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体調を崩したようです。けど、責任放棄する気もないようです。

 これまで、三崎と仲が良かったクラスメイトは長浜と立川の二人だけ。


 学祭の責任者となってからは、仲が良くなった者がいるかと言えば、三崎の口からははっきりとは言えまい。

 だが、コミュニケーションが増えた者は、クラス委員長の七瀬。

 そして長浜と同じ卓球部所属の田宮。

 ほかにも、中辻や教室外で彼の姿を目にした者達もいる。

 が、そんな彼らは必ずしも三崎に親しい思いを持っているとは限らない。


 それはそれとして。


 学祭の準備期間になっても三崎を嫌う者達もいる。

 もっとも、無関心のままというクラスメイトもいれば、嫌いになった人数も増えた。


 それだけだったら、気にするほどでもない。


 だが、絡まざるを得なくなった事情もある。


 それが意見箱の存在。

 一々応対する必要はないのだが、三崎に対して嫌悪感をむき出しにするメモの数の多いこと多いこと。

 無記名と言うことと、筆跡を見ても誰が書いたか分からない、と言うことが、その数を多くしたんだろう。

 そして本人もそれに言い返す気もなく、それを公にするつもりもない。

 受け流す気でいたのだが、自身も気付かないうちにまともにその数々の非難をまともに受け止めていたらしい。


 家に帰り、これまでの投函されたメモを改めて目を通し、今まで読んでなかったすべての封筒を開けた。


「……なんか、体、だるいな……」


 読んでいくうちに、体に変調を感じた。

 もちろん、そのメモを読んだためとは夢にも思わない。

 が、休めるものなら休みたい。

 しかし、あと一日の我慢。

 早く眠って体調を整えるのが一番なのだろうが、まだ封筒や便箋は開けただけで読んでいない。


「……読んでみるか」


 封筒の中に書かれていた物はすべて、三崎を叱咤し、応援する内容だった。

 おまけに。


「……全部差出人の名前付きかよ。長浜と立川は相変わらずだな。でも七瀬……自分で意見箱って言ってたくせに、何で授業態度のことまで書くんだよ……」


 作った本人の手紙が、箱本来の目的の斜め上を突き進んでいた。

 しかし。


「……うれしい、もんなんだな……。でもまぁ、学祭の件限定だからな」


 当たり障りのない褒め言葉よりも、普段の自分の姿を叱責される方がうれしかったりもする。

 何度も同じ文面を読み返す。

 しかし、いつの間にやら時間は夜の十一時を過ぎていた。


「やべ。早く寝なきゃ。明日の段取りは、しっかり頭に入ってるし、もう大丈夫だろ」


 夜が明けると、いよいよ本番。

 ここまで来たら、もう問題はないはずだった。


 ※※※※※ ※※※※※


 翌朝。

 学祭本番の日。


「……知恵熱……って……ほんとにあるんだな……」


 三崎はいつも通りの時間に目覚めたが、朝日の明るさでも目覚まし時計によるものでもなく、体調不良に気付いたため。

 日曜なのでどの病院も診察は急患のみ。

 ただ、咳も鼻水もくしゃみも出ない。

 喉も痛くはないし、風邪の症状はない。

 ただ、体は重く、熱が三十七度台ということだけ。


 登校しようにも、徒歩はややつらい。

 バスで行くことにして、あとは教室で大人しくしていることにする。

 ただ、体調不良の時に感じる時間の流れというのは、とてつもなく長い。

 午後三時までの我慢。

 やるべき役目は、問題を張りだし、学祭終了の三十分くらい前に判定終了とし、正解を張り出す。

 くじ引きは七瀬に任せればそれでいい。


 教室に到着。

 始まる前にはホームルームの時間。

 簡単な一日のスケジュールを担任から通達された後は、終了までそれぞれが自分の居場所に向かう。

 三崎は体調不良のことは誰にも言わず、また、誰からもその異変に気付かれることなく学祭が始まり、三崎の長い一日が始まった。


 しかしやることは簡単だった。

 自分以外誰もいない教室に、問題を掲示。

 そして後ろの出入り口の席に座り続けるだけ。

 入室者が記入した解答用紙を見て、空欄が一つでもあればそのままお見送り。

 全問何らかの答えが書いてあれば、一応チェック。

 間違いを一つでも見つけても、やはりお見送り。


 開始早々、来客の入りは悪くないペース。

 絶えず室内に挑戦者がいる。

 一分たりとも、挑戦者がいない時間帯はなかった。

 そして三崎の目論見通り、入室者の誰もが全問正解どころか、一問も正解を出せずにいた。


「難しいね、この問題」

「そうでしょうね。誰も正解を出せないと思います」


 三崎の声は元気がない。

 が、声をかけた挑戦者の話は続く。


「このクラスの、久保山の家族の者だけど」


 来た。

 クラスメイトの身内、一人目がやってきた。

 体調不良だが、それでもその声に耳を傾ける。


「正解は何なの? 知りたいんだけど」

「あ、えっと、学祭が終わる三十分前に、正解を張り出します。もしよろしければその時にお出で下さい。来れないようなら、本人に伝えときます……」

「そうか。楽しみにしてるよ。しかし難しいけど興味深いね。じゃ、失礼するよ」


 久保山も三崎を毛嫌いしている。

 しかし家族には三崎の話をしていないのか、その挑戦者は最後までにこやかな顔をくずすことはなかった。


 しかし不満の声もあった。


「文化系の活動からの問題はないの?」

「あ、はい。問題にしにくいことが多くて……」

「運動系に偏ってるもんね。まぁ仕方ないか」


 クラスメイトの誰かの身内らしい。

 その不満の通り、運動部に所属しているクラスメイトについて出題をしている。

 しかし、その全員から問題を出しているわけではない。

 公式大会に何度も出場していて、しかもその成績に特徴がなければ問題にしにくいのだ。

 すいません、としか言えない。

 だからといって、クラスメイト全員の問題ができたとしても、果たしてそれが多くの人から称賛される内容になるだろうか。

 まず無理だ。

 そして、三崎が問題を作った目的は、まさにその称賛されることである。

 じゃあ問題にできなかったクラスメイトは貶されるかといえば、そうでもない。

 そういうことであるなら、クラスメイトの一部からしか出さないことにする、と割り切った。

 果たしてそれが吉と出るか凶と出るか。


 そして昼の時間になる。

 ここで初めて客足が途絶えた。

 とは言え、あと三時間。

 今の三崎の体感する時間では長すぎる。

 しかし、賞品の管理もしなければならない。

 それを考えると代役を誰かに頼む、という手もない。

 ただ、今を耐え忍ぶ以外にできることはなかった。


 ※※※※※ ※※※※※


 その挑戦者は、三崎の顔を見るなり、食い付くように話しかけてきた。


「ここの問題考えたのはお前か?」

「え? あ、はぁ」


 うつらうつらとしていた三崎は、勢いのある言い方にはっと気が付いた。


「えと、全問、自分が考えました……」


 と恐る恐る答えるが、その相手は校内の生徒だった。

 その男子生徒の後ろで女子生徒が「ちょっとやめなよ」と抑えようとするが、なぜか妙に興奮している。


「ちょっと話があるんだが」

「え?」


 何か問題に不都合でもあっただろうか。

 しかし自分で見つけたその現象に間違いはない。

 自分の目で確認している。


「やめなってば。この子、怖がってるじゃない」

「え? あ、あぁ、すまん。君を責めてるわけじゃないんだ。……君、名前は?」


 名前を聞かれりゃ、体調が悪くても普通に答える。

 三崎敬太です、と答えると


「三崎だな。よし、覚えた。そうだな……今日は難しいから、明後日か? 明後日の放課後、うちの部室に来てくれ。絶対だぞ? じゃあな」


 と言い放って教室から出て行った。

 その後ろにいた女性とは「急にごめんね? じゃあね」と一言添えて急ぎ足でその生徒の後を追いかけていった。

 何なんだ一体、と首をかしげる。

 が、そのやり取りの間は不調の感覚はなく、そんな問答が続けられるなら午後三時まで耐えられそうな気はした。


 客足が途絶え始めたのは二年A組ばかりではなさそうで、他のクラスの生徒も出入りが多くなった。


「君、名前聞いていい? ここにある問題、君が考えたの?」


 またも三崎は名前を聞かれる。

 聞かれるままに答える三崎。


「俺、サッカー部の主将の新倉って言うんだけど……サッカー部所属のこのクラスの生徒、西島だっけ? 彼の問題もあるよね。……学祭終わった後……明日は振り替え休日だから、明後日か。明後日の放課後、サッカー部の部室に来てくれないかな?」


 西島康太は、一年の時から公式戦の選手に選ばれている。

 二年になってスタメンに定着していて、それなりデータがとれたため。彼からも出題していた。


「えっと……どこの誰かは分からないんですけど、同じことを言われたので……」

「部室に来てくれ、って? 何部?」

「それが……名前もクラス名も言われなかったので……。多分三年生だと思うんですが……男女二人で入ってきて……」

「名前も名乗らないのは失礼だと思うし、断る立派な理由だと思うけど」

「あの……実は……」

「どうしたの?」

「体調がよくなくて、多分明後日も休むかもしれない、と……」


 新倉は、そうか、と言って腕組みをする。


「なら登校できた日の放課後、すぐに……いや、俺がここに出向くか。三崎君だったね。このクラスの生徒だよね? 部活はどこかに入ってるの?」

「えっと、同好会に入ってます……」

「同好会? あったっけ? まあいいや。俺がここに出向くから、ここで待っててくれないか?」

「えと、約束はできませんが……」

「そうか。まぁそれでもいいや。じゃあね」


 自分のクラスメイトから話しかけられることさえ珍しいのに、面識のない違う学年の生徒から話しかけられるなんて、何が起こるか不安さえ感じるほど。

 だが、その後も何人か、問題に採用された部活の主将やマネジャーに声をかけられ続けた。


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