19. 人間社会との接触
構成の都合上、ちょっと短め。
とりあえず琢郎がまずするべきことは、移動と周辺の地形の確認だった。
昨日はすぐに暗くなってしまったため、近くの樹の陰を寝床とした。しかし、結局あの1度きりだったとはいえ獣の襲撃を受けた場所で、今夜も寝ようという気にはなれない。
今の琢郎には目的地がない。そういう意味では、同じ場所ではないにしても近くに別の寝場所を探してもいいのだが、いずれにしても周辺の様子を確かめることは必須だった。
「<風加速>!」
加速魔法を使って、地形を確認するとともに、他のオークやゴブリンなどの巣が近くにないかを見える範囲で探る。縄張り争いのようなことになっては、安眠などとは程遠い。
かと言って、別の群れに合流させてもらうというのも気が進まないし、仮にその気になってもおそらく難しいだろう。
となると、まだ他の生物が進出していない場所が望ましい。
加速魔法のおかげで移動範囲が広いので、食料調達などの不便さはあまり考える必要はない。拠点自体は安全性優先で問題はなかったが、都合よくそんな場所が見つかるかどうか。
「……ッ、何だ? この臭い」
そんなことを考えながら進んでいた琢郎の、豚のように大きな鼻が不意に異臭を捉える。進行方向からだ。
慌てて加速を解除するのとほぼ同時に、森が途切れて琢郎の身体は開けた場所に出た。
どうやら、琢郎が思っていたより人間の生息域は近くにあったらしい。そこは単なる獣道ではなく、明らかに人の手が入ったと思われる幅3メートルほどの道だった。琢郎の出た場所はその途中らしく、道は左右に長く伸びている。
「臭いの元は、これかぁ」
そこで琢郎が見つけたのは、道の両側に互い違いに15メートルほどの等間隔で植えられていた同じ種類の木だった。いずれも高さ2~3メートルほどでそれほど大きな木ではないが、葉脈が白く浮き出た大きな葉が茂っている。
琢郎の鼻を突いた臭いは、その葉っぱから出ているようだった。
臭い自体は、むしろ匂いという表記の方が似合いそうな、地球の芳香剤の類にあっても不思議ではないようなさわやかな感じのもの。だが、不思議とそれが琢郎の鼻には不快に感じられる。
魔法が存在するような世界だ。道に等間隔で配置されていることから考えても、この木に魔除けだか獣除けだかの効果があって、それがオークである琢郎に不快を感じさせるのかもしれない。
ただ、嫌な感じがするだけで、毒のように直接害があるというわけではないようだ。念のためステータスを出して確認するが、何の異常もない。
そして、好んで嗅ぎたいようなものでは決してないが、耐え難い悪臭というほどではない。
「……これ、使えるかも」
手近な木から枝を折り取って、折った枝の方からも同じ臭いがするのを確かめる。
この状態で臭いがどれだけ持続するかはまだ不明だが、多少この臭いを我慢すれば寝床の安全性をある程度まで確保できるかもしれない。
この枝を何本か拝借して寝床の周囲に配置することで、同じようにこの臭いを嫌う奴らが近寄ることを避けられるのではないか。
琢郎が思いついたちょうどその時、
「うわッ! オ、オ、オークが出たぁぁ!?」
背後で悲鳴が上がった。
振り返ると道の向こうに、ここを通ろうとしていたであろう、荷馬を引いて自らも荷物を背負った中年の男が顔を蒼白にしていた。
次回はちょっと違う感じにする予定です。




