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誤解を恐れたら言うべきことも言えなくなるけど、余計にややこしい事態になったりする

 明英高校二年A組の三時間目。

 国語の授業を急遽変更。

 第三回目の学祭クラス会議が行われた。


 これまで通り、七瀬は議事進行をするつもりでいた。

 しかしその役目は三崎がさせられることになった。


 この騒ぎの経緯を知るために、事の成り行きの始まりから話を聞かなければ議論は始まらない。

 が、自分ばかりではなく女子全員もすでに始まっているトラブルに遭遇している。

 その代表者として名乗り出たが、三崎を責める男子達の大半と、日頃から三崎のことをよく思わない女子達からの反対を受けてのことだった。

 七瀬は困惑するが、一度でも進行役を責任者にさせたかったこともあり、今回は身を引いた。

 ところがその進行は、七瀬の予想の斜め上を進んでいった。

 三崎は進行させるどころか、糾弾を受ける場になっていた。


「まず三崎よぉ、お前、この裂かれた投書についてどう弁明するつもりだ?!」

「意見箱、空っぽだったよな? そこに置かれてから半月経ったぞ? クラス全員がメモを入れるってのは考えられないが、何通かは入ってたんじゃないか? 何で空っぽなんだ?」

「意見箱作ってくれた七瀬さんを馬鹿にしてるのか?」


 相変わらず三崎は、そう言うクラスメイト達の形相に怯え、何か言おうとしても口ごもり、どもる。

 しかし三崎に対する声は、彼を責めるものばかりではない。


「空っぽって言ったな? で、破られたメモは一枚分だけ?」

「あぁ。それがどうした?」

「じゃあ残りのメモは? こないだ、読まなかったメモ、箱の中に戻してたよな?」


 三崎への援護射撃は、その現場に居合わせた田宮だった。

 彼の口調は、何の感情もない淡々としたもので、そのおかげか三崎はいくらか落ち着いた様子。


「あ、あるよ。ここに……」


 と三崎は答え、学生服の内ポケットをまさぐって、全ての投書を取り出して机の上に置く。

 折りたたまれたメモは拡げずにすべてそのまま並べられた。

 もちろん封を開けてない便箋も。


「手紙まで入ってたのか。……で、全部読んだのか?」


 田宮が尋ねた後、間髪入れずに立川がそれを制した。


「あー、その便箋の一つは俺のだ。読んでもいいが、音読すんな。みんなに見せるな。いいな?」

「……何書いたんだよ、立川……」


 田宮はややあきれ顔。

 しかし考えてみれば、みんなに公表する必要はない。

 責任者にその意見が届きさえすればいいもののはずだから。


「確かにみんなに読んで聞かせる必要はないよな。それ、誰が書いたんだ? っつー追及することにもなりかねないし。それに、三崎が最初にそれを開けた時に俺と立川と田宮も居合わせたんだけど、そのうちの二枚のメモを、見るともなしに見えちまった」


 長浜の発言で教室内がざわついた。

 話を進めてもらいたい七瀬はその場を静めたくなった。

 しかし今回はお呼びじゃないらしい。


「責任者と七瀬しか見ちゃいけないんじゃなかったのか?」

「そんな勝手なことしていいと思ってるの?」


 糾弾の矛先がその三人にも向けられる。

 三崎はオロオロするばかり。


「開けたのは三崎だ。けど、自分から開けようとする気はなかった。七瀬に再三開けて確認するようには言われてたよな。俺らがその二通を見たのは、折りたたまれたメモが自然に広がって、それが目に入った。三崎が俺達に見せつけたりしたんじゃない」

「そうそう。他に五通くらい入ってたはずだが、それは折りたたまれたままだったから見てない。その読まれた二通は三崎がポケットにしまってたが、未読のメモはそのまま箱に戻してた。つか三崎。それくらい自分で言えよな」


 長浜と立川からの証言で、教室内の雰囲気はいくらかは落ち着いた。

 しかし三崎への印象は、まだいいものではない。


「箱に戻した? なんで箱に戻すんだよ」

「ちょっと待った、久保山。箱に戻す行為は、今議題にしなきゃならない議題か?」

「結局、三崎の責任問題に関わる話だろ? だったらこいつの素行」

「ちょっといいか? 久保山」


 長浜と久保山の言い合いに、鼻の具合がようやく戻った藤井が割って入った。


「仮に三崎が不適任だとしてだ。代わりに誰がやるんだ? 誰ができる? 俺は無理だ。新聞部だから校内走り回らなきゃならん。それどころか、クラスの催しにだって協力するのは難しい。はっきり言って誰でも構わないよ。それと……」

「すいませーん。遅れましたー……って……何? この雰囲気。つか、何で三崎が前にいるの? 七瀬さんも……」


 教室の後ろのドアを開けて入ってきたのは、保健室での手当てを終えた中辻だった。

 いつもの授業の途中のはずが、いつもと違う教室内の様子に若干戸惑う。

 きょろきょろと見まわしながら、中辻は自分の席に着いた。


「こいつが意見箱のメモを破棄してごみ箱に捨てたんだ。学祭の責任者として問題ありだろ? だから授業の予定を急遽変更して」

「あん? それ、俺がやったんだけど?」


 久保山の話の途中で、中辻が平然とした顔で言う。

 誰もがぽかんとして中辻を見る。

 が、中辻も不思議そうに周りを見回し、そして三崎を直視した。


「何? それが原因でこんなことしてんの? ……三崎」

「は、はいっ」

「ぷっ。何ビビってんだよ。つかさ、何で俺が捨てたってこと言わねぇの? 発言するなとか言われた?」


 中辻のこの言葉に全員がざわめいた。

 それもそうだ。

 関係者の三崎と七瀬以外にそんなことをする者がいたなどと、誰が予想してただろうか。


「中辻、お前、投書とか見たのか?」

「いや、三崎がポケットにしまってあってな。着替えの時にメモが一枚落ちたんだよ。拾ってやったら中身が見えてな。こいつを馬鹿にするような中身だったから、三崎に聞いたら、意見箱の投書だっつーじゃねぇか。意見を聞いてもらいたいために作った箱なんだろ? 何で三崎を馬鹿にしたり蔑むようなこと書いてんの?」

「蔑む? どういうこと?」


 そこで七瀬が口を出した。

 あくまでも学祭のイベントへの意見を投書する箱であり、自分や三崎への思いを伝えるものではない。

 そもそも個人に言いたい事は、直接言うなり手紙を出せばいいだけの話。

 意見箱を経由しなければならないことではないはずだ。


「確か責任者を降りて、勉強しろみたいなことだった気がする。……つか、俺、全部ゴミ箱に捨てたんだぜ? 全部拾って復元したら、何が書かれてるか分かるだろ」

「何よそれ!」


 七瀬が机を叩いて立ち上がる。

 三崎は、今度は斜め後ろにいる彼女を見て震え始めた。

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