってしまった。自分でもおっさんみたいだと思ってしまうけれど、私は女性の涙に弱い。それに考えてみれば、エレノアは女王という立場でも無条件に頼れた親族の一人をつい先日亡くしたばかりなのだ。そこに来て私まで居なくなるかもしれなかったと聞いたら不安になっても仕方ない。私は甘んじてお叱りの言葉を受け、いくつかの約束を受け入れた。
王城の自室で待っていると、約束の時間ぴったりに三人の聖騎士とクリスがやってきた。クリスの肩には手のひらサイズになった精霊が乗っていた。
本当はモーゲンにある聖騎士養成校の聖女の部屋か、王城内でも会議室の一つでも借りたかったのだが、自室謹慎中のため、私の自室でやらざるを得なかったのだ。念のためエレノアには確認をしたところ、一時間以内を条件に許可が出た。
幸い、与えられている部屋はそれなりの広さがある。
私は彼らを案内してきた王城のメイドに来客が帰るまでは人を通さぬよう申し付けた。
「ちょっと窮屈だけど適当に座って。ミリ、元のサイズに戻れる?」
「はい」
ソファに書き物机の椅子と、スツールも合わせなんとか四人分席を確保し、勧める。
クリスの肩にいる精霊に声をかければ、まるで鈴の音のようないつもより細く高い声が返ってきた。ぽん、と床に飛び降りた精霊はその場でくるりと回るうちに、いつもの大きさへと戻る。その様子を初めて見ることになったガルドとヴィンスが目を丸くしていた。聖騎士養成校に在学中モーゲンにいた彼らもミリエルとは面識があり、ついでに精霊だという特殊事情も話してあるが、実際に人には出来ないことをさらりとされて驚いたようだ。
「ミリは私とこっちに座ろうか。……さて、みんな忙しいしさっさと本題に入りましょ」
私はベッドに腰かけると、いつもと同じメイド服姿の精霊に声をかける。いるのは気心知れた仲間ではあるが、流石にベッドに腰かけるのは同性か特別な相手以外には許したくない。精霊のミリエルが女性かどうかはかなり疑問ではあるけれど、少なくとも見た目はこちら側だ。
クリスは椅子に座り、メモを用意していた。セシルは二人掛けのソファで長い脚を組んで待っている。座ってと言ったのに壁に寄りかかるようにしているのはガルドで、残るヴィンスはスツールに腰を下ろしていた。
「軽く手紙には書いたけれど、ミリエルが私たちの知らないことを知っているみたいなの。聖女や聖杯、それに精霊のミリエル自身のことについて。ミリ、話して貰っても良い?」
促す言葉に、私の隣にいる精霊はこくりと頷いた。
「リチェ、何から話したら良い?」
逆に問われて、少し困った私はクリスに助けを求める。メモ帳から目を上げていたクリスは柔らかく微笑み口を開いた。
「では、私から質問をさせてもらうよ。ミリ。まず、聖女について教えてくれるかい?」
クリスは予め質問を考えて来ていたようだ。
彼の質問を受けて、ミリエルはするすると話し始めた。
「聖女は、外界からの侵入者である皆さんがいうところの神樹に対抗するための力を、『神』から与えられた者です。けして黒化の影響を受けず、普通なら到達できない純度をもっています。……私の元である魔族の視点で言うなら、魂の色が純白となります。聖女は意図的に、そして周期的に『神』によって選ばれ、力を与えられ、出現します」
クリスがメモにペンを走らせている。私は淡々と話すミリエルの横顔を見ながら、養母の顔を思い出していた。他の皆も難しい顔をしている。
養母は、自らが聖女であるという自覚から、自己犠牲を厭わず、神樹をその身に宿し最終的にはその神樹を切り倒すことでこの世界を救った。私も養母の日記を手に取ったことで知ったが、その献身は長く彼女を苦しめた。それが、誰かによって意図的に与えられたと知って、複雑な想いにならずになどいられなかった。
ミリエルはその後もクリスの言葉に一つずつ答えていく。
聖女は『神』が力を与えた者だったのに対して、聖騎士は『神』とは無関係の、人が作り出した役職だということや、なぜ歴代の聖女の聖杯は残っていないのに、養母の聖杯だけが彼女が亡くなった後も残っているのかなども教えてくれた。
「……そもそも『神』って何なの?」
クリスがメモを取り続けている間に、私はつい、口を挟む。
その問いに、精霊はそっと微笑んだ。
「『神』とは昔、この世界に住んでいた力ある者たちです。最初の神樹がこの世界に侵入する前、『神』はこの世界であなたたち人や獣と共にありました。この世界に恵みを与えながら、人々を見守り、獣たちを守っていました。今でもほんの僅かですが、こちら側に残っている者もいます。しかし、多くの『神』は、今はここより一つ外にいます。そこからこの世界を守っています」
私は、その言葉に、ふ、っと思い当たった。明らかに人の住む場所ではないところに、私はつい先日行ったではないか。こことは時間の流れの違う場所。似ているようで違う何かの気配を感じるところ。
「ミリ、もしかして、神樹の森って……」
精霊ミリエルは、正解を見つけた学生を見る教師の目で、私に微笑んだ。
……ミリエルさん、手加減してください。リチェたちよりも私が大変だよ(涙)
第二部でする予定だった話をさくさく進めてくれる精霊様が一番の難敵かもしれません。




