その27「兄と妹」
リンレイ
「本当に……!?」
ヨーダイ
「本当だよ。信じなくても良いがな」
リンレイ
「だったらどうして……!?」
リンレイ
「普通のマジェスティイヌは、そんな風には動かないはずよ!」
ヨーダイ
「国王代理にはナイショにしてくれるか?」
リンレイ
「良いから教えなさいよ……!」
ヨーダイ
「機士学校が、どうして迷宮都市に有るか、知ってるよな?」
リンレイ
「それは、機士の持つ魔力が、シャドウキャスターの性能を……」
リンレイ
「っ……! まさか……!」
ヨーダイ
「そうだ」
ヨーダイ
「今の俺のレベルは、600有る」
リンレイ
「600……!?」
リンレイ
「無理よ……! クラスレベルは、そんなには上がらないわ……!」
凡人が、自力でレベル上げした場合、限界は60程度と言われている。
猛者にパワーレベリングをしてもらえば、80くらいまでは行く。
そのあたりが、普通の人間の限界だった。
600というレベルは、常人の限界を、遥かに凌駕している。
才能の有る者であっても、そこまでたどり着くのは不可能だと言えた。
ヨーダイ
「それが上げられるんだよ。俺にはな」
リンレイ
「どうやって……!?」
ヨーダイ
「そこから先は、自分で考えろ」
マゴコロ
「…………」
マゴコロは、2人のやり取りを聞きながら、先月の出来事を思い出していた。
……。
迷宮の深層。
スベルキーの魔弾が、魔獣を吹き飛ばした。
魔獣の死に際に、EXPが放たれた。
体の中に、EXPが流れ込んでくる。
マゴコロは、ヨーダイの膝の上で、それを感じていた。
マゴコロ
「どんどんレベルが上がっていく……」
ヨーダイ
「今、レベルいくつだ?」
マゴコロ
「ええと……」
マゴコロは、冒険者の腕輪に意識を移した。
そして、ステータスウィンドウを表示させた。
マゴコロ
「95。すごい」
ヨーダイ
「そうか……」
ヨーダイ
「そろそろ普通のやり方じゃ限界だな」
マゴコロ
「限界?」
ヨーダイ
「魔獣から手に入るEXPの量は、魔獣のレベルに依存する」
ヨーダイ
「けど、魔獣のレベルには、限界が有る」
ヨーダイ
「基本的に、ダンジョンの魔獣のレベルは、階層の深さに比例する」
ヨーダイ
「深く潜れば潜るほど、強い敵が出てくる」
ヨーダイ
「だが、ダンジョンの階層は、全部で99層」
ヨーダイ
「その先は無い」
ヨーダイ
「自分より、レベルが低い魔獣を倒しても、なかなかレベルは上がらない」
ヨーダイ
「だから、普通にやっていれば、レベル100くらいが限界になる」
マゴコロ
「十分だと思うけど」
マゴコロ
「機士団のエースでも、レベル80を超える人は、なかなか居ない」
ヨーダイ
「普通だったらそうかもな」
ヨーダイ
「けど、俺は王族だ」
ヨーダイ
「おまけに、無能王子ってレッテルを貼られてる」
ヨーダイ
「立場のおかげで、いろいろな面倒に巻き込まれる」
ヨーダイ
「この前みたいにな」
ヨーダイ
「理不尽に打ち勝つには、力はいくら有っても足りない」
ヨーダイ
「出来る限り、強くなりたいんだ」
ヨーダイ
「そしてマゴコロ」
ヨーダイ
「俺は、お前にも強くなって欲しい」
マゴコロ
「私に……?」
ヨーダイ
「これからも、俺の隣に居ようとすれば、お前も理不尽に巻き込まれるだろう」
ヨーダイ
「俺がお前を、守ってやれたら良いと思う」
ヨーダイ
「だけど、何もかもから守ってやれると思うほど、俺は自分を買いかぶっちゃいない」
ヨーダイ
「だから、マゴコロ……」
ヨーダイ
「俺の隣に居てくれるって言うのなら、お前も強くなってくれ」
ヨーダイ
「そうしてくれた方が、俺は安心できる」
マゴコロ
「……わかった」
マゴコロは、体の位置をずらし、ヨーダイの方を見た。
マゴコロ
「私、強くなるね」
彼女は、決心に満ちた瞳を、ヨーダイに向けた。
マゴコロ
「だけど、どうしたら良いのかな?」
ヨーダイ
「そこに座っててくれ」
マゴコロ
「えっ?」
ヨーダイ
「けっきょくやる事は、スベルキーでレベル上げだからな」
マゴコロ
「私の気合……決心……」
ヨーダイ
「ははは。行こうぜ」
マゴコロ
「結局どうするの?」
ヨーダイ
「『敵強化』だ」
マゴコロ
「敵強化?」
ヨーダイ
「そのためには、まずはスライムを探さないとな」
マゴコロ
「…………?」
ヨーダイたちは、迷宮を探索した。
やがて、高さ3メートルは有る、巨大なスライムを発見した。
色は青。
ブルースライムの上位種だ。
スライム
「…………」
ヨーダイ
「居たな。ブルーヒュージスライムだ」
マゴコロ
「大きいね」
ヨーダイ
「ああ。これからもっと大きくなるぞ」
マゴコロ
「えっ?」
ヨーダイは、スベルキーの手のひらを、スライムに向けた。
手のひらの魔石から、炎の魔弾が発射された。
ブルースライムの属性は水。
炎属性は、ブルースライムにとっては、有利な属性だった。
有利属性の魔術は、魔獣には通用しない。
赤い魔弾は、スライムに吸収された。
魔弾を吸うということは、魔力を吸うということだ。
魔力を得たスライムは、一回りサイズを増した。
マゴコロ
「大きくなった……!」
ヨーダイ
「まだまだ」
ヨーダイは、さらに魔弾を放った。
さきほどと同じ、炎の魔弾だ。
連射した。
するとスライムは、みるみる大きくなっていった。
スライムの体長が、元の倍を超えた。
その背丈は、スベルキーの身長を、軽く超えていた。
マゴコロ
「すごい……!」
ヨーダイ
「まあ、こんなところだな」
十分にエサをやると、ヨーダイは、雷の魔弾を連射した。
スライム
「…………!」
動きの鈍いスライムでは、魔弾を避けるのは難しかった。
弱点属性である雷を、雨のように受け、スライムは絶命した。
スライムから、大量のEXPが放出された。
その半分が、マゴコロの中に流れ込んだ。
マゴコロ
「っ……!」
マゴコロ
「いっぱい……流れ込んでくる……!」
ヨーダイ
「これが、敵強化の効果だ」
ヨーダイ
「得意属性の魔弾を当てることで、敵をレベルアップさせることが出来る」
ヨーダイ
「そして、レベルアップした魔獣は、スライムに限って、大量のEXPを放出する」
マゴコロ
「どうしてスライムだけなの?」
ヨーダイ
「んー……」
ヨーダイ
「他の魔獣は、倒すとアイテムをドロップするんだよな」
ヨーダイ
「レベルが上がった魔獣は、そのレベルの分だけ、アイテムのドロップ率が上がる」
ヨーダイ
「けど、スライムはアイテムを落とさない」
ヨーダイ
「その辺が関係してるんだと思うが……」
ヨーダイ
「詳しいことは俺にも分からん」
マゴコロ
「ふーん……?」
マゴコロ
「今、さらっと凄いこと言わなかった?」
ヨーダイ
「言ったかな?」
マゴコロ
「アイテムのドロップ率が上がるって、本当?」
ヨーダイ
「ああ」
ヨーダイ
「ガキの頃は、それを活かして、解毒ポーションを集めたりしたもんだ」
マゴコロ
「ふーん……」
……。
マゴコロは、回想を終えた。
マゴコロ
(あれ……?)
マゴコロの中に、何か引っかかるものが有った。
マゴコロ
(あのとき王子……何か大事なことを言ってたような……)
マゴコロ
(…………)
マゴコロ
(まあいいや。今は試合中だし)
マゴコロは諦めた。
マゴコロ
(細かいことは、後で考えよう)
マゴコロがぽやぽやしている間も、ヨーダイとリンレイの斬り合いは、続いていた。
ヨーダイ側が優勢だが、なかなか決着がつかない。
ヨーダイは、手を抜いていた。
リンレイの顔を、最低限立てるためだ。
次期女王が惨敗を喫するなど、あってはならない。
そもそもの話をすれば、彼女がヨーダイに敗れること自体、あってはならないのだが……。
ヨーダイは、リンレイを倒すと決めていた。
決めてしまっていた。
だから、次善の策として、激闘を演出することにした。
リンレイも、手加減をされていることに、薄々気付いていた。
リンレイ
「私が……! にいさまに……!」
ヨーダイ
「そろそろ恥をかいてもらうぜ」
ヨーダイ
「兄離れの時間だ。リンレイ」
リンレイ
「っ……!」
そのとき……。
まるで走馬灯のように、リンレイは思い出した。
ヨーダイと、始めて出会った頃のことを。
……。
その日はリンレイの、4歳の誕生日だった。
この世界の人々は、成人式の日に、そろって年齢が上がる。
誕生日には、年齢は変化しない。
リンレイは、法律上では、とっくに4歳になっていた。
だが、それはそれとして、誕生日というのは大切なものだ。
王城の、リンレイの部屋。
リンカは愛するリンレイと2人きりで、誕生日をお祝いしていた。
小さな丸テーブルを挟んで、2人は向かい合っていた。
テーブルの上には、誕生日ケーキが置かれていた。
リンカ
「リンレイ。お誕生日おめでとう」
リンカはニコニコと笑いながら、パチパチと両手を鳴らした。
リンカ
「今日はあなたに、素敵なプレゼントを用意したわ」
リンレイ
「プレゼント! なに!?」
気持ちが盛り上がったリンレイは、椅子から立ち上がった。
そして、てちてちと、リンカに駆け寄った。
リンカ
「こらこら。慌てないの」
リンカはリンレイを抱き寄せて、彼女の頭を撫でた。
そして、部屋の扉の方へ、声をかけた。
リンカ
「ヨーダイ。入りなさい」
リンカが命じると、扉が開いた。
そして、ヨーダイが入室してきた。
ヨーダイは、リンカの近くまで来て、立ち止まった。
ヨーダイ
「…………」
リンレイ
「…………?」
リンレイは、ヨーダイを見た。
そして尋ねた。
リンレイ
「かあさま。この綺麗な人は?」
リンカ
「この子はヨーダイ。あなたのお兄さんよ」
リンレイ
「にいさま!」
リンレイ
「こんにちは。にいさま」
ヨーダイ
「はい。はじめまして。リンレイさま」
ヨーダイは、無表情で頭を下げた。
リンレイ
「にいさま……?」
リンレイ
「にいさまは、どうして頭を下げるの?」
リンカ
「それはね、この子がどうしようもない、無能王子だからよ」
リンレイ
「むのう……?」
リンカ
「おバカなの。偉くないのよ。この子は」
リンレイ
「……そうなの? にいさま」
ヨーダイ
「……はい」
ヨーダイ
「リンカさまの仰るとおりです」
リンレイ
「ふーん……?」
リンカ
「それで、今年の誕生日プレゼントは、この子」
リンカ
「ヨーダイを、あなたの召使いにするわ」
リンレイ
「にいさまを、召使いに?」
リンカ
「ええ。ダメなお兄ちゃんよりも、リンレイの方が偉いのよ」
リンカ
「だからあなたは、この子に何を命令しても良い」
リンカ
「何でも言うことを聞かせて、立場というものを分からせてあげるのよ。良いわね?」
リンレイ
「分かったわ」
リンレイ
「……にいさま」
ヨーダイ
「はい」
リンレイ
「頭をなでなでしてくれる?」
ヨーダイ
「……はい?」
思ってもみなかった命令に、ヨーダイは硬直した。
その内容を脳が理解するのに、しばらくの時間を必要とした。
リンレイ
「聞こえなかったのかしら? なでなでしてって言ったんだけど」
ヨーダイ
「……はあ。分かりました」
ヨーダイは、もっと酷い命令を想像していた。
彼は拍子抜けした気分で、リンレイを撫でた。
リンレイ
「えへへ」
何が楽しいのか、リンレイはニコニコと笑っていた。
リンカ
「リンレイ。そんなつまらない命令で良いの?」
リンカ
「もっと、縄で吊るしたりとか、ロウソクを垂らしたりしても良いのよ?」
リンレイ
「かあさま。それの何が楽しいの?」
リンカ
「えっ?」
リンレイ
「そんな酷いことをするよりも、なでなでしてもらった方が幸せだと思うのだけど」
リンレイ
「さあにいさま。もっとなでなでして」
ヨーダイ
「分かりました」
リンカ
「…………」
リンカ
「まあ、リンレイが満足してるのなら、それで良いわ」
リンレイ
「ええ。とっても満足よ」
リンレイ
「素敵なプレゼントをありがとう。かあさま」
リンカ
「デュフフ」
リンレイ
「かあさま?」
リンカ
「なんでもありません」
リンカ
「ヨーダイ。くれぐれも、リンレイに失礼の無いようにね」
ヨーダイ
「承知しております」
こうしてヨーダイは、リンレイの奴隷になった。
そして……。
リンレイ
「にいさま。ごほん読んで」
ヨーダイ
「はい。リンレイさま」
リンレイ
「にいさま。あーんして」
ヨーダイ
「はい。リンレイさま」
リンレイ
「にいさま。お散歩に付き合って」
ヨーダイ
「はい。リンレイさま」
リンレイ
「にいさま」
ヨーダイ
「申し訳ありません」
ヨーダイ
「今日はヤミヅキと一緒に、劇を見に行く予定なのです」
いつの間にかヨーダイは、リンレイだけのものでは無くなっていた。
……。
リンレイ
「あ……」
リンレイ
「あああああああああああああぁぁぁぁっ!」
リンレイのダイチランザルが、赤い輝きを放った。




