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武田三日月という男~後編~


 「総隊長。今の、聞かれましたか?」

 「うむ。聞いていたよぉ~。だが5番隊の元へ行く方針に変わりはな~い。」

 「わかってます。行きましょう。」


 上杉の亡骸を弔う時間さえも許されない。私は総隊長と供に5番隊へ元へと向かった。そこには真田の亡骸が残されていた。


 「遅かったでござるな。」


 いや、正確にはそれだけではない。傍に佇む忍者、おそらくこいつがワズだろう。そして隣には裏切者がいた。2番隊隊長……。


 「松永ぁぁあああ!!!! 何でこんなこ「お前にはわかんねぇだろうな。」」

 「お前にはわからねぇだろうよ。毎日カンチョーして遊んでる。お前にはな。」



 裏切者。2番隊隊長である松永の姿がそこにはあった。



 「俺の主要任務を知ってるか? 殺人だよ。お前たちがカンチョーで正義ごっこしてる裏で、俺たち2番隊はずっとカンチョー暗殺をしていたんだ。」

 

 そんな馬鹿な……確かに総隊長は私達にこう言っていたじゃないか。

 「決して殺生を行ってはいけないよ。我々が行うのは正義のカンチョーなのだから」と。松永の言葉が頭に入ってこない。少しずつ私の脳が乾いていくのを感じる。


 「なあ? 本当にカンチョーだけで飯が食っていけると思っていたのか?? お前が着ている服も、靴も。全部俺達が人を殺して稼いだ汚い金だったんだんだよ。!!」


 嘘だ。そんな事は嘘に決まっている。松永は『何か勘違い』している。そうだ。ここには総隊長がいる。総隊長に聞けばきっと嘘だと言ってくれるはずだ。

 

 「何だよその顔は……疑問に思わなかったのか? 俺達カンチョー隊がなぜ豊かな暮らしができているのか。」

 「それは……私達を支持してくれる貴族が生活支援を「それだけじゃねぇよ。」」


 「それだけなわけねぇだろうがよ。いいかよく聞け武田隊長。支援してくれる偉い奴はな、自分達にとって不都合な人物の暗殺も依頼してたんだよ……。」

 ――そんなはずない。そんなわけがない。


 

 「総隊長、松永隊長がおかしな事を言っていますよ。2番隊が暗殺していたなんて……嘘ですよね? 総隊長??」


 総隊長は松永隊長の言葉をただ項垂うなだれて聞いているだけだった。何かをこらえているような表情をしている。総隊長から絞り出された言葉は……。


 「すまん。」


 謝罪の言葉だけだった。やめてくれ。そんな言葉聞きたくない。私の体から何かが抜け落ちていく。私の中にある大部分を占める圧倒的な何かが。


 「松永の言う通りじゃ~。いつしか我々は汚い仕事にも手を貸すようになっていた。仕方がなかった。皆を食べさせていくには必要な事だったじゃ~。」


 それ以上聞きたくない。脳が乾く。水分が足りない。呼吸ができない。やめてくれ……もうやめてくれ。


 「アホみたいな面してんじゃねぇよ。お前らはもう必要ないんだ。これからは俺とこの人だけでやっていくんだよ。」

 松永が私を見つめている。松永と総隊長?? だって松永は裏切ったはずじゃ……総隊長はおもむろに口を開く。


 「気が付いてなかったのかのぉ~。そうじゃよ。わしらが裏切者じゃよ。最初はもちろん違ったんだよぉ~。だけど村の人口が増えるに従って、いつしか我々は窮地に立たされるようになったんじゃ~。正義の手助けだけでは……それだけでは生活が出来ないほどに~。

 そんな時だったかのぉ~。暗殺を依頼されたのは……勿論最初は拒んだのじゃ。だがもう時間がなかった。それだけ我々の財政は危機を迎えていたのじゃよ~」

 「俺はこの人に言われて裏の仕事を手伝うようになったんだ。そして2人だけの秘密にしようという事になった。」


 「次第に慣れていってしまったんじゃ。暗殺家業は魅力的な仕事だったからのぉ~。年に数人を殺すだけで皆が幸せに暮らしていけるんじゃ。報酬も桁違いじゃった。最初は裏で怪しい事をしている人間の暗殺以来じゃったが、いつしか裏で怪しい事をしている人間からの依頼が大多数になっていったのぉ~。」

 「その頃にはもう俺達に正義感なんて物は無かったよ。ただ人を殺して金を貰う。裏稼業の報酬は美味しいからな。これからも甘い汁を吸い続けさせてもらうぜ。」


 「既に我々の元には何年いや何十年も暮らしていけるだけの金があるからの。今や我々は何でもできるぞ!! 新しい国を作ることだって夢じゃないんじゃ。もう綺麗事ばかりを抜かすお前さんらは必要ないんじゃよ。我々はこれから次のステージへと昇るのじゃ。今まで世話になったのぅ~。」


 そう語る総隊長は既に私の知る総隊長()ではなかった。

 

 「素直に『カンチョー禁止令』を受け止めておけばよかったものを。我々とワズさんの間でもう話はついているんじゃよ。素直に受け入れない場合は全員のクビを刎ねるとな~。」

 「そういう事だ。俺達が裏切ってるのも知らずに、熱い戦略会議なんて開いてご苦労さん。」


 脳が乾いている。もういい。知りたくなかった。聞きたくなかった。私はただカンチョーが好きなだけなのに。正義のカンチョー、そんな物は全ては幻だったのだ。もういい……。


 『本当にもういいのか?』


 その時、声が聞こえた。乾ききった脳に潤いを与えてくれるナニかの声が。


 『そもそもそれは本当に総隊長なのか? 君たちを裏切ったそこの2人を許していいのか??』


 見るからに間違いなく総隊長だ。だが口調が確かにおかしい。総隊長が偽物?? 

 だが許すとか許さないの問題ではない。自分にはもう何もない。何もかも失った。信頼できる人も仲間も。敬愛していた人も。もう何もない。


 『あるだろ。まだ君には1つだけ残されたものがあるはずだ。』

 

 誰だ?? 何を言ってるんだ?? もういいんだ。早く仲間たちの元へ逝きたい。


 『ならばなぜ握っている。その手は何だ。あるじゃないか。まだ1つだけ。君には残っているものが。』


 気付けば私はいつの間にか両手を握っていた。祈る様に握られた両手からは人差し指だけが真っすぐに伸びていた。いつもと変わらずに、まるで初めからその形でいるのが当然だと言わんばかりに。ソレはそこにあった。


 『初めよう。今からでも遅くない。私は常に君と供にある。』

 「貴方は……まさか……カンチョーしん様??」


 伝承に残っている話がある。カンチョーを愛する者が絶望した時、その両手にカンチョー神が宿る。そんなお伽話の様な伝承を。


 『ゆけ。語る必要はないはずだ。君はもう全てがわかっているはずだ。』



 「幻分身突き(ファントムカンチョー)



 総隊長と松永……いや、何者かと松永に幻分身突き(ファントムカンチョー)を放つ。

 2人ともその場を飛び幻分身突き(ファントムカンチョー)を回避しようとするが


 「させないよ。地中同一(アースグラブ)


 2人の足を地面と固定する事で幻分身突き(ファントムカンチョー)が不可避の一撃となる。松永に幻分身突き(ファントムカンチョー)が炸裂したが何者かは地中同一(アースグラブ)を解除して回避してきた。やはりこの男は総隊長ではないようだ。


 「貴様……何者だ!!」

 「ひどいのぉ~。手塩にかけて育ててやったのにわしに牙を剥くとは。悲しい。わしは悲しいぞぉ~。素直に死んでくれんかのぉ~。」

 「やめろ。それ以上その顔で!その声で!! 総隊長を汚すマネするんじゃねぇ!!」


 総隊長の外見をした『何者か』が、笑いながら、その姿のまま(・・・・・・)挑発してくる。

 「ひっひっひっ……なんじゃ。ばれておったのかぁ~。残念じゃのぉ~。クロして偽装しておったのに残念じゃ~。」


 ケツから血を垂らしながらも松永が叫ぶ。その顔は悲愴に溢れている。

 「だ、誰だお前は!! 総隊長は!! 総隊長はどうした!!」

 「殺害依頼をしていた総隊長は全部わしじゃったけどぉ~。何も知らないまま死なせてあげられなくてすまんのぉ~」


 いつの間にか何者かの手には何か1つのモノが握られている。

 

 「次元魔法を体内に開いて心臓を直接抜き取った(・・・・・・・・・・)よぉ~。もう死んじゃうね。その前に面白いものを見せてあげるよぉ~。」

 そういうと何者かは手に持った心臓を半分だけ次元魔法の中に入れた。


 「問題じゃ~。この状態で『次元魔法を閉じる』どうなると思う?? 正解は……」


 松永の心臓が半分に切断された。……遠距離の攻撃は跳ね返り、直接近距離でカンチョーをすれば撥ね返るのではなく、指を切断する事もできるのか。それにしても……


 「なぜそんな簡単に人が殺せる。それに貴様は何ものだ!」

 「今から死ぬ人間が知る必要はないなぁ~。体を半分にしてあげるよぉ~『次元魔法』」

 「残念だがそれは偽物だ。もう一度聞くぞ。何の目的でこんな事をした??」

 

 何者かの目の前に展開していた分身が消える。同時に30人程の分身を出す。


 「器用じゃの~。だけどもう飽きたのじゃ。ワズ、後は任せたのじゃ。」

 「御意。」


 次の瞬間、何者かは次元魔法でどこかへ移動してしまった。

 「待て!! くそぉぉおおおおおお!!!!」

 「そういう事で拙者が相手をするでござるよ。拙者のケツは次元魔法で防御してるでござる。何をしようと無意味でござるよ。」


 「無意味? 試してみるか??」


 握っていた両手を離し、右手を半分ほど握りか中指だけ伸ばした状態にする。


 「何のつもりでござるか。無駄な抵抗は「無駄じゃない。」」

 「私がしてきた事も。今からする事も。全部無駄なんかじゃないんだ。あいつは何者だ。なぜこんな事をした。」

 

 「知りたければ拙者に一撃でも与えてみるでござるな。」

 「一撃? 勘違いするな。一撃のはずがないだろう。だがいい。後でゆっくり聞かせてもらう。喰らうがいい。」



 「終末の百連刺ジ・エンドオブハンドレッドカンチョー」 



 音速などという生温いものではない。

 それは神速。

 空間を。次元をも捻じ曲げる神速の突きがワズを襲う。

 事実。この時ワズは『相手が消えた、何かが光った』様な光景が一瞬見えただけであったという。



 「お前のケツは……もう割れている。」


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