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30. 新拠点を求めて

 替えのローブを購入した琢郎は、今度こそ町を出るべく来たのとは反対側の町の出口へと向かう。

 最後の買い物で大金を吐き出したために、残金はこころもとなくなってしまったが、金策を考えるのは後のことだ。


 入る時には特に見咎められることもなかったが、出入り口の門のところに兵士らしき男が立っていたのは事実である。さすがにもう門が閉められているということはないだろうが、買い物をしている間にすでに日は傾き始めてしまっていた。

 あまり町を出るのが遅くなると、別の場所まで日のあるうちに辿り着けるような時間ではなくなるために、今度こそ変に目立って不審がられてしまうかもしれない。


「ああ、そこのフードのあんた」


 実際に、町の北西にある門を抜けようとすると、


「今からここを出るなら、時間に気をつけた方がいいぞ。ここを含めてここいらの町は、あと2時間もすれば門が閉まるからな。それを過ぎると、中に入る手続きがかなりめんどくさいんだ」


 と呼び止められた。

 ただし、半分は予想通り、半分は杞憂だったと言うべきか、こちらを咎めるというよりは単に心配しての助言のようだった。


「移動速度には自信があるので、ご心配なく」


 気遣いから出ただろう言葉を無視するのも何なので、そうとだけ返す。

 そのまま自分の発言を証すが如く、琢郎は<風加速>(フェア・ウィンド)で加速してその場を去った。

 わずかな時間でその背を見失った門番の男は、目を丸くして見送ることになってしまった。


「さて、と……」


 門番が心配して声をかけてくるだけあって、琢郎の後ろから町の外に出てくるような姿はない。

 逆に道の先からは、日が落ちる前に町に着こうとこちらへ向かってくる人の姿が2組ほど見ることができる。


 移動速度を緩めた琢郎は、その2組をやり過ごし、その後ろから来る人影がないかを確かめる。そうして前後ともに人の姿が見えなくなるのを待つと、道を外れて北側にある山の方へと足を向けた。


 琢郎の新たな目的地は、街道の北側に広がる山脈の、中腹辺りだ。

 トラオンの町で屋台のおばさんから聞いた情報によると、この周辺の山、少なくとも山頂より南側には魔物の生息地帯とはいっても、それほど凶悪な魔物はいないらしい。

 ゴブリンやスライム、一番危険なもので魔狼程度で、琢郎と同じオークや、大型の魔物の姿はないそうだ。


 とりあえずの拠点を探している琢郎にとっては、そうした危険の少ない地域の情報はありがたい。


 が、魔物が比較的少ないだけに琢郎にとっては別の危険性が生じることになる。町の周辺、特に山裾の辺りには山の恵みを求めた人の出入りが、ある程度あるらしい。 


 現に琢郎は、そうした山へ入り込む人たちが植えたものなのか、街道に近い森のところどころに聖木の臭いを感じていた。

 危険な魔物に襲われるのもゴメンだが、無防備に寝ているところを人に見つけられるというのはもっとマズい。もっと奥、人の手の入っていないところまで進む必要があった。


 その前に、琢郎は近くに他の木と混じって植えられている聖木の枝を数本折り取る。それを魔物への備えとして山の斜面を上ると、人が通った形跡のない道なき道を奥へと進んで行った。


「……そろそろ、人が来ないところまで来たか?」


 ある程度まで進むと、植生が微妙に変化し、聖木が見られなくなった。

 足場も悪くなってきた他、枝がひっかかりそうになるため、着ていたローブはとっくに脱いでいる。ここまで来れば、人に見られるような心配はまずないだろう。

 同時に、先ほど折って持って来た聖木の枝のおかげで、魔物もそう寄りついては来ないはずだ。


 結果として、何か邪魔が入るような心配をすることなく、今夜の宿となる場所を探すことができる。昨日や一昨日に比べると、時間的・体力的な余裕もあった。

 前回までのような、とりあえず一夜を過ごすための場所ではなく、できれば当面はそこに住むことができるような拠点を見つけたい。


「となると、洞穴とか、大木のうろなんかがあるといいんだけど……」


 今の琢郎の身体の大きさを考えると、さすがに後者は難しいか。

 それに見つけたところで、かつて琢郎の群れが洞窟を巣にしていたように、先客がいることも十分に考えられる。

 そうすると、巣を襲われた側から、今度は琢郎が巣を襲う側に回るわけだ。なんとなく微妙な気分になりかけたその時、


「とわッ!?」


 足元をおろそかにしたつもりはなかったが、急に何かに足をとられて転んでしまった。


「っててぇ……」


 担いだ荷物が邪魔になってはいたものの、顔から激しく地面に打ち付けてしまう前に、先に手を付くことができた。

 地面と擦れてヒリヒリする掌の土を払い落とし、軽く息を吹きかけてから、転ぶ原因となった足元にあるものを確認する。


「……はぁ?」


 そこに予想外のものを見て、琢郎は思わず間の抜けた声を上げてしまう。

 太さ3センチほどもある緑色の蔦。いつの間にか、そんなものが琢郎の左足首の辺りに巻きついていた。

そろそろ少しはバトル風味を。そんな引きで次回に続きます。

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