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66. 自業自得

別に伏せていたわけでもない、当然の成り行きです。

 翌日、テルマの町で琢郎は思ったより簡単に、冒険者が森にいた理由を知ることになった。


 初めにパンを買い出しに行ったトラオンでは、


「あぁ。そういや、何かあったらしいねぇ」


 という程度の認識だけで、何も具体的な情報を得ることはできなかった。聞くことができたのは、いつもと少し違っていたという町の出入り口の様子だった。


 警備する人数は少し増えているらしいとのことだが、聞いた限りでは町への出入りそのものが厳しくなってはいなかった。身元の確認をしたり、持ち込む荷物を検めたりといった行動は、流通の大きな妨げとなるため何か問題があったといってもそこまでには至らないらしい。

 それならまぁ大丈夫だろうと、琢郎はテルマにまで足を伸ばすことにした。


 着いてみると、たしかに町の入り口に立つ衛兵(?)の数は前より1人多くなっている。

 少しだけ緊張したが、琢郎の前を進む者たちは特に何事もなく町に入って行く。琢郎も続こうとしたが、


「なぁ。なんか普段より立ってる人多いけど、何かあったん?」


 ちょうど琢郎のすぐ前を歩いていた旅人風の男が、立っている1人に訊ねる。歩みを遅らせ、話に聞き耳を立てた。


「ああ、大丈夫ですよ。先日、町の反対側の街道で変な強盗の報告がありまして。それで冒険者を雇って周辺を調査していたんですが、もうこの辺りにはいないだろうとの報告がつい先ほどあったそうです」


 念のため、あと1日2日は今の態勢で町の入り口を警備するが、それが過ぎればもう完全に通常通りになるとのこと。


「じゃあ、なんだ。昨日のが最後だったのか……」


 あれこれ心配して、事情を探りに来てみれば、もう終わっていたとは。

 馬鹿馬鹿しいような気になって、琢郎はぼやきながら町の中に進んだ。


 テルマまで来た目的はもう果たしてしまっているが、町の入り口で引き返すというのも不自然になる。とりあえず、中でしばらく時間を潰そう。

 ただし、無駄遣いをしてしまうとまたリリィに怒られそうなので、それには気をつけて。


「だから言っただろうが。こんなところにいるわけないって」


「そりゃぁ、そうなんだけど。でもあんな格好で見たって言われたら、ちょっと不安になるじゃんか」


 入り口で言っていた通り、つい先ほど調査結果が町に広まったのだろう。町中では住民がそのことについて話している光景がそこかしこで見られた。


 森への立ち入りが終わったのなら、このこの町の住民ではない琢郎にはもう関係のない話のはずだった。しかしなぜだか気にかかり、近くの店の商品を眺めながらも耳を傾ける。

 やがて、驚愕する言葉が耳に入ってきた。


「けど結局、現場の崖の上に何か潜んでた跡が残ってただけで、本物はもちろんのこと、オークの皮を被った盗っ人も見つからなかったんだろ?」


 喉元まで驚きの声が出かかり、凄い勢いで声のした方へ振り返ってしまった。

 ぎりぎりのところで声を堪えたことが幸いし、急に振り向いただけでは辺りの注目をさほど集めることもなく、琢郎は動揺をフードの下に隠しつつさらに周りの声を聞いていく。

 その結果、話している人数が多いこともあって何人もの話を総合してだいたいのことを理解することができた。



 数日前、日が沈んで町の入り口の門を閉めようとする兵のところに、「見たことのない魔物が出た」と助けを求める男が走ってきた。男の言う魔物の特徴は近辺には生息していないオークのそれで、仕事帰りでわずかだが酒が入っていたこともあって、何かの見間違えだろうというところに最初は落ち着きかけたらしい。

 やはり、琢郎が荷物を奪ったあの男のことだった。


 そこまでなら琢郎の予想通りだったが、実際には失敗を犯してしまっていた。逃げる男を追いかけた際、男の背中に爪痕を残していたのだ。見慣れない傷痕がある以上、怪しい何かがいたのは確実となってしまった。

 ただし、本物のオークだと信じる者はほとんどいなかった。素顔を隠しかつ相手の恐怖を煽る目的でオークの顔の皮か似た何かを使って変装した、あちこち流れながら犯行を重ねる強盗の類だろうというのが、多くの者の妥当な見解だった。


 そうであれば犯人が近辺に残っている可能性は低く、正体が本物のオークだというのは万に一つ以下だとは思われた。

 だがそれをきちんと確認することが、住民や街道を通る者を不安がらせないためには必要であると町の上層は判断した。そうして依頼により森に派遣されたのが、琢郎が昨日見た冒険者だった。


 何かを探している、のではなく彼らは正に琢郎を探して森の中にいたということだ。気づかれずに済んで本当によかった。

 すでに終わったことだが、本当に危ないところだったようだ。

 楽観的に考えた結果がこれ。元よりその気もなかったが、やはり2度目はありえなかった。



 そうして、自分の撒いた種だったと知った危機であったが、すぐに収束。

 数日は用心して様子を見た後に採取場所の探索を再開して、ようやく新たによさそうな場所を見つけることができた。さらに日数をかけてリリィをそこまで連れて行く準備も整え、実際に連れて行ったリリィにもなかなか好評だった。


 これで今度こそ、この生活も安泰。

 そう思っていた矢先に、今度はトラオンの町で琢郎は再び思いがけない話を耳にすることとなった。

 急ぎ町から棲家へと戻り、琢郎はリリィに訊く。


「トラオンの町の、ルモワーニュって人のこと知ってるか?」

前書きにも書いた通り、到底伏線などと呼べるものでもないですが、予定のイベントはほぼ回収完了です。

これで次は、そろそろ大きく舞台を変える……と計画通りにいけばいいんですが。

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