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その28「完全燃焼と切腹」





ヨーダイ

「っ……!? この赤い光は……!?」



 間違いなく自分の勝ちだ。


 さきほどまでのヨーダイは、そう確信していた。


 だが……。


 リンレイの機体が、突然に速度を増した。



リンレイ

「にいさま……! にいさまにいさまにいさまああああぁぁっ!」



 ダイチランザルの剣が、マジェスティイヌの剣を弾いた。


 ヨーダイ側の体勢が、初めて崩れた。


 ヨーダイ機を打ち崩そうと、リンレイ機はさらに攻撃を加えた。



ヨーダイ

「ぐっ……!?」



 ヨーダイは、なんとか攻撃を受けきった。


 そしていったん距離を取り、体勢を立て直した。



ヨーダイ

「動きが変わった……!?」



 リンレイ機の動きは、劇的な変化を見せていた。


 優劣が、入れ替わるほどに。



マゴコロ

「これは……魔石の完全燃焼」



 マゴコロが、呟くように言った。



ヨーダイ

「知っているのか? マゴコロ」


マゴコロ

「うん」


マゴコロ

「安定した大型魔石を、あえて暴走させることで、通常の3倍以上の魔力を出力させることができる」


マゴコロ

「けどその代わりに、魔石は3分ほどで崩壊を起こす」


マゴコロ

「シャドウキャスターを失うことを引き換えにした、自爆に近い機能」


マゴコロ

「3分で決着をつけないと、あの機体は爆散する」


マゴコロ

「中の機士も助からない」


ヨーダイ

「なんだと……!?」


ヨーダイ

「リンレイ……! お前死ぬ気か……!?」


リンレイ

「死なないわ」


リンレイ

「にいさまが早く負けてくれれば、爆発を止められる余地は有る……!」


リンレイ

「早く負けてちょうだい! にいさま!」


ヨーダイ

「ふざけやがって……!」



 ヨーダイは、3分くらいであれば、攻撃を耐え切る自信は有った。


 だがそれは、リンレイの死を意味している。


 ヨーダイは、リンレイを玉座につけなくてはならない。


 それが、自由になるための条件だ。


 どうしても、彼女に死なれるわけにはいかない。


 何より、こんなお祭りの場で死者が出るというのが、ヨーダイには我慢ならなかった。



ヨーダイ

「マゴコロ! どうしたら暴走を止められる……!?」



 機械に詳しそうなマゴコロに、ヨーダイは意見を求めた。



マゴコロ

「ああなった以上、もう機械的な命令は受け付けない」


マゴコロ

「物理的に魔石を攻撃して、粉砕するしかない」


ヨーダイ

「けど……強いぜコイツは……!」



 ヨーダイは、リンレイ機の剣を受けながら言った。


 リンレイの攻撃は、耐え切れないほどでは無い。


 だが、相手を倒せるかどうかは、別問題だった。


 今のヨーダイは、時間稼ぎをするのがやっとの状態だった。



マゴコロ

「……仕方ない」


ヨーダイ

「え……?」


マゴコロ

「燃焼開始」



 マゴコロが、マジェスティイヌに、命令を下した。


 マジェスティイヌが、赤く輝いた。


 リンレイのダイチランザルと、同じ状態だった。


 マジェスティイヌの挙動が変わった。


 パワーが増している。


 ヨーダイには、はっきりとそれが分かった。



リンレイ

「にいさまも暴走した!?」


マゴコロ

「同じ燃焼状態なら、王子のほうが強い……はず」


マゴコロ

「早く決着をつけて」


ヨーダイ

「すまん……!」


ヨーダイ

「今度こそ終わらせるぞ! リンレイ!」



 ヨーダイが、攻めに転じた。


 機体がパワー負けしていなければ、ヨーダイに、負ける要素は無かった。


 マジェスティイヌの剣が、ダイチランザルの守りを、切り崩していった。



リンレイ

「っ……!」


リンレイ

「出力は負けてない……なのに……!」


リンレイ

「にいさまの方が、機体のコントロールが上手い……!?」


リンレイ

「自分の機体じゃないのに……どうしてなの……!?」


ヨーダイ

「悪いがな……」


ヨーダイ

「俺はコイツには、2000時間は乗ってんだ」


ヨーダイ

「ブランクが有るとはいえ、始めて半年の連中に、負けられるかよ」


リンレイ

「そっか……」


リンレイ

「にいさまってば……努力家なのね……」



 ヨーダイ=ビストスズは、今日初めて、マジェスティイヌに乗った。


 だが、シャドウキャスターの操作感覚は、ゲームのものに酷似していた。


 前世におけるゲームの経験が、そのまま彼の力になった。


 ヨーダイの前世は、5英雄物語を、10年以上プレイしている。


 その腕前は、日本一と言っても良かった。


 彼よりも機士の経験が有る者は、学校の生徒には存在しない。


 彼の技量は、全学年を見ても、抜きん出ていた。


 そんな事情を、リンレイは知らない。


 普通に考えれば、16歳のヨーダイに、大した戦闘経験など、積めるはずが無い。


 だがリンレイは、ヨーダイを疑わなかった。


 そして、思ってしまった。


 自分の負けだと。


 ダイチランザルの体勢が、大きく崩れた。


 胴ががら空きになった。


 マジェスティイヌの剣が、ダイチランザルの横腹に伸びた。


 刃は、コックピットの真下を通った。


 リンレイの機体が、両断された。


 断たれた部位には、動力となる魔石が有った。


 魔石は砕かれ、その力を失った。


 ダイチランザルの下半身が、膝をついた。


 上半身は、下半身から分かれ、地面に墜落した。


 赤い光は収まっていた。


 暴走していた機体は、完全に沈黙していた。



ヨーダイ

「勝ったな……」



 マジェスティイヌのコックピットで、ヨーダイは一息ついた。



マゴコロ

「まだ済んでない」



 マジェスティイヌは、未だ暴走状態にあった。


 赤い光が、放たれ続けている。


 あと1分ほどすれば、この機体は、爆発四散するだろう。


 サヨナラの時が、近付いていた。



ヨーダイ

「良いんだな?」



 機体の所有者であるマゴコロに、ヨーダイは最後の確認をした。



マゴコロ

「仕方ない。これが最善だった」


ヨーダイ

「分かった」



 ヨーダイは、マジェスティイヌを操った。


 マジェスティイヌは、剣を逆さに持った。


 そして……。



セイラ

「あれは……」


イド

「見事な切腹であるな」


テルヒ

「参ったな……」


テルヒ

「ああいうのが、学生のレベルなのか」



 マジェスティイヌは、自身の腹部に、剣を突き立てていた。


 腹部装甲の奥で、魔石が貫かれていた。


 魔石は粉々に砕け、風に溶けて消えた。


 魔石が無くなったことで、暴走の光が薄れていった。


 がくりと膝をついて、マジェスティイヌは動きを止めた。



ヨーダイ

「……動力が無いと、出らんねえな。ここから」



 動力を失ったことで、コックピットの中は、暗くなっていた。


 コックピットのハッチも、機体のエネルギーで動くものだ。


 ヨーダイが念じてみても、うんともすんとも言わなかった。


 2人はコックピットの中に、閉じ込められた形になった。



マゴコロ

「任せて」



 マゴコロが、前に出た。


 そして、コックピットハッチを、思い切り押した。


 すると……。


 鈍い音を立てながら、コックピットハッチが、こじ開けられていった。



ヨーダイ

「えっ? ゴリラ」


マゴコロ

「王子が私をこんな体にしたのに」


ヨーダイ

「そうですけどね?」



 マゴコロも、ヨーダイと同様に、レベルが600有る。


 そして、マゴコロは前衛職だ。


 その力は、ヨーダイとは比較にならなかった。


 2人はコックピットから出た。


 そして、機体をつたって、地面へと下りた。


 地上に立つと、ヨーダイは、リンレイの機体を見た。


 切り落とされた上半身が、仰向けに大地に転がっていた。



ヨーダイ

「あれも開けてくれるか?」


マゴコロ

「私はゴリラじゃない」


ヨーダイ

「分かったから開けて」


マゴコロ

「ういうい」



 マゴコロは、リンレイ機に飛び乗った。


 そして、素手でコックピットをこじ開けていった。


 遅れて機体に飛び乗ったヨーダイが、中を覗きこんだ。



ヨーダイ

「だいじょうぶか?」



 パイロットシートに、リンレイの姿が見えた。



リンレイ

「う……」


リンレイ

「にいさま……?」



 リンレイの額から、血が流れた。



ヨーダイ

「怪我してんな」


ヨーダイ

「あの高さから落ちりゃ、しょうがねーか」


ヨーダイ

「待ってろ。今……」


ヨーダイ

「っと。マゴコロ。ちょっと2人にしてくれ」


マゴコロ

「分かった」



 マゴコロは、ダイチランザルから跳び下りた。


 ヨーダイは、コックピットに入り込んだ。


 そして、リンレイの隣に立つと、呪文を唱えた。



ヨーダイ

「癒やし風」



 薄緑色の風が、リンレイを癒やしていった。


 リンレイは、驚きの目を、ヨーダイに向けた。



リンレイ

「治癒術……?」


リンレイ

「にいさま……治癒術師だったの……?」


ヨーダイ

「クラスは賢者だ」


リンレイ

「知らなかった……」


リンレイ

「けど……どうして……?」


ヨーダイ

「国王代理との約束だ」


リンレイ

「かあさまの……?」


ヨーダイ

「俺の役目は、お前が女王になるのを補佐することだった」


ヨーダイ

「そのためには、俺が次期国王にふさわしくないと、周囲にアピールする必要が有った」


ヨーダイ

「クラスを偽っていたのは、その一環だ」


リンレイ

「……そうなんだ?」


リンレイ

「私……何も知らなかった……」


リンレイ

「にいさま、話して良かったの?」


ヨーダイ

「この勝負、俺が勝った」


ヨーダイ

「お前と絡むのも、これが最後になるだろう」


ヨーダイ

「だから、話しておこうと思った」


リンレイ

「どうして……?」


ヨーダイ

「何が?」


リンレイ

「どうして兄と妹だからって、離れないといけないの?」


リンレイ

「私が先に、にいさまのことを好きだったのに……」


リンレイ

「どうして急に出てきた女に、にいさまをあげないといけないの?」


リンレイ

「どうして……?」


ヨーダイ

「俺がお前から離れるのは、兄と妹だからじゃねえよ」


ヨーダイ

「お前が俺の友だちを、踏みつけたからだ」


ヨーダイ

「性根を治して出直して来い。阿呆が」


リンレイ

「……………………」


ヨーダイ

「立てるか?」


リンレイ

「まだ無理かも」


ヨーダイ

「そうか」



 ヨーダイは、リンレイを抱き上げた。



リンレイ

「どうして助けてくれるの?」


ヨーダイ

「あ?」


リンレイ

「にいさまは、私のことが嫌いなんでしょう?」


ヨーダイ

「そうだがな」


ヨーダイ

「俺はお前の兄貴だからな」


ヨーダイ

「どうしようもない時くらいは、手ぇ貸してやるよ」


リンレイ

「にいさま……」



 ヨーダイは、リンレイを抱きかかえたまま、コックピットを出た。


 そして、機体の上に立った。


 そのとき……。



コンジ

「えー……」



 審判機のダイチランザルから、コンジの声が聞こえてきた。



コンジ

「試合終了」


コンジ

「リンレイ王女殿下の、勝利となります」


ヨーダイ

「…………………………………………」


ヨーダイ

「えっ?」



 ヨーダイは負けた。





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