08. 魔法の練習その1
前回同様サブタイままの内容。主人公・琢郎にとっても、魔法色が今後強くなる予定なので、作者自身の魔法描写の練習という意味でも。
「<風刃>!」
斜め上に見える木の枝に向かって、琢郎は右から左へ手を振るう。ほぼ狙ったとおりの軌道で風の刃が飛び、枝に生っていた2つの木の実が落下した。
落ちる実に合わせて視線を下に戻すと、意識を集中して地表付近で再び風の元素を操作。小さく渦を巻いた風がクッションとなって、2つの木の実は落下の衝撃で潰れることなく地面に転がった。
「よし、成功!」
琢郎は豚鼻を満足げに小さく鳴らし、その下にある口を笑みの形に変えると、数歩進んで枝から落とした木の実を回収した。
琢郎がオークとして転生して5日目、『魔法』を認識してから3日目。今日も琢郎は餌を集めながら魔法の練習をしていた。
不思議と言うか、便利なもので、ステータス画面にあった『使用可能魔法』を開いてそこに並んだ地火風水無の5属性の基本的な攻撃・防御魔法。そこに光と闇を加えた全7属性それぞれの特殊魔法。
計17の魔法の名前に目を通したその瞬間、初めから頭の中にあったかのようにそれら全ての効果と、基本の元素操作を含めた魔法の使い方を理解していた。
もっとも、5日前に『琢郎』として自己を認識する以前のオークとしての生活同様、実感を伴わない知識として頭に刻まれているだけであるため、こうして実践によって本当の意味で魔法を体得しようとしているところだった。
その甲斐あって、こうして一番使い勝手がいい風属性の魔法は、おおむね琢郎の思いどおりに扱えるようになってきている。
最初は枝ごと切り落としたり、何もないところを虚しく過ぎてそのままただの風に戻っていたりしていた<風刃>も、うまく木の実だけを落とせるようになり、落とした木の実もそのまま地面にぶつけて潰してしまうことなく受け止められるようになった。
さっきので、本日は5回連続成功。
その証拠となる10個の木の実が、琢郎の背後に積まれていた。
「ちょっと一息入れるか」
本日の成果のすぐ横にある石に腰を下ろすと、琢郎は一昨日即席で作って一緒に置いてあった木製のカップを取り出した。そこに手をかざして、軽く意識を集中する。
元素操作。実際に試してみて、これは色でイメージするのがやりやすいことがわかった。
さっきの風の元素操作は緑色だったが、今は青い光の粒をイメージする。水の元素が集中して生成され、カップが水に満たされる。
そうして自ら生み出した水で喉を潤しつつ、琢郎は『使用可能魔法』のリストもイメージで呼び出した。
「次は別の魔法を試すか。う~ん、どれにしよう?」
せっかく『全属性魔法』というスキルに恥じず、全7属性の魔法が使用可能であるのだ。実際に使うのが風属性ばかりではもったいない。
そう思いながら宙に浮かんだリストを眺めていると、画面の向こうで蛇が近づいて来ているのが視界の端に映った。ちょうどいい。
「<地槍>!」
地面に手を付け、地属性の攻撃魔法を唱える。
蛇の真下で、50センチほどの錐状の石の杭が突然生えた。
胴体のほぼ中心を真下から貫かれて、蛇はそのまま串刺しになる。しばらくの間はもがいていたが、やがて力尽きて動かなくなった。
琢郎は、動きを止めた蛇に近づいていき、木の実と同様にその死体も回収した。
「一応、これで今日も肉を確保、と。量さえあれば文句は言われないっても、やっぱり肉類も持って帰った方が受けはいいみたいだもんな。自分が肉にされるのは、まっぴらごめんだ」
魔法という新たな力に目覚めながら、琢郎はオークの群れの底辺層・食料調達係という立場を今のところ変えようとは思っていなかった。
魔法の練習その2、にはそのままは続かない予定。