その6「魔石と砕き方」
ヨーダイが、魔石の収集を命じてから、1日が経った。
訓練用家屋の1階。
ダイニング。
ヨーダイは、ダイニングテーブルの椅子に、腰をかけていた。
そのそばには、ハガネが控えていた。
彼は手に、布袋を抱えていた。
袋には、中身が詰まっているようだ。
ずっしりとしていた。
ハガネ
「こちらが魔石となります」
ヨーダイ
「助かる」
ハガネは、布袋をテーブルの上に置いた。
そして、口を開き、中身が見えるようにした。
魔石は、石が持つ属性によって、色が異なる。
7色の輝く石が、ヨーダイの瞳に映った。
ハガネ
「安物ですが」
ヨーダイ
「そうか」
安物で良いということは、あらかじめ言ってあった。
特に気にすることでも無かった。
ヨーダイ
「それで……石を砕くというのは、どうすれば良い?」
石を集めさせたのは、これらを砕いてEXPを得るためだ。
だが、眼前の魔石は、それなりに硬そうだった。
幼児が素手で砕ける物には、見えなかった。
ハガネ
「冒険者連中は、噛んで砕くという話です」
ヨーダイ
「噛む? この石をか?」
ハガネ
「そうらしいですね」
ヨーダイ
「まあ……とりあえず試してみるか」
ヨーダイ
「……この石、綺麗なんだろうな?」
ハガネ
「さて? 店に置いてあった物ですからね」
ヨーダイ
「……洗うか」
ハガネ
「そうですね」
……。
ハガネは、キッチンの水道で石を洗った。
ヨーダイも手伝おうとしたが、断られた。
ハガネは、良く洗った石を、布で拭った。
そして、それを皿に入れ、テーブルに持ち帰った。
ヨーダイの眼前に、魔石が置かれた。
大皿に大盛りだった。
ヨーダイ
「よし。いくぞ」
ヨーダイは、1番小さい石を、手に取った。
青い石だった。
水属性の魔力を持っている。
石は2つの輝きを、同時に放っていた。
陽光の反射と、魔石自らの発光だ。
ヨーダイ
「……あむっ」
ヨーダイは、石をおそるおそる、口に含んだ。
石が舌に触れた。
その感触には、見た目どおりの硬さが有った。
ヨーダイは、口の横側の歯で、魔石を挟み込んだ。
そして……。
ヨーダイ
「…………」
ヨーダイは、苦い顔をして、動かなくなった。
ハガネ
「王子?」
ヨーダイ
「かたい」
魔石の硬さは、ヨーダイの想像を、下回らなかった。
硬すぎるものを、噛み砕くことは出来ない。
そんな当たり前の事実が、ヨーダイの前に立ち塞がった。
ハガネ
「なんとかして、噛み砕けませんか?」
ヨーダイ
「歯の方が砕けそうだ」
ハガネ
「そうですか」
ハガネ
「1度、ぺっしてください」
ヨーダイ
「ぺっ」
ヨーダイは、ポケットからハンカチを取り出し、その上に魔石をはいた。
そして、石をハンカチで包むと、テーブルの上に置いた。
ヨーダイ
「俺のアゴは、冒険者のものよりも、軟弱なようだ」
ハガネ
「そのお年では、仕方がありません」
ヨーダイ
「どうしたものかな」
ハガネ
「道具を用意しましょう」
ヨーダイ
「頼む」
ハガネはキッチンに向かった。
そして、水道台の引き出しを開けた。
引き出しの中には、銀色の道具が有った。
ハガネはそれを手に取り、ヨーダイのところへ戻った。
ヨーダイ
「ペンチ……。いや、ニッパーか?」
その道具は、ペンチに似ていた。
だが、ペンチと比べると、先端部が鋭い。
ヨーダイはそれを見て、ニッパーだろうかと思い直した。
だが、ただのニッパーだと言うには、先端部が無骨に見えた。
ハガネ
「いえ。くるみ割り機です」
ヨーダイ
「くるみか。くるみには縁が無いな」
ハガネ
「今度、手に入れておきましょう」
ヨーダイ
「そうか」
ヨーダイ
「早く魔石を砕いてみよう」
ハガネ
「どうぞ」
ヨーダイは、くるみ割り機を受け取った。
ペンチに似たそれの先端で、魔石を挟み込んだ。
そして、持ち手の部分を掴み、両手で力をかけようとした。
ヨーダイ
「ぬ……」
ヨーダイ
「ぐぎぎぎぎ……!」
ヨーダイ
「割れん……」
ハガネ
「そのお年では、仕方がありません」
ヨーダイ
「文明の利器をもってしてもこれか」
ヨーダイ
「非力だ。実に非力だ」
ヨーダイ
「どうしたものかな……」
ハガネ
「私が代わりましょうか?」
ヨーダイ
「俺が割らなくても、良いのか?」
ハガネ
「誰が割ったかというのは、関係が有りませんね」
ハガネ
「重要なのは、魔石との距離です」
ハガネ
「もし魔石を割るのが王子でも、私が近くに居れば、EXPの半分は吸ってしまうことになりますね」
ハガネ
「これは、魔獣を倒したときなどでも、同じことが言えます」
ヨーダイ
「半分か」
ゲームのダンジョン攻略でも、同じような現象は有った。
パーティの人数で、経験値が割られる。
JRPGなら良くあるシステムだ。
ゲームを遊んでいたときは、そんな風にしか思わなかった。
だが……。
それを現実に持ち込むと、こういう風になってしまうらしい。
ヨーダイ
「惜しい気もするが、仕方が無いな」
ヨーダイ
「魔石を割ってみせてくれ」
ハガネ
「はい」
ハガネは、ヨーダイの隣の椅子に座った。
そして、自身のふとももを、ぽんぽんと叩いた。
ハガネ
「私の膝の上にどうぞ」
ヨーダイ
「うん?」
ハガネ
「なるべく魔石に近付いた方が、EXPの吸収が良くなります」
ヨーダイ
「男の膝かぁ……」
ハガネ
「リットかユウギを呼びましょうか?」
ヨーダイ
「いや」
ヨーダイ
「権力をセクハラには使わない主義だ」
ハガネ
「相変わらず、言動が3歳児のソレじゃないですね」
ヨーダイ
「かもな」
ヨーダイは、自分の椅子から下りると、ハガネの膝の上によじのぼった。
ヨーダイ
「さあ、やってくれ」
ハガネ
「はい」
ハガネはくるみ割り機を使い、魔石を挟み込んだ。
魔石は、あっけなく砕け散った。
ヨーダイの苦戦が、嘘のようだった。
砕けた魔石は光を放ち、消滅していった。
ヨーダイは、自身の中に、何かが流れ込んでくるのを感じた。
ヨーダイ
「これでEXPが手に入ったわけか」
ハガネ
「そうですね」
ヨーダイ
「どんどんやってくれ」
ハガネ
「はい」
ハガネは用意した石を、次々と砕いていった。
量が多そうに見えても、1つを砕くのに、10秒もかからない。
ほんの数分で、最後の石まで砕き終わった。
ヨーダイ
(終わったが……)
ヨーダイ
「これで強くなれたんだろうか?」
ハガネ
「これをどうぞ」
ハガネはポケットから、金属製の腕輪を取り出した。
色は赤い。
ヨーダイ
「これは?」
ハガネ
「冒険者の腕輪です」
ハガネ
「この腕輪の機能を使うことで、クラスレベルを確認出来ますよ」
ヨーダイ
「便利だな」
ヨーダイは、腕輪を受け取った。
そして、手首に腕輪をはめようとして、固まった。
ヨーダイ
「サイズが合ってないように見えるが」
腕輪のサイズは、大人用に見えた。
3歳児の腕には、明らかに太さが合わない。
ハガネ
「心配はいりません。はめてみてください」
ヨーダイ
「分かった」
ヨーダイは、腕輪に手を通した。
本来であれば、腕輪の間接部分を動かし、広げないと、腕にはめるのは難しい。
だが、ヨーダイは手が小さいので、すっと手を通すだけで、はめることが出来た。
突然に、腕輪が輝いた。
そして、変形した。
腕輪はヨーダイの腕に、ピッタリなサイズに変化していた。
そして、腕輪の色は、虹色に変化していた。
ヨーダイの髪と同じ色だ。
ヨーダイ
「大きさが変わるのか。凄いな」
ハガネ
「オリハルコンの特性です」
ヨーダイ
「オリハルコンときたか」
ハガネ
「なにか?」
ヨーダイ
「いや……」
ヨーダイ
「これからどうすれば良い?」
ハガネ
「腕輪に向かって、ステータスウィンドウと念じてみてください」
ヨーダイ
(ステータスウィンドウ)
ヨーダイは、言われた通りに念じた。
空中に、半透明の板のようなものが出現した。
それにはヨーダイの名前や、加護などが表示されていた。
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ヨーダイ=ビストスズ
クラス 賢者 レベル2
スキル なし
ユニークスキル トゥエルブヘア
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ヨーダイ
「レベル2か」
通常、初期のクラスレベルは1だ。
2になっているということは、レベルアップしたということだ。
一定のEXPを、吸収できたということになる。
ヨーダイ
「一応は、魔石を砕いたかいは有ったということか」
ヨーダイ
「……ユニークスキルというのは?」
ハガネ
「個々人が持って産まれる、とくべつな能力のことですね」
ヨーダイ
「それは分かったが、『トゥエルブヘア』とは何だ?」
ハガネ
「おそらくは、虹髪のことかと」
ヨーダイ
「能力と言えるようなものか?」
ハガネ
「虹髪を継ぐ者には、代々受け継がれる、特別な力が有ります」
ハガネ
「王家の秘宝である、スベルキーを操る力です」
ヨーダイ
「あのガラクタか」
ヨーダイは、身長4メートルの機械兵の姿を、思い浮かべた。
ハガネ
「いけませんよ。神聖な家宝を、ガラクタなどと言っては」
ヨーダイ
「だが、そうだろう?」
ヨーダイ
「背は低く、足は遅く、大した武装もついていない」
ヨーダイ
「戦場では役に立たない。骨董品だ」
ハガネ
「王の機体の価値は、力だけでは無いでしょう」
ヨーダイ
「見た目も貧相だと思うがな。俺は」
ヨーダイ
「機士団のシャドウキャスターと並べてみろ」
ヨーダイ
「立派な機械兵の群れに、機械兵の赤子が混じっている」
ヨーダイ
「そう見えるだろうさ」
ハガネ
「そんなことは……」
ヨーダイ
「世辞にすらならん。やめろ」
ハガネ
「…………」
ヨーダイ
「今はそれよりも、ダンジョンだ」
ヨーダイ
「近いうちに、ダンジョンに向かう」
ヨーダイ
「必要な物資を、揃えておいてくれ」
ハガネ
「分かりました」
……。
3日後の朝。
ヨーダイの自室を、ハガネが訪れた。
ヨーダイ
「用意は出来ているか?」
ハガネ
「はい」
ヨーダイ
「ならば行くか。ダンジョンに」




