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87. ゴブリン生息区域

「なるほど! これは、たしかに速い。普段からこれで移動しているなら、今日中に出発するつもりだったのも当然だ」


 琢郎の左手側で、感心したような声が上がる。


 リリィと池まで往復する時より若干<風加速>(フェア・ウィンド)に費やす魔力を多くしているが、今回はもう1人抱えているため速さは結局ほぼ同じ。

 出発当初は、速度が想像以上だったのか、抱えた手が変なところを触れることを警戒でもしていたのか。しばらく固まっていたが、数分もすると落ち着いてきたようだった。


「……しかし、本当に魔力は大丈夫なのか? 私が加わっている分、普段よりも消耗は大きくなるのでは?」


「それは問題ない。それより、あまり身動きはしないでくれると助かるんだが。2人も連れて移動するのは慣れてないんで、下手すると落として怪我させるかもしれん」


 だが、琢郎としてはそのまま固まっていてくれた方がありがたかった。こちらに向き直って訊いてきたゾフィアを牽制する。


 言った言葉も嘘ではない。

 反対側のリリィは慣れているので、自分からも琢郎に掴まるようにして態勢を安定させているが、ゾフィアはそれがない。

 万一の場合も、両方の手でそれぞれに抱えているため、反対側の手を使って咄嗟にフォローもできなかった。


「目的地が近づいたら教えてもらうが、それまで前を向いてじっとしててくれ」


 もっとも、より大きな理由はこちらを向かせないこと。

 他意はなかったのだろうが、顔を覗き込むような姿勢は困る。フードはそう簡単に外れないよう注意しているし、ゾフィアに会う前からフードの下で闇の元素を濃くしてあるが、あまり見られたくはなかった。


「そ、そうか。すまない」


 どこまで意図が通じたかはわからなかったが、ゾフィアは素直に詫びると再び進行方向を向いた。


「でも、話すくらいは平気ですよ。これから行く場所のことや、ゾフィアさんのこと。もう少し聞かせてくれませんか?」


 このままだと黙り込んだままで気まずい雰囲気になると思ったのか、リリィがそこで口を開く。

 琢郎も、話して注意がリリィの方に向くなら問題ないと、それを了承。


 琢郎自身はほとんど口を挟まなかったために、雑談混じりの打ち合わせの延長のような会話が、琢郎を挟んだ両側の女性の間で続いた。



「……あ。あの前に見える看板、あそこで止まって」


 それから20分ほど。

 目的地の目印を見つけたゾフィアは、リリィとの会話を打ち切って琢郎に告げた。


 何が書いてあるかまではまだ遠くてわからないが、たしかに道の先に立て札のようなものが小さく見える。道はちょうど立て札の辺りでゆるくカーブを描いており、道の向こう側は山になっていた。


「よ……っと」


 立て札が近づくにつれ徐々に減速していった琢郎は、その数メートル手前で<風加速>(フェア・ウィンド)を完全に解除して両脇の女性を降ろす。

 その頃には立て札の字もはっきり読めるようになっていた。


『この先、ゴブリン生息地域。冒険者ギルドの依頼なき者の立ち入りを禁ず』


 そう書いてあり、その後ろには小さな獣道のようだったが、山の中へ向かう細い道がわざわざ続いていた。


「……やっぱりこれって、ギルドがわざわざ課題用に用意してある場所なのか?」


 最初の課題で池に行った時からなんとなく都合がいいとは思っていたが、この立て札はあからさまだ。

 確認するように問うと、ゾフィアは当然と頷いた。


「もちろんだとも。初心者が適切に訓練できる場所がないといけないからな。レオンブルグ(ここ)に限らず、登録可能な支部の周辺にはあえて低級の魔物だけを残した環境が用意されているそうだ」


 そして、ゴブリンが増えすぎてしまわないよう間引きすることも時々あり、ゾフィアはそれにも参加しているためこの山には詳しいらしい。


「ゆえに、打ち合わせでも言った通り、私が先頭に立ってゴブリンとの遭遇率の高い場所へ案内しよう。こっちだ」


 リリィが装備を整えるのを待って、ゾフィアは立て札の後ろの道から山の中へと入って行く。

 槍を構えるリリィがそれに続き、その後ろを守る位置で琢郎が最後尾となる。打ち合わせた通りの隊形だった。



「……いた。あそこだ」


 その自信に満ちた言葉に違わず、途中から獣道すらなくなって山を進みだしてから10分足らずで、最初のゴブリンを発見した。


 木立の向こうに段差があり、その下で餌を探していると思しきゴブリンが4匹。

 高低差とちょうど木の陰になっていることもあって、向こうからはまだ気づかれていない。


 このまま気づかれないよう、声を殺してゾフィアは指示を出す。


「私が向こう側に回り込んで、奥の1匹を殺す。タクローは、私が動いてからこちら側で攻撃を開始。いいか?」


 最初は、残り1匹になるまでリリィは待機の約束。そのため琢郎が頷きを返すと、ゾフィアは回り込むため移動を開始し一度姿を消した。


 次にその姿が映ったのは、


「はあぁッ!」


 大きく回り込んで不意に茂みから飛び出し、突然のことに驚くゴブリンの首を剣の一振りで胴と分断した時だった。

やっと今回の最後で戦闘開始。

本当になんでこんなにも進まないやら。別に戦闘書きたくないわけでもないんですが。

あ。次回はほぼ丸々、戦闘シーンの予定です。

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