武田三日月という男~前編~
すみません。今回と次回はカンチョー隊の過去編です。気がついたら27000字程書いていたので、全8500字に圧縮してお届けします。本編とはほぼ関係ないです。
貴方にとって人生とはなんですか? そう聞かれた時、私はこう答えた。「愚問だ。」と。
なぜならば、人生とはカンチョーであり、カンチョーとは人生であるからだ。
私の出身であるカンチョー村では『おはよう』から『おやすみ』までカンチョーで行われるのが常識だった。
幼少から指先を鍛えるために素振りをし、時には熱砂に突きを繰り出し、ただ只管に指を鍛えた。
私の人生においてカンチョーはいつも心の中心にあった。
朝から晩まで仲間とのカンチョー対決を行い、万を超える闘いを経験した。
カンチョーは私に多くの事を与えてくれた。喜び、悲しみ、悔しさ、そして幸せを。
勿論、辛いこともあった。怪我に泣き引退した友人。どんなに努力しても超えられない壁に絶望する事も。だがそんな時、いつも背中を押してくれる存在がいた。毛利総隊長がその人だった。
「三日月。 カンチョー……好きか??」
「総隊長。自分は……カンチョーが大好きであります!!」
やがて大人になり、1番隊の隊長を任された私は多くの仲間と供に任務を遂行した。
犯罪を働く悪しき者に正義の鉄槌を。時には民を困らせる領主にも制裁を行っていた。
その結果、悪しき者も、民を困らせた領主も皆が『痔』になった。
毛利総隊長はいつも言っていた。
「決して殺生を行ってはいけない。我々が行うのは正義のカンチョーなのだから」と。
いつしかカンチョーは私にとって『誇り』となっていた。私の好きな事が皆の役にたっている。これ以上の充実感は他にはなかった。
だが今から5年前。カンチョー村に悲劇は起こった。
「今日からカンチョーを禁止とする。カンチョー禁止令が出された。」
何を言われているのか理解できなかった。なぜ総隊長はわざわざ私達を集め、こんな馬鹿な事を言っているのだろうか。カンチョーが何か悪事を働いた? いいや、そんな事は絶対にない。
「なんの冗談ですか総隊長。ちょっと笑えませんよ??」
俯きながら私達の顔を見ようともしない毛利総隊長。総隊長から返ってきた言葉は私達が聞きたかったものではなかった。
「すまない。もう決まった事なんだ。」
頭を下げる毛利総隊長は暫く沈黙した後に重々しく続きを喋り始めた。
「ワズという忍者が突然やってきて、我々の行動に対し強く抗議してきた。このままではこの村が滅ぼされてしまうかも知れない。どうか力の足りない私を許してほしい。」
毛利総隊長は泣いていた。どんな時も太陽の様に笑っていたあの毛利総隊長が。
大粒の涙を滝の様に流し、嗚咽を出しながら、泣きながら私達に頭を下げていた。そんな毛利総隊長の姿は見たくない。
例えこの身が滅んだとしても。
「毛利総隊長。ただ一言だけ命令してください。『戦え』と。」
「自分も同意見です。そのワズって忍者がどんな奴か知りませんが、自分達カンチョー隊長が黙ってやられると思いますか?」
「見せてやりますよ。自分達カンチョー隊の意地ってモノをね。」
「「「毛利総隊長!! 命令を!!!!」」」
皆も同じ気持ちだった。
「ダメだ……できない。奴の強さは人間ではないのだ。ダメだ。皆の者よく聞け『命令だ』今日から……カンチョーを禁止とする……。」
私は人差し指を地面に叩きつけた。1番隊から10番隊まで。全員が同じ行為をした。これは毛利総隊長に対する抗議だ。此処にいる皆、覚悟はできている。相手がどんなに強敵であっても誇りと供に滅びる覚悟が。
それでも毛利総隊長は折れなかった。私達は毛利総隊長が『戦え』という言葉を出すまでそこから1歩も動かなかった。
何時間、何十時間も経った後。毛利総隊長が意を決した様な顔つきになった。
「わかった。先陣は私が切る。続け、皆の者よ。忍者軍団とカンチョー隊の全面戦争だ。忍者達がいる場所はわかっておる。これより、軍議を行う!!」
「「「「「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」」」」」
割れんばかりの声が溢れた。燃える様な熱気の中、1番隊から10番隊までの隊長だけを残し、その場は一旦解散とした。
残った私達は毛利総隊長から恐ろしい事実を告げられる。
「初めに言っておく、ワズを含めた4人の忍者は次元魔法を使う。私も最初は抗ったんだ。だが、『相手にカンチョーをしたと思ったら、自分にカンチョーをしていた』のだ。恐ろしい魔法だったよ……。」
次元魔法。噂では聞いた事がある。大小様々な大きさで展開ができ、『自分の攻撃が跳ね返ってくる。』という噂だ。成程、確かに私達にとっては天敵だろう。しかし、3番隊隊長、天野の発言で一縷の望みが切り開かれる。
「総隊長、次元魔法が1度に展開できる数に限りはないのでしょうか? 1度に100もの次元魔法を展開できるとは考えにくいですが。」
「そうだな……試してみないとわからないが、可能性はあるだろう。」
「では自分の百手抜指で試してみましょう。100の角度から試してみれば突破口が見つかるかもしれません。」
その後、様々な案が出されたが、どれも私には向いていないものだった。
私のカンチョーは一撃必殺だ。
カンチョーに2の手はいらない。
その信念で鍛え上げてきた過去が今になって私を苦しめる。
軍議の結果、次元魔法を使うワズは総隊長が、残りの3人は2、3、5番隊隊長が対応。他の隊は次元魔法を使えない忍者を討伐しつつ、サポートに徹する事になった。
軍議も終わりを迎えた頃、目の前に突然空間が現れ、1人の忍者が出てきた。
「なぜ皆が拙者に敵意を出しているのでござるか?」
相手が油断しているのに攻撃をしない手はない。3番隊隊長、天野が既に忍者の背後に回っている。
「百手抜指」
同時に繰り出される百の指先が忍者を襲う。忍者を刺した天野がニヤリと笑う。
「総隊長、忍者らの展開限度数は3です。ですが大きさの問題で70発程返ってきてしまいました。あとは……頼みます。」
30の連射を受けた忍者も重症だが、攻撃に専念している状態で70の連射を受けた天野は……。
「「「「「「「天野ぉぉおおおお!!!!」」」」」」
尻から噴水の様に出血した。天野の百手抜指の恐ろしさは痔ではない。肛門が拡張されてしまう事だ。残念だがもう天野は………忍者は倒れる前に指笛を使った。感傷に浸る時間はない。すぐに奴らの仲間が来るだろう。
「出るぞ!! カンチョー隊! 出陣だ!!!!」
総隊長の合図で全員が部屋を出る。だが部屋の外は既に地獄絵図だった。皆指が折れ、成す術もなくを一方的に虐殺されている。忍者達は無傷。
なぜだ……なぜこんな一方的に…………索敵に優れ『テレパシー』スキルを持つ10番隊隊長、朝倉から皆に伝令が走る。
「忍者どもは『オリハルコンの鎧』でケツをガードをしている!!| 隊長、副隊長格以外は下がれ。一見何の変哲もない装備に見えるが内側が『オリハルコン』の素材でできてやがる。
もう一度言う!! 忍者どもは『オリハルコンの鎧』でケツをガードをしている!!」
「忍者共……どこまで腐ってやがるんだ!!」
……汚ねぇ。頭にきたぜ。
「永久不滅の痔」
周囲にいた10人程の忍者は既にケツから噴水の様に出血してる。私のカンチョーは『オリハルコンをも貫く』。他の隊長格も同様だが、残念ながらそれができるのは副隊長までだろう。
「落ち着いてください武田隊長!! もしあいつらの尻に次元魔法を設置されていたら……今ケツから血の噴水を流しているのは武田隊長の方です!!」
1番隊副隊長の上杉に注意をされるまでその事に頭が回らなかった。
「すまない。頭に血が上っていたようだ。助かった。」
「10番隊から次元魔法を使う忍者を把握する伝令があるまでは2連刺しで対応しましょう。初手はソフトに、後手はハードに。気持ちはわかりますが……今は一撃必殺は控えて下さい。」
「わかった。」
同じ志を持った仲間が次々とやられていく。多勢に無勢だ。私達カンチョー村の人数は300人程度、既に半分はやられてしまっている。対する忍者は3000人程確認されている。私達にとって終わりのない戦いが始まっていた。
「朝倉です。現在次元魔法を使う残り2名と2番隊隊長『松永』、5番隊隊長『真田』が交戦中です。毛利総隊長とワズも間もなく遭遇します。各隊、此処で総攻撃を開始してくだ……うわぁぁああああ!!!!」
「どうした朝倉?! 応答しろ朝倉!! 朝倉!!」
朝倉がやられた?? 戦闘は得意ではないとはいえ隊長格だぞ……油断でもしたとでもいうのか。しかし今は敵を減らす絶好の好機。
「やるぞ上杉。」「はい。武田隊長。」
「永久不滅の痔」
「一輪刺し」
私達は大技を惜しみなく使用した。上杉副隊長の『一輪刺し』はこんな時でも見る者の心を魅了する。相手のケツから流れる真っ赤な血が菊の花の形をしている。
見惚れている場合ではない。今は相手の数を減らさなければ守れるものも守れない。
「幻分身突き」
「一輪刺し」
既に200は葬り去ったであろうか。私達の持ち場にいた忍者は一掃したはずだ。上杉も限界が近くなっている。
「上杉、お前は暫く休め。」
「ですが武田隊長は……」
「私は総隊長の援護に向かう。」
胸騒ぎがする。もう二度と総隊長と会えないような……。
「そうですか。自分は足を引っ張りたくありません。体力が戻り次第向かいます。」
「ああ、心配するな。すぐに戻ってくるさ。」
「ご武運を。」
上杉をその場に残し、総隊長の元へと向かう。何かを見逃しているような気がするが時間が惜しい。総隊長の元へと駆け付けると既に戦いは終わっていた。
どうやら杞憂だったようだ。ワズと見られる忍者は既にケツから噴水の様に出血していた。
「お見事です総隊長。」
毛利総隊長は疲労はしているが苦戦したようには見えない。3つしか同時発動できない次元魔法では総隊長の敵ではなかったのだろう。
「武田かぁ~違うな。こいつはワズじゃない。確かに次元魔法を使ってはいたが迫力が違ったよ~。こいつは影武者だぁ~。」
「では……5番隊か7番隊がワズと戦っていると??」
「恐らくそうだろうなぁ~。ここから近いのは5番隊かな。上杉副隊長はどうしたぁ~? ……そうか、間に君の持ち場もあるしねぇ~。上杉副隊長と合流して5番隊へ向かうぞ~。」
なんという事だ。総隊長の相手が影武者だったなんて。しかしなぜ忍者どもはそんな事をしたんだ。総隊長に雑魚を向けるメリットなんて……それにしても総隊長の喋り方が少しおかしいな。時間が惜しい。細かい事は後で考えよう。
5番隊へと向かう途中、休んでいたはずの上杉副隊長が傷だらけで倒れていた。
「上杉ぃぃいいいい!!!!」
辺りの忍者は一掃したはずだ。それに上杉ほどの手練れがそう簡単にやられるとは思えない。なぜ上杉が倒れている。ここで何が起こったんだ。
「どうした上杉。起きろ。目を覚ませ。どうしてお前ほどの奴が……。」
戦場で泣いてはいけない。だが油断すると涙がこぼれてしまいそうだった。あの時の嫌な予感は総隊長でなく上杉の方だった。私が上杉を置いていったせいでこんな事に。
「た、隊長……すみません。油断しました。まさか……我々の中に裏切者がいるとは……」
「上杉!!」
まだ辛うじて息がある。カンチョーに特化した私たちは回復魔法を使う事が出来ない。私は上杉の最後の言葉をただ黙って聞くしかなかった。
「う……裏切者の名は…………」
裏切り者の名前を言うと上杉はそのまま倒れてしまった。そんな馬鹿な。同じ志を持って集まった仲間なのに。このタイミングで裏切るやつがいたなんて。




