116. 再び、ギルドにて
「とにかく、今日採れた分だけでもギルドに持って行こう。女王種が存在する可能性についても、確認しておきたいからな」
オルベルクに帰り着くと、ゾフィアの言葉に従いそのままギルドへ直行する。
ギルドの建物の扉をくぐったところで、意外なものが目に入った。
何かの依頼を完了して、受付で対価を受け取るリザードマンの背中。それは、昨晩ここの前で別れた時に見たのと同じものだ。
「ラグード! ヴェステンヴァルトに向かったんじゃなかったのか?」
思わず驚きの声を上げると、それに気づいたリザードマンが振り返る。
「いよぉ。また会ったな」
他のリザードマンを見たことがないため、人違いという可能性も声に出してしまった後で考えたが、振り向いて挨拶を返してきた時点でもはや疑いようもない。
しかも、しばらくここに残って欲しいという希望に対し最後まで首を縦には振らずに別れた昨日の今日だ。少しくらいは気まずそうにしてもよさそうなものだが、そんな素振りは全くなかった。
「昨日、ここでギルドの報酬を見ても、残るとは言わなかったじゃないか。あの後、何があったんだ?」
その変心振りに、訊ねずにはいられなかった。
「あん? 俺ぁ元からここの報酬に不満はねぇよ。問題だったのは、ここで仕事した後のこった」
ラグードの答えはこういうものだった。
オルベルクで稼ぐこと自体は問題ないが、これ以上出遅れるとヴェステンヴァルトに着いてから支障が出る恐れがあった。
オルベルクとは違い、ヴェステンヴァルトには噂を聞いた冒険者が今もどんどん集まってきている。すると当然、冒険者の泊まる場所もいずれは足りなくなる。
ラグードのような、普通のサイズのベッドでは身体がはみ出してしまう大きさだとなおさらのことだ。
「宿で1泊だけっつったら、宿の女将に渋られてよ。んで、今と同じ説明したら、それならここで働いた分だけ便宜はかってくれるってぇことになってな」
女将の親戚がヴェステンヴァルトでも宿を営んでおり、応援の冒険者の到着と入れ替わりでヴェステンヴァルトに向かう際に、紹介状を用意してもらうということになったらしい。
「そこまでしてくれるってんなら、首を横には振れねぇだろ」
まだラグードも顔を合わせていないそうだが、そこの宿にはラグードの他にも1人、同じ条件でオルベルクに滞在している冒険者がいるらしい。
ギルド職員がゾフィアや琢郎たちとは別の宿にラグードを紹介したのは、それを知っていたからというのもあったのかもしれない。
「……まぁ理由はともかく、手を貸してくれるというのはありがたい。ラグード、よろしく頼む」
琢郎とのやり取りを聞いたゾフィアはラグードにそう告げて、空いた受付へと向かう。
どこか複雑な表情をしていたのは、ラグードが渋ることで利益をさらに引き出したことをあまり快く思わなかったせいだろう。
「あいつ、別にここの出身でも活動拠点にしてるんでもないんだろ? 真面目っつうか、お人好しってぇか……」
「うん?」
「いや、それが悪いってんじゃねぇ。仲間にすんなら、そんな奴のが信用はできる。が、あんまりそれに流されるのも、な。俺が言うのもなんだが、冒険者なんざ身勝手なモンだ。近いうちに、あいつと一緒に割を食うハメになるかもしれねぇぞ」
すれ違うゾフィアの背中を見送って、ラグードはそんな感想を洩らした。
「大丈夫ですよ。ゾフィアさんはいい人です」
擁護するリリィの言葉は的外れ――というか、『いい人』なのが問題になるかもしれないという話なのだが、
「こっちも訳ありじゃ、信用できるかどうかが大事だろ」
と、琢郎も返した。
ラグードの言うこともわからなくはないが、リリィが懐いていることもあるし、言った言葉の通りでもある。
「……へぇ。んで、今日の成果はどんな感じだったんだ?」
琢郎たちの答えを聞くと、それ以上は言及することなくラグードは話題を変える。
そこで、魔物の数が多くて予定通りにいかなかったことや、女王種の存在の可能性について琢郎が語った。
「女王種か…… そんなに数が増えてんなら、いるかもなぁ。もしマジに女王種がいりゃ、巣を見りゃあすぐわかるぜ」
ラグードは女王種の討伐の経験があるようで、その特徴をいくつか教わることができた。
そうしている内、受付の方でも話が終わったようで、ゾフィアが引き返してくる。
「ギルドの方でも、女王種の可能性は考えていたらしい。その確認と、場合によっては討伐の依頼も受けてきた」
戻って来たゾフィアの手には、見慣れないものが握られていた。
いい加減、なんとかしなければ。
時間が取れずに、話の流れが決まってから形にするまでに1週間以上……
おかげで細部の言い回しが飛んで、予定の流れに合わせるのにまた余計な時間がかかるという悪循環に陥っています。
今のスタイルが合わなくなっているようで、更新がどんどん遅くなってしまっています。申し訳ありません。