121. ゴブリン殲滅 その1
「……もしくは、討伐隊を連れて戻る者の安全と、それまでに巣を放棄して逃亡されないための足止めに、誰かがこの場に残ること、だ」
てっきりこの人数で巣の壊滅に挑むのかと思いきや、ゾフィアの真意はこの第三の選択だったようだ。
足の痺れが一時撤退の障害となると自覚している彼女は、自身がその足止めをする誰かとなる覚悟だった。
「そんな……!」
悲壮な面持ちでリリィは首を左右に振って翻意を促した。
それも当然だろう。万全の状態ならまだ可能性もあるが、まだゾフィアは足の痺れでまともに歩くこともできそうにない。
ゴブリンとはいえあの数を相手に、無事に済むとは思えなかった。
「却下だ。選ぶなら2番目だろう」
琢郎もまた、ゾフィアの選択を否定する。
さすがにここにゾフィアを残していくのは寝覚めが悪い。
本当にそうする以外どうしようもないというならまだしも、そうは思えないなら尚更だ。出し惜しみなしでいけば、数が多いだけならまだどうにかなる。
「<風刃>!」
手始めに、いつものように風の刃で敵の数を減らす。
何匹かさっきのように投石の道具を持ったゴブリンがおり、振り回し始めたそいつらを優先的に狙ったのだが、その全てを先んじて倒すまでには至らない。
「ギギャァッ!」
叫びと共に数個の石が放たれた。
「<石壁>!」
即座に地面から石の壁を起こして盾とする。飛んで来る石の重さと勢いを考えれば、<嵐風障>よりこちらの方が確実だ。
石が衝突する音が立て続けに響き、石壁はその全てを弾いた。
「なッ……!」
それを見たゾフィアが絶句する。
彼女の前では専ら風の魔法しか用いていなかったところに、相性としては対極の地属性の魔法を突然使えばその反応も無理はない。
説明している暇はないが、驚きで固まっているならちょうどいい。
「<風加速>!」
強引に抱きかかえ、反対の手でリリィも掴むと加速。再びゴブリンたちから大きく距離を取る。
戦うにしろ、どうするにしろ、ともかくゾフィアの足の痺れが治まるまでの時間を稼ぎたい。
が、それもそう単純にはうまくいかない。
「ギャギャッ!?」
いくらも進まないうちに、進行方向からまた別のゴブリンが飛び出してくる。
どうやら巣からだけでなく、外にいたゴブリンも騒ぎを聞きつけて集まってきたらしい。
「<風刃>!」
「えぇいッ!」
ただし、こちらは巣から出てきた大群とは違い、いつもの数匹規模。
琢郎の魔法とリリィの槍で手早く片付けはしたが、その間に琢郎が残した石壁を回り込んだ大群が追いかけてくる。
「<風刃閃>!」
反転して向き直ると、今度はより遠距離から強化版の風の刃で撃ち減らす。
さっきも削ったはずだが、まだ巣から新手が出てきているのか数はむしろ増えたように見えた。
ただし、厄介な投石器持ちのゴブリンは優先的に狙い続けた結果、少なくとも先頭集団からは姿を消した。
敵の飛び道具を奪ってしまえば、こっちのものだ。
「<風刃>! <風刃>!」
風の刃を連射し、さらに
「<落穴罠>!」
ある程度近づかれたところで落とし穴を起動。
「ギャァッ!?」
遠距離からの発動のため、穴の深さは極めて浅い。が、狙いは落下のダメージではない。
戦闘を走るゴブリンが、急に足元にできた窪みに足をとられて躓く。
そこにすぐ後ろにいたゴブリンがぶつかり、もつれるようにして共に倒れる。その倒れたゴブリンにさらにその後ろが躓く形となり、たちまち将棋倒しの如く何匹ものゴブリンが重なり倒れた。
それに巻き込まれなかった後続のゴブリンも、目の前に倒れる仲間の山が邪魔となって足が止まってしまう。
「<火炎球>!」
そこへ燃える火の玉を全力投球。
山火事の危険はあるが、固まった敵を一気に倒すにはこれが一番手っ取り早い。
「グギャアアアアァァ!!」
「<石壁>」
もっとも、焼かれたゴブリンが火を纏ったままこちらに向かって来ないよう、すぐさま三方を石壁で囲んだために、その心配も少ないが。
「<火炎球>!」
駄目押しとばかりに壁の向こうへもう1発、山なりに火球を投げ入れる。
「ギャッ、グギョギャアァァ!!」
再びゴブリンの絶叫が上がる。
肉の焦げる臭いが漂い始めたために、それを押し流すついでにさらに風を操り。火勢を煽った。
高出力の大魔法の一撃ではなく、全属性適性と魔力量による手数と魔法の組み合わせが主人公の持ち味です。
な感じが出てればいいんですが、まぁ相手がゴブリンなので。