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111. オルベルクへ

サブタイいいのが浮かばなかった……

グシャリ、と空中で黒焦げになった蜘蛛の死骸が、岩の上に墜落して潰れた。

こちらは片付いたが、形勢ははっきりしているとはいえラグード側のコボルトはまだ数が残っている。

 必要はないだろうが、傍観していても仕方が無いので援護しようと琢郎はその場からコボルトを狙う。ラグードに誤射しないよう、的にするのは比較的離れた奴を――


「ッ! <風刃閃>ウィンド・スラッシャー!」


 風の刃を飛ばそうとする直前、琢郎は照準を大きくずらす。放つ魔法も、より速度と威力に優れたものへと変更した。

 見つけたのだ。

 ラグードの斜め後ろ、高い樹の枝の上に。

 たまたまそこにいたのか、コボルトたちがもう1匹使役していてそこに潜ませていたのか。先ほど琢郎が倒したものより一回り小さな蜘蛛が、ラグードの死角となる位置から今にも糸で絡めとらんと狙っていた。


ザシュッ!


 間に合うかどうかの確証は無かったが、ちょうど糸を吐き出し始めるギリギリのところで魔法が届く。

 乗っていた枝ごと脚を数本斬り飛ばされた蜘蛛は、糸を空しく宙に散らせて落ちていった。


「ナァイス!」


 琢郎の魔法で蜘蛛の存在に気づいたラグードは、振り向いてその落ちてくるところに大きく爪を振るう。

 脚に続いて腹を破られ、大量の体液を派手に撒き散らしながら地面に転がった蜘蛛は、そのまま動かなくなった。


「あっ、危ない!」


 琢郎の隣でリリィが悲鳴じみた声を上げる。

 蜘蛛にトドメを刺すために振り返ったことで、ラグードは一時的にコボルトたちに背を向ける格好になった。それを隙と見て、残るコボルトが一斉にその背を襲おうとしたのだ。


 再度、援護に動こうとして琢郎はラグードの顔に浮かぶ笑みに気づく。

 隙のように見えたのはその実、誘いだった。

 ラグードの太い尾が、ブォンと風を唸らせながら大きく振るわれる。


「ギャッ!」


 激しく胴を打たれたコボルトたちは、吹き飛ばされて樹の幹や地面に叩きつけられた。


「お前で終わりだ」


 尾の鞭が振るわれた範囲のわずかに外だったため、1匹残った最後のコボルトの犬頭を向き直ったラグードの拳が潰し、戦闘は終了した。



「ラグード、この蜘蛛の換金部位ってどこだか知ってるか?」


 戦闘後の後始末として、ラグードが殴り倒して動けないもののまだ息があるコボルトにトドメを刺し、換金部位を回収する。

 戦闘では出番のなかったリリィも、この作業でようやく手伝いをすることができた。

 コボルト(そちら)は任せて、琢郎は蜘蛛の方に向かったのだが、この魔物については換金部位の知識が無い。死骸の損傷も大きいため、場合によってはあきらめることも考慮しつつ、問いを発した。


「ああ。そいつは頭だ。蜘蛛の魔物は糸が素材になることが多いんだが、そいつのはダメらしい」


 頭部ならなんとかなる。<火炎球>(ファイアー・ボール)で焼き殺した方も、焦げてはいるが原形は保っていた。


「取り分はどうすんだ? さすがに頭割りは受け入れられんぞ」


 手早く回収を終えたところで、ちょっとした問題が発生した。

 同行したのも、もちろん戦闘になったことも急だったために、配分についての取り決めができていなかったのだ。


 ただし、今回の場合は突発的な戦闘で収入目当てではなく、リリィも取り分を辞退したため、相談が長引くことはなかった。

 倒した者が権利を得るのが基本だが、2匹目の蜘蛛を琢郎が見つけて樹から落としたことや、部位回収でリリィが手伝ったことなどを考慮して調整。蜘蛛は1匹ずつ、コボルトはラグードと琢郎たちで7:3ということで落ち着いた。


 話が纏まると、それを入れた袋をひとまず他の荷物と一緒に琢郎が担いで、移動を再開する。


<風加速>(フェア・ウィンド)!」


 想定外の戦闘があったものの、2度はないまま無事に山道を抜けた。正規の街道と合流して、そのまま町へと急ぐ。

 太陽は傾きつつあったものの、門限にはまだ余裕を残してオルベルクの町を囲む壁が見えてきた。


「やぁ、マジで速えな。助かったぜ」


 門の手前で魔法を解除して下ろすと、ラグードは感心したような声を出す。


「んで、お前らもこのままギルドへ行くってことでいいんだよな?」


 並んで町の中へと歩きながらの確認に、琢郎たちは頷きを返した。

 ゾフィアがこの町のどこにいるかまではわかっていない以上、ひとまずギルドへ行くのが近道だろう。職員に尋ねてもいいし、運がよければギルド内で会えるかもしれない。


 ラグードはラグードで、今日の宿の確保や、先ほどの戦闘の原因となった聖木の倒壊の件の報告のためにギルドへ向かうと言う。

 加えて、さっきの戦闘で得た部位の換金の必要もある。


 そうしたわけで、ギルドの場所を訊くついでに買った串肉を2本纏めて食らいながら歩くラグードを先頭にして、もう少しだけ3人で同行するのだった。

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