催し物の方針も決まり、そろそろ準備もラストスパートらしいです
三崎が最初に考えたクイズ大会の企画からは、かなりかけ離れたものとなりそうだった。
しかしそれもまた三崎自身が望んだことであり、力を入れずにいられない新企画でもある。
だが、それにも若干の不満はあった。
それは、出題元のクラスメイト達に差ができること。
運動系の部活なら、公式試合の記録が残っている。
試合結果ばかりじゃなく選手個人の記録も残るし、記録にないことだって、三崎が今パソコンルームでしているように、試合の動画をチェックして調べることもできる。
だが文化系はそうはいかない。
せいぜいコンテストの様子が関の山。
コンテストに出場するまでのプロセスなどの記録は存在しない。
だから、出題元にはどうしても運動系にウェイトを置いてしまい、文化系は蔑ろにしてしまう感じになってしまう。
誰にでも、自分ですら知らない優れた面はある。
きっとある。
この新企画は、クラスメイトの家族にそれを見てもらえるチャンスでもある。
だから、その発案者が至らないせいで、そのチャンスに巡り合わせられないクラスメイトがいる、とも言える。
そこは責められても仕方がない。
指摘を受けたら、謝る以外にできることはない。
覚悟、と言ったら大袈裟だろうか。
そんな覚悟の上で、三崎は新しい企画を着々と進めていった。
※※※※※ ※※※※※
「三崎君。学祭まで半月切ったけど、準備の方は大丈夫なの? 賞品の方は頼まれた物買っといて、こっちで保管してあるけど。模造紙を用意させるってことは、問題をそれに書いたりするんでしょ? 間に合うの?」
三崎が登校して教室に入って早々、すでに自分の席にいた七瀬から進展状況を訊ねられた。
本人の態度や姿勢がいくら変わっても、変わらないものもある。
それは、周りの環境。
相変わらず部活にも力を入れているクラスメイト達からは、時間に余裕がある限り協力する、とは言われても、三崎の方から積極的に手伝いを頼むことはなかった。
だから、すべて三崎一人で作業が進められているため、三崎が今どんな作業をしているのかすら誰も知らない。
もちろん七瀬も知らないわけで、不安になるのも無理はない。
「前日祭の一日前が、丸一日準備の時間になってるから、ほぼ問題なし」
「ほぼ、ってところが気になるわね」
「パーテーションって言ったっけ? 仕切り板、一クラスにつき五枚まで使用できるって言ってたよね。教室まで運び込むのに、一人でやれる自信がない」
「あのね……」
一日中、学祭の準備に取り組んでもらいたいという学校側からの配慮である。
さすがにクラスに顔を出さないクラスメイトはいないはずで、それくらいなら準備の協力を得られるのは間違いない。
そこまで心配する三崎に七瀬は呆れた。
「みんな手伝えない、なんてことあるわけないでしょうが」
「それともう一つ」
「まだあるの?」
呆れた表情は維持したまま。
またしょうもないことを言い出すとでも思っているのだろう。
「模造紙に問題書くんだけど、読める字なら書けるよ? でも読めるからって上手な字を書けるわけじゃないからなぁ」
「あのさぁ……」
案の定。
だが三崎本人にとっては、結構シャレにならない事案だった。
「出題元がクラスメイトだからさ、その当人に自分に関する問題を書かせるのもちょっとな、って。まぁ丁寧に書くから、そこら辺は目をつむってくれれば問題ないとは思うけど」
問題作りも終わりが見えてきたところで、形式の変更にも腹を据えて決断した。
強く希望していた早押しから、問題を紙に書いて貼りだして掲示する形にする。
競うことで参加者達に楽しんでもらうことよりも、出題元となるクラスメイトに強く関心を持ってもらう方針に変更。
問題数がかなり少なくなった苦し紛れの方法、と見えなくもない。
だが教室内に掲示することで、常に問題を入室者に出題する形となる。
つまり喫茶店のように、入室時間を制限する必要はなく、いつでも受け入れる態勢がとれるようになる。
これはイベントとしては強みになる。
入室時間を決めると、その時間を逃してしまうとしばらく入室させられなくなってしまい、イベントの参加も次回に延期させてしまう。
それどころか、次の開催時間を忘れることになったり、参加を諦める人も現れるかもしれない。
そんなデメリットを解決できる方法でもある。
そのことによって、賞品を贈呈する条件もはっきりすることができた。
全問正解者に贈呈する仕組みにする。
一般常識や雑学の問題だったら、賞品を手にする参加者は続出する。
しかしその問題はクラスメイトからのもの。
そして問題を作ったのは三崎自身。
世に広まっている知識は何の役にも立たない。
用意した賞品二つどころか、一つも持っていかれない自信はあった。
そんな具合で着々と計画通りに進めている三崎だが、悩み事はまだいくつかある。
そこで七瀬にそのことを聞かれたものだから、それを素直に答えるのは普通の会話の流れだろう。
ところが、訪ねた七瀬本人は、こんなくだらないことにも返事をしなきゃならないの? と面倒そうな表情。
質問した相手が三崎じゃなかったら、いろいろと突っ込まれるところだったろう。
「文字の大きさがほぼ均等で、縦だろうが横だろうが、文字列に乱れがなかったらそんなに気にならないわよ。……ということは、進み具合に問題なし、ってことでいいのね?」
「まぁ、ね。でも人手はいらないって訳じゃないからね?」
慌てて訂正する三崎。
やや取り乱した彼を、七瀬には久しぶりに見たような気がした。
しかし、その三崎の態度は、彼女の記憶の中にはない。
いつも何かに怯えるような、いつも自信なさげな彼はどこにもいない。
一体何が三崎を変えたのか。
七瀬には不思議でならなかった。




