そして保健室へ。なのにクラス内はくじ引きで盛り上がる。
三崎は体調不良を感じつつも迎えた学祭当日。
それでも誰にも助けを呼ぶことなく、学祭も終了三十分前を迎えた。
二年A組の催し物のクイズは挑戦者受付を終了し、正解も張り出した。
この後の三崎の役目は、入室者がいても挑戦は受け付けず、学祭終了時間まで、ただ解説するのみ。
学祭終了と共に張り紙を撤収。
そして賞品は七瀬に預ける。
体調不良を理由に下校。
これで役割はすべて終了するはずだった。
ところが。
「すまん。次の学校の日にといったが、今日、学校終わった後すぐに部室に来てくれないか?」
「お願いっ! どうしてもうちの部活に顔出してほしいのよ!」
「うちの部から問題出してほしかった! どうして出してくれなかったんだ?!」
運動部の主将、キャプテン、マネジャーなどが次々とやってきた。
もちろんクラスメイトは顔も見せない。
「あいつに来させたら、問題の件を意識して、これからの成績が落ち込むかも分からんからな」
という、とある部活の主将の談。
問題の解説はするが、まさか自分自身に用事があるなどと言われることは、予想だにしなかった。
「す……すいません……先輩達……。そろそろ時間なのと、体調不良がちょっと辛くて……」
「お、おぅ。あ、後片付けだな? 俺らに任せろ」
「い、いえ、あの……」
「なぁに、恩に着せる気はないさ。さっさと体調戻して元気に登校してほしいだけだよ」
「そうそう。早く治すには、軽症の間は無理しないことだからな」
学祭終了前に、あっという間に問題の模造紙は外された。
その間に、校内放送が学祭終了を告げた。
「内幕も外してやろうか? 仕切り板も持ってってやるよ」
「問題を書いた模造紙はどうする? 三崎君のロッカーに入れればいいんだな? 分かった」
「この箱って、学祭のためよね? 何か中に何か入ってるみたいだから持って来たわよ? 中身出しとくわね」
「あとは机をいつものように並べるだけね。でも保健室で休んでる方が良くない? 委員長は? 担任は?」
目の前の机の上に散らばった、箱の中身をポケットにしまうのが精一杯。
それほど回転が鈍い今の三崎の頭では、自分のクラスメイトは三年生なのかと錯覚してしまうのも無理はない。
それどころか、校内放送が終わって最初に来た七瀬ですら、何もない二年A組の教室を見て、自分のクラスかどうかを疑ってしまうほど。
「えっと……あ、柘植先輩……ですよね? 野球部主将の……」
「あぁ、生徒会書記さんか、ご苦労様」
「あの……えっと……」
「ご覧の通り、俺らで備品は運び出しておいたから。あとは君らの机を運び込んで終わりだよ」
「あ、七瀬さん、だったっけ? お疲れ様。あのね、そこにいる三崎君、ちょっと辛そうだから保健室に連れてってあげな。あたし達手伝いに来たんだけど、こんなもんでいいわよね?」
「あ、えっと女子バスケのマネジャーさん、でしたよね」
「うん。義川美月よ。で、あたし達、特に余計なことしたつもりはないけど、何かあったらごめんね?」
「い、いえ。でも……三崎君、辛そうって……」
未だに教室の後ろの出入り口で動けないでいる三崎。
今朝の様子とはかなりかけ離れている、明らかに元気がない姿勢である。
「せ、先輩達、なんかいろいろ、ありがとうございましたっ! ……ちょっと、三崎君! 大丈夫?!」
三年生たちは、これくらいの手伝いは何でもないというふうな後姿を見せつつ教室を出た。
七瀬は見送ってすぐに三崎に駆け寄った。
「賞品のメモカ、ここに無事にあるぜ。くじ引きの箱、意見箱使えばいいよな」
「そんな事言ってないで! えっと、誰か……あ……」
ぞろぞろとクラスメイトがやってくる。
誰もが、何もない教室内を見て驚いている。
「誰か、三崎君を保健室に連れてってくれない? 具合悪そうなの」
「おう、んじゃ俺が連れてくよ」
「俺も。……三崎、立てるか? 何無茶してんだよ。あ、トイレは?」
中辻と長浜が名乗りを上げた。
三崎は二人にもたれかかりながら、七瀬に念を押す。
「机の中、二つ、入ってるから」
「分かった分かった。早く連れてってもらえる?」
「確認、しろよ。俺が見てる前で」
「んもぅ!」
こんな時にも、自分の責任を問われるようなことを気にする三崎にやきもきする。
「ほら、これでいいんでしょ! ……うん。未開封のまま! 確認したわよ!」
「あとは、この二人の、分のくじも……」
「あのなぁ、三崎。お前のことを気にしろよ」
「もうお前は十分頑張ったよ。まずはお前の体具合をだな……」
二人は三崎に説教をかましながら、保健室に移動した。
その間にも、教室に入ってくるクラスメイト達。
誰もが仕切り板が撤去されていることに驚きつつも、事情を七瀬から聞く。
保健室に運ばれたことを知った何人かは、三崎に悪態をつく。
しかしそれには何の意味もない。
三崎への悪口を言う者やそれを咎める声も出る。
そんながやがやした彼らは、自分の机を運び込む作業を始めた。
十分ほどして、中辻と長浜がクラスに戻り、賞品のくじ引き大会が始まった。
「にしても現金だな。あんなに三崎に文句言ってる奴らが、賞品のくじ引き始めた途端三崎に何にも言わなくなるんだもんな」
「……報われない仕事を、よく最後までやったよ、あいつも」
「そんなに具合悪かったわけ? 大丈夫なの?」
「保健室の先生は、様子を見てタクシーで帰らせるっつってた。誰も心配しねぇのな」
「落ち着けよ、中辻。あいつが元気になって学校に来たら、俺らだけでもご苦労さんの一言でもかけりゃ、あいつはそれで十分っつーんじゃないか?」
今回の件で三崎との距離が縮まったクラスメイト達はそんな会話をしながら、三崎のことなど頭にない彼らの様子を眺めていた。




