29. 散財
ファンタジー……あれ……?
これ以上新たなトラブルが発生するようなこともなく、琢郎は買い物を終えることができた。
木製の椀と、大小の匙を買った後、パン屋を探してパンを補充。
店が違うのか、もう売り切れたのか、少女がぶつかった時に路上にばら撒いたのと同じパンは見当たらなかった。日持ち優先で安くて固いパンを選んだが、ついでにパンに付けるためのバタ-も購入した。
「こりゃ、早いとこ落ち着く場所見つけた方がいいなぁ……」
オークの巣を出て、これといった行く当てのない現状、いたずらに所持品を増やすのは得策ではないと思っていたはずだった。
だが、生活を少しでも快適なものにしようとした結果、気がつけば荷物がかなりの量になっている。
道具類と食品・調味料を分けて、一回り小さい別の袋を用意して消耗品と小銭はそちらに移す。
もっとも、小銭の方はあれやこれやと買い込んだせいで崩した分はほとんど溶けてしまい、残りは銅貨が10枚ちょっとでしかない。
手に入れた金のほぼ半分を使ってしまったことになるが、元々拾ったというか偶然のような形で手に入れた金だ。そう惜しむようなものではないし、大きな買い物ももう終わっている。
あとの使い道といえば、食品類が減ってからの買い足しくらいだ。それも、今日しっかり買い込んだだけあって当面は必要もなければ、額もそう大きくはならない。
半分の2万もあれば、まだ残りの金額を気にして焦るような段階ではなかった。
荷物も整理したことだし、とりあえず日が傾く前に一度このトラオンの町を出よう。
「……あっ!」
そこまで考えたところで、琢郎はもう1つ先に買っておくべきものに気づいてしまった。
服だ。より正確に言うと、ローブの予備。
顔や姿を隠すものがなくなってしまえば、また買い物をしようにも、人の中に紛れることができなくなってしまう。
今身に着けているローブが事故か何かで破れたりなくなってしまったりする前に、1着は予備を用意しておくべきだろう。
一応、今でも森の中を高速移動する時に枝などに引っかけてしまわないよう、町や街道を外れた場所ではローブを着ないよう気をつけてはいるが、万が一の備えはしておくに越したことはない。
三度、町の入り口まで戻った琢郎は、屋台で場所を訊いて古着屋へ向かった。
仕立て屋も町にはあるそうだったが、それでは時間と金が余計にかかるし、仕立てのために寸法を測るとなると、ローブで隠したままではいられない。
それゆえの選択だったが、縦にも横にもかなり大きい琢郎のサイズに合うものが古着屋にあるかどうか。
屋台のおばさんも、店の場所は教えられてもそこまでは保証できかねるようだった。
「っと、ここか」
だが、実際に教わった場所にあった古着屋は、琢郎が地球にいた頃の地元商店街の片隅にあった店のイメージと比べると、かなり大きくちゃんとした店構えであり、期待が持てた。
「いらっしゃいませぇ」
店の奥にいた親父が琢郎を見て近づいてきたので、琢郎が着れるサイズのローブがあるか尋ねてみる。
すると、ローブばかりが並んだ店の一角に案内されて、そこにある一番大きなものを勧められた。
「こちらはいかがでしょう?」
「ほほぉ……」
色は薄い茶色。厚手のしっかりした布で作られており、ちょっとやそっとで裂けたり破れたりはしそうにない。
サイズも大きく、今琢郎が着ているものよりも身体には合っていそうだ。ちゃんと顔を隠すためのフードも付いている。
「……げッ」
これはいい物だ。
そう感じてほぼ買うつもりになっていたが、付けられた値札を目にして思わずうめきが洩れる。
『18000』
足りないことはないが、残った金の8割以上がいっぺんに吹き飛ぶ金額だ。
さすがにこれを見ても即買いするということはできず、近いサイズの別の物を一度探した。
琢郎の身体が入りそうなものが3着ほどあるにはあったが、1つはただの外套といった感じで、肝心のフードが付いていない。あとの2つは、今着ているのとほぼ同じくらいの大きさだったが、いかにも古着と言うべきか、使い古して生地が薄くなったり裾が少しほつれていたりしていた。
値はどれも7~8000といったところだ。
大きいサイズだけあって値もそれなりにするようで、ローブが人間の町に紛れ込むための必需品となることを考えれば、よりしっかりした物の方がいいだろう。
しかしさすがに、最初の1つは高すぎる。
どうしてこんな値段になるのかと訊いてみると、
「ああ、それは元々人間用ではなく、大柄な獣人の方が持ち込まれた逸品でございます」
何年か前に、冒険者らしき大きな獣人が売りに来たものだそうだった。それ以来、ずっとローブの中の目玉商品として置いてあるという話だ。
「いや、それはつまり、物自体はよくても需要はないってことじゃないのか?」
良い品だったので買い取ったはいいが、この町では需要がなく何年も売れ残っているということではないか。そのことを指摘して、いくらか値下げができないかを求める。
すると、たしかにもう何年も動いていない商品であり、琢郎が今買うと言うのならば多少は値段を下げてもよいとのことだった。
だが、元々の買取価格もかなり高かったようで、値下げにも限界がある。最終的に、正銀貨の残り2枚を出した琢郎が受け取った釣りは、小銀貨が4枚。
琢郎の持つ残金は、一気に5000と少しにまで減少してしまった。
完全に横道に逸れてしまった……
さっさと買い物済ませて一度町を出るはずだったんですが、思いついたばかりに。
これが衝動買いか。




