83. リリィの休息~最後の初心者課題へ
食材と魔物の換金部位を持って琢郎が宿に戻った時には、リリィの姿はまだ部屋にはなかった。
「まだ講習、終わってないのか……?」
そういえば、見せてもらった案内にも開催日時は書かれていたが、終了予定時間の記載はなかった。
まだ時間があるなら、もう一度食材を獲りに行ってもいいかもしれない。
今持ち帰ったのは、野草や果実ばかり。またさっきの場所まで戻ったりはしないが、近場で何か獣でも仕留めてくるというのも悪くない。
だが、講習が終わる時間を知らない以上、講習は終わっているのに何らかのトラブルでリリィが帰るのが遅れているという可能性もある。
もしそうだとすれば、呑気に追加の食材を獲りに行っている場合ではない。
「……とりあえず、一度ギルドを覗いてみよう」
それでまだ講習が続いているなら食材を獲りに行き、そうでないならリリィを捜す。
そう方針を固めたその時、
「つ、疲れましたぁ……」
当のリリィが疲労困憊した様子で戻って来た。
「おぅ、おかえり。思ったより遅かったじゃ……って、大丈夫か?」
出迎える琢郎は、不安からリリィが無事帰ったことに安堵し、すぐまたその疲れきった様子に心配してと、ごく短い間に表情をめまぐるしく変える。
リリィはその琢郎の前をふらふらと通り過ぎると、自分のベッドに倒れこむように身を投げた。
「タクローさんは平気な顔でバンバン使ってましたけど、魔法って思ったより疲れるんですねぇ。なんだか、角兎と戦った昨日までよりもっと疲れて感じます……」
そこからなんとか半回転して仰向けに身体を寛げると、もうこれ以上は動きたくないといった様子でぼやくように言葉を洩らす。
そんなに疲れるようなことがあったのかと、琢郎は『特殊表示』でその状態を覗いてみた。
『個体名:リリィ=カーソン 種族:人間
LV: 6
HP: 27/ 31
MP: 1/ 11
筋力: 18
頑丈: 13
敏捷: 16
知力: 19
スキル:「神契魔法(イリューン)」 』
HPはそれほど減っていない。底をついているのはMPの方だ。
今リリィの感じている疲労は、それが原因と考えていいものだろうか。
琢郎自身の経験ではそこまでMPを空にしてしまったことはないので、はっきりとはわからない。
さっきの蜂の群れを相手に大量消費した後にはたしかに少し疲れを感じたが、あれは戦闘の緊張から解放された反動で説明がつく程度のものでしかなかった。
「でも、ちゃんと神契魔法は習得できたみたいじゃないか」
疲労については適切な助言もできないので、新たにスキルとして追加されたその成果を指摘してねぎらう。
「はい。まだ小さな傷を塞ぐくらいですが、一応癒しの魔法を身に着けることはできましたよ」
顔を少しだけ上げると、リリィは嬉しそうな顔を琢郎に見せた。
それから、ふと何かを思い出したようにさらに顔をほころばせる。
「……ふふッ」
「どうかしたか?」
その理由を問うと、
「いえ。そういえばさっき、『おかえり』って言われましたけど。よく考えたら初めてというか、いつもとは逆ですし。なんとなくそれがおかしくなって」
たしかに、棲家にいた頃は出かけるのは2人一緒か琢郎ばかり。自然に口に出したが、あらためて思い出してみると琢郎の方が「おかえり」と言うのは本当に初めてのような気がする。
そんな言葉が自然と出るのも、今はリリィのことを何と言うかアレでソレなわけだが。
それを言葉にするのは、どうにもアレだ。
「その状態のリリィに、夕食作ってもらうわけにもいかないだろ。リリィみたいにうまくはできないだろうが、何か用意してくる」
琢郎はそう言って一度席を外す。
とりあえず雑に焼いたり炒めたりした料理のようなものを作って戻ると、
「やっぱり、今日はいつもと逆ですね」
と再びリリィの笑いを買ってしまう。今度は、琢郎も苦笑するしかなかった。
やはり琢郎の作ったものはリリィのそれには遠く及ばなかったが、リリィは文句1つ言わずにそれを食べる。
リリィの疲労が激しいために、食事が終わった時点でまだ暗くなったばかりだったが、この日は早くに休むことにした。
そして翌日、ぐっすり休んだリリィは朝には回復していたので、琢郎と次の予定を立てる。
もっとも、初心者用の課題はパスした護衛の同行を除けば残り1つ。
「これです。……ゴブリン討伐」
合流して最後の初心者課題に。
といっても、まだ末尾に何をするか発表したところまでですが。




