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28. 栗毛の少女

サブタイの割には出番は前半のみですが、そのうち再登場、名前も付く予定です。

 年の頃は、日本で言えばちょうど高校の制服でも着ているだろうか。

 肩の少し上までの長さの栗色の髪と、やや茶色がかった黒い瞳。

 ただ、その瞳は今は大きく見開かれたまま路上に散らばったパンを1つ1つ探して確かめてでもいるかのようにさまよい動いている。


「あ……あぁ……」


 血の気が引いた小さな唇が震え、言葉にならない声を漏らしていた。

 そんな少女の様子に、琢郎は困惑した。ぱっと見る限り、まだ作り立てらしく柔らかく湯気を立ててはいるものの、それほど特別なパンであるようには見えない。


「えぇ……っと」


 これからどうするべきか、束の間迷う。

 多少注意がおろそかになっていたのは確かだが、過失の割合を考えれば飛び出してきた少女の方に非があるだろう。


 このまま去ってしまってもいいようにも思うのだが、もし少女が追ってきたらと考えるとそれは好ましくない。

 変に大きな騒ぎになるのは、琢郎にとって極力避けたい事態だ。とりあえずは人に紛れることができてはいても、結局はフードの下の姿を晒すことができないという事情がある。


 店がいくつも並んでいる通りであるため、それなりに人通りもある。すでに通りがかった何人かが足を止めてこちらを見ていた。

 ここで対応を誤るのはまずい。


「とりあえず……これで足りるか?」


 考えた末、手持ちの金の中から小銀貨を2枚取り出す。

 琢郎が前の町でパンを買った時のことから換算すれば1枚でも十分だったが、それよりは上質のパンに見える。足りないと食い下がられても困るので、念のためもう1枚、余分に出しておいた。


「えっ、あ、あの……?」


 突然、金を渡された少女は驚いて、手の中の硬貨とフードに隠れた琢郎の顔に視線を何度か往復させる。


「弁償するんで、これで勘弁してくれ」


 スマートなやり方だとは思わないが、さっさと事態を収束させることが優先だった。

 まだ少女は不得要領な感じではあったが、金額自体は足りているかを確認すると一応首を縦には振ったため、琢郎は踵を返して足早にその場を離れた。



「悪い。またちょっと店の場所を教えて欲しいんだけど……」


 一度町の入り口近くまで戻ってきた琢郎は、肉串の屋台を出すおばさんのところへ向かう。

 串を2本と、柑橘類の汁を混ぜて爽やかな酸味がある水を1杯買って、代わりに木製の器を扱っている店の場所を訊いた。


「木でできた器ねぇ…… それなら――」


 こうして町を訪れた者に案内をするのも商売のうちになっているのか、買い物をすると快く店の場所を教えてくれる。

 聞いた店の位置は琢郎の思っていた通り、さきほどの場所のすぐ近くだった。


 すぐまたあの場所近くに戻るというのも躊躇われたため、琢郎は水のお代わりを頼む。時間潰しも兼ねて、トラオンの町の周辺についても話を聞いた。


 山の方にも中腹付近に小さな集落がいくつかはあるらしいが、街道は山の裾をぐるりと周っていくつかの町を繋ぎ、その先で山と山の間を北に抜けるそうだ。

 東西に連なる山脈は、街道の周囲こそある程度まで開拓・整備されてはいるが、それ以外はほぼ手付かずのまま。このトラオンの町も山の麓にあるが、山の向こう側には冒険者などの一部の例外を除いて、ほとんど人が足を踏み入れない自然が広がっているらしい。


「それで、山の方から獣や魔物が迷い出た時のために、町が壁で囲まれているわけか……」


 山脈沿いの街道にある町は、おおむねどこも同じようになっているという話だ。

 また、折ったり加工したりしてしまうと魔除けの力が薄くなってしまうために、街道と同じように聖木が町を囲む壁の、さらにその周りに植えられているというのも聞いた。


「ありがと。色々聞かせてもらって助かった」


 買ったものも食べ終わり、話も一段落した頃にはもう十分時間がたっていた。最後におばさんに礼を述べて、教わった店の場所へと向かう。


 途中でさっきぶつかった場所を通るが、さすがにもう少女の姿はない。路上に散らばったパンも片付けたのか、もう何も残っておらず、特に琢郎に目を向ける者もいない。


 琢郎は安心して、食器に使える木の器を買うために教わった店の中に入っていった。

頭であらすじを考えても、実際に動かしてみるとやはりブレます。

流れはある程度決めたつもりでしたが、少女に別の役割もさせる案がふと浮かんだり。今のところ再変更はしないつもりですが。

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