私達の世界は交わる事はない
私はまた不思議な空間に居る。
辺りの人がぼやけて見えない。
息苦しい。
目の前に現れた少年を私は知っている。
「衆太・・・」
その名を呼ぶと少し安心する。
衆太は微笑んで姿を変える。
大人になった衆太は馴れた手つきで私の腰を引き寄せると私の中にある希望に手を触れる。
「ううっ・・・・」
私はこの行為に慣れることはなかった。
妙な声が出てしまう。
私が変な声を出すと衆太は少し頬を染め眉を潜めた。
スルっと自分の中から出た希望と言う名の剣はいつ見ても美しいと思える。
こんなものが自分の中にあるなんて少し変な気分だ。
しかし衆太に言わせると誰の中にもこれはあるらしい。
私は他人のものを見たことがないので比較する術はない。
ドロドロとしてはっきりとした形を持たない怪物に衆太は剣を構える。
もし彼が怪物にやられたらどうなるんだろう?
ふとそんな考えが過ぎったが衆太が負けるわけが無いことを私はなぜか確信している。
怪物は酷く弱い。
そして醜いのだ。
衆太はそれは人間から出たものだという。
人間の憎しみやマイナスのイメージが生み出すものだと。
この空間で時が流れている間も現実世界でも時間差はあるものの
同じように時間が流れている。
現実世界での私は今一体どうしてるんだろうと不安が過ぎる事もある。
母に見られた時は声をかけても上の空で夢遊病のようだったと言う。
家の中ならまだいいけれど外で不審な行動を取っていた場合を考えると少し怖いものがあるので外でこの空間に遭遇した場合は極力その場から動かずおとなしくしている。
人間から出たマイナスのもの・・・・以前愛ちゃんの形をしたあれは私が作り出したイメージだったのだろうか?
「ふう・・・」
怪物を倒した衆太は息をつくと私に剣を投げてよこした。
すると剣は私の手の中から消えてなくなってしまった。
「・・・・前はキスして戻してなかったっけ?」
「そうだったか?」
「あの行為には意味があると思ってたけど・・・そうじゃない見たいね」
「・・・・どうでもいいだろ」
衆太は少し照れてぶっきら棒に言うのでなんだかおかしかった。
「あ、あんた・・・大人の姿になると途端にガキっぽくなるわね」
「う、うるさい!どうでもいいだろ」
「何よいつもかっこつけてるくせに、中身はガキよね」
「フン」
「やっぱりあんたの本当の姿って子供の方なの?」
「関係ない!!」
「でも子供の衆太の方が余裕あるしなぁ・・・・わっかんないなぁ」
「もういいだろ!じゃあな!」
「あ、待って!もう一つだけ」
「ああ?」
衆太は機嫌悪そうに眉をひそめたが立ち止まってくれたので聞く気はあるようだ。
「衆太ってどこに住んでるの?」
私の質問に衆太は急に真顔になる。
「・・・・覚えてない」
「え?」
「ここに来ると向こうのことはあまり覚えてないんだ・・・・」
「え・・・それって」
私とは逆だ。
私は向こうの世界に戻るとこちらの世界の事を朧だけしか覚えていない。
はっきりとしたことを覚えていない。
「お互いにこれ以上は覚えていられないみたいだ・・・」
「どうしてだろう・・・・」
「多分踏み入れちゃいけない世界なんだ」
「え?」
「現実世界とこちらの世界は同じように存在はしているが境界線があって決して交わる事は無い。交わってはいけないからだ」
「交わったらどうなる?」
「交わる事は決してない」
「どうしてそう言えるの?」
「簡単だ、夢の世界と現実の世界が交わることはないだろ?」
「うん・・・・」
交わらないと聞いて安心すべきなのに私は少し寂しくなった。
なぜだか分からなかったけど衆太と私は現実の世界で出会ってもお互いを覚えて居ないのだから決して声を交わすことも無いのだ。
「この世界だけだな」
「ん・・・」
「俺たちが一緒に居られるのは」
「何かおかしいね」
「おかしいな、あんな怪物しか居ないマイナスの世界なのに・・・・」
「本当・・・変なの・・・・」
「あまり長く居るとまずい、戻るぞ」
「あ・・・」
気がつくと私は歩道橋の上に居た。
衆太を探して辺りを見渡すがそれらしい人物は見当たらなかった。
そして直ぐに私は衆太の事をいつものように忘れてしまう。
さっきまで確かに誰かと話していたのに思い出せないもどかしさで一杯になるのだった。




