73. 冒険者ギルド
一夜明けて、琢郎とリリィはこのレオンブルグの街にあるギルドへと向かう。
「ん? ああ。冒険者ギルドの支部なら、北門の近くにあるぞ」
泊まった宿を出る時に、宿の人間にだいたいの場所も聞いた。
近くまで行けば、その辺りがそうだと誰でもわかるそうだ。
ちなみに、琢郎たちが通ってきたのは東門で、宿はまだ東区画に該当するらしい。
宿を出て、ひとまずは北へ進む。街中の道であるため加速魔法は使わなかったが、大きな街であるためなかなか道の端や、それらしい場所には辿り着かない。
「……ん?」
それでも、ようやく遠くに街を囲む壁が見えるようになり、同時に辺りの様子も少し変わってきた。
「なんだか、目立つ武器を持っている人が増えてきましたね?」
リリィも、琢郎と同じことに気づいたようだ。
道の両側に並ぶ店も、日持ちする干した肉や果物ばかり置いている店や、革の靴や防具を売る店、鍛冶屋などが目に付く。たしかに、目指すギルドに近づいているのはすぐわかった。
「あれ、だな。たぶん」
冒険者らしい連中の人の流れに乗ってもうしばらく進むと、3階建ての大きな建物に行き当たった。多くの冒険者が出入りしているので、おそらく間違いはないだろう。
「はい。前に見たことがあります。あれは冒険者ギルドの紋章ですから、ここでいいはずです」
正面入り口の上に掲げられた、剣と弓矢、それに何かの花が組み合わさった大きなレリーフを指して、リリィもそれを肯定した。
「……よし。じゃあ、行くか」
フードをしっかり深く被り直して、琢郎はその建物へと入る。
建物の中やこの周囲にいるのは、冒険者ばかり。万一ここで正体が露見するようなことがあれば、生きては出られないだろう。扉を潜る前にフードの位置を検めずにはいられなかった。
「……なんか、思っていたより普通だな」
「そう、ですね」
入ってすぐのところは広いロビーのようになっていて、大きな掲示板に張られた情報を見ている冒険者もいれば、奥にあるいくつかの窓口に並んでいる者もいる。
なんとなく、荒くれ者の巣窟とまではいかないでも、もっと騒々しく乱雑なイメージを抱いていたのだが、むしろ役所なんかに近いようにすら見えた。
「とにかく、あの窓口の方に並んでみましょう」
ここへ来たのはリリィの身分保証として冒険者登録をするためだが、そのためにどうすればいいかわからないため、ひとまず窓口に並ぶ列の1つに並ぶ。
前に2人と、一番人の少ない列に並んでみたが、10分足らずで琢郎たちの番が来た。
「あの……冒険者の登録をしたいんですが、こちらでいいんでしょうか?」
「はい。受付はこちらで間違いございません。ご登録はお2人様でよろしいですか?」
リリィが窓口の男性に尋ねると、丁寧な口調で答えが返ってきた。
「いや、俺はただの付き添いだ。登録はこっちのリリィ1人で」
「かしこまりました。ですが、登録のための鑑定と登録証の発行は別室で行いますが、そちらは登録者本人のみで同行者の入室はできません。ご了承ください」
それは問題ない。むしろ望ましいというか、初めからそのつもりだった。
一応、これまで琢郎自身も町で試してみて、フードなどで顔が隠れていれば『特殊表示』で見られないことはわかっている。
だが、それはあくまで琢郎の経験によるもので、絶対大丈夫だとは言えない。正体を見破られかねない『特殊表示』能力保有者に近づかずに済むのなら、それに越したことはない。
琢郎が頷きを返すと、窓口係も会釈して話を先へ進める。
「それでは、登録料としてお1人様銀貨1枚をいただいております。お支払いいただけましたら今から別室へとご案内いたします」
銀貨1枚。
登録するだけなのに、結構な値段だ。『特殊表示』持ちが稀少で人件費がかかるのか、身分証にもなる登録証に特殊な素材や技術が使われているのか。正解は分からないが、払えない金額ではない。
「わかった。……これで」
お金を入れている袋から銀貨を1枚取り出し、窓口係の前に置く。
思ったよりは高くついたが、必要な金だとわかっているのでリリィも琢郎を止めるようなことはしなかった。
「それでは、ご案内させていただきます。およそ1時間ほどで終わると思いますので、もしよろしければあちらでお待ちください」
窓口係の男が示したのは、壁際に置かれた長椅子だった。
「では、いってきます。ちゃんとしてくるので待っていてください」
男の後について行きながら、少し緊張した様子でそう告げるリリィを、琢郎はそこに座って見送った。
いよいよギルドへ。
次回は冒険者登録を終えての初クエストの予定。




