115. 3人パーティ再開
最近、サブタイがいい感じに決まらない……
「……これとこれ。あと、こっちのとそれも。それから、この辺りのもまとめて片付けてしまおう」
翌日。
まずはギルドに立ち寄ると、ゾフィアはそこにあった採取系の依頼をほとんど片っ端から選んでいく。
人手不足とは聞いていたが、さすがにこれは想像を超えていた。
「ゾ、ゾフィアさん……こっちに来てから、ずっとこんなペースで仕事していたんですか?」
「いや。今日は特別だ。いつもは同じ人数でも、この半分くらいがせいぜいだろう」
驚いたリリィが思わず口にすると、ゾフィアは苦笑を浮かべてさすがに首を横に振った。
「リリィたちがまだ知らないものも、こっちには多いからな。できるだけ早く実地で教えておきたい」
たしかに、依頼に書かれているのはレオンブルグでゾフィアに教わったものと、見覚えのない名前のものが半々といったところだった。
「こういう言い方は少しなんだとは思うが、タクローがいてくれれば移動と運搬はかなり楽になるしな。頼りにしているぞ」
琢郎を評価してくれているのはわかっているが、荷物持ち要員とも聞こえる表現に今度はこちらがフードの下で苦笑することとなった。
最終的に、探すものの種類は薬草を中心に、茸や花の蜜、鉱石なども含めて10を軽く超えた。
混ざってしまうと後で面倒になるため、雑貨屋で小さめの袋や瓶などをいくつか購入する。それで準備は整い、いよいよ町を出て採取のために近くの森へと向かった。
「<風刃>!」
近づこうとするゴブリンに向けて、琢郎が魔法を連続して放ち、その半数の首を飛ばす。
続いて、離れた場所から仲間を殺されたことに残りのゴブリンが驚き慌てたところを、素早く踏み込んだゾフィアが2匹立て続けに斬り倒した。
「やぁッ!」
最後の1匹は、ゾフィアから少し遅れて動いたリリィが、槍の一撃で貫く。
10匹に満たないゴブリンの小集団など、リリィが戦闘に慣れ、まして前衛にゾフィアが加わった今では敵と呼ぶにも値しない。全く危なげなく殲滅することができた。
しかし、
「これで何度目だ……?」
採取のために森に入ったはずだが、場所を変えるたびに途中でゴブリンに遭遇していた。1回コボルトが相手だった分も入れると、もう5回は戦闘している。
遭遇ペースは、レオンブルグでゴブリン狩りをしていた時に匹敵する。当時はリリィが戦闘慣れするという目的があったが、今はどうにも作業感が強く、耳を削ぎ落とすのも面倒に思えた。
「採取がはかどらない理由は、よぉくわかった。だが、これじゃきりが無い。元から断つことはできないのか?」
威力を最小限にした風の刃でゴブリンの耳を回収しながら琢郎が問うと、
「元……女王種か? 流れて来たか、新たに生まれたかはともかく、やはりいると考えるのが自然だろうか?」
同じように自分で倒したゴブリンの耳をナイフで切り取りながら、ゾフィアは質問で返してきた。
「女王種? って、なんです?」
初めて耳にする単語に、琢郎が何かを言う前にリリィが口を挟む。
「ああ、知らないのか。女王種というのは――」
作業の手は止めないまま、ゾフィアの説明が始まった。
曰く、ゴブリンはそのほとんどがオスであり、メスは1割にも満たないのだという。
そのため、群れの中心には巣に保護されたメスが数匹いるのが通常なのだが、さらにメスの中でもごく稀に極めて繁殖力の強い変異体が生まれることがあるらしい。
それが女王種と呼ばれ、女王種を中心としたゴブリンの群れは通常の数倍から10倍以上の規模になるとされているそうだ。
「滅多に出ることはないんだが、たしかに手が足りないにしても、少しゴブリンとの接触が多すぎるところはある。ギルドに戻ったら、女王種の存在の可能性も報告しよう」
そう結論づけたところで作業も完了し、薬草の生えていそうな場所へと移動を再開する。
そこではゴブリンと出くわすこともなかったが、その次の場所へと向かう途中、またしても数匹のゴブリンと遭遇してしまう。
「<風刃>!」
先ほどの焼き直しのような流れであっさり全滅させることはできたが、多少なりとも余計な時間を取られてしまうことはどうしようもない。
結局、日が傾き始めるまでにすべての種類の薬草を確認するということはできなかった。
「仕方ない。続きは明日にしよう」
ゾフィアの言葉で、この日の採取作業は終了した。
ゴブリンの耳を入れた袋は大きく膨れている一方、使うことのなかった空の袋もいくつか残ってしまっている。
「ここからなら、来た道を引き返すよりも、このまま向こうへ進んで別の道に出てしまった方がいい。タクローの移動魔法が使いやすい分、早く戻れるはずだ」
ゾフィアの先導に従い、琢郎たちは予定を完遂できないままに町へと戻っていった。