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109. 旅は道連れ

「あの……わたしはあまり話がよくわからなかったんですが、大丈夫なんですか?」


 琢郎のやり場の無い怒りが収まり、一段落したところでリリィが話しかけてくる。


「その人、タクローさんの正体がわかってしまってるんですよね? それなのに、その人はむしろ親しげになった感じで……どういう関係なんです?」


 琢郎が人の精神(こころ)を持つオークであるとは承知してはいても、転生者の事情までは聞かされていないリリィからすれば、ラグードとのやり取りは奇異にしか映らないだろう。


 だが、関係を問われてもどう答えればいいのやら。

 同じ転生者と聞いた時から妙な仲間意識を感じてはいるが、今が初対面であるのは間違いない。友人や知り合いとも違うし、適当な言葉が見つからない。


 その間に、ラグードが先に口を挟んできた。


「ん? なんだ、お嬢さん。大丈夫じゃなかったら、どうするんだ? ここで俺を殺して、口を封じようってか?」


 牙を剥いて獰猛な笑みを見せる。先ほどのブレスの威力を見ていたリリィは、本気で言っているわけではないと半ば以上わかりつつも、慌てて手と首を横に振った。


「そ、そんなつもりじゃ……」


 そう。『特殊表示(ステータス)』で見たLVの高さに加えて、さっきのブレスで琢郎も確信した。力ずくで口封じしようにも、ラグード相手に勝てる気がしない。

 よって、ラグードを信じざるを得ない状況なわけだが、なぜか信じても大丈夫に思えている。同じ転生者であると知ったせいだろうか。

 自分でも不思議だった。


「おいおい、冗談だ、冗談。そんなビビんな。心配しなくても、おまえらは助けてくれた恩人だからな」


 威力の加減が難しい『擬竜吐息イミテート・ドラゴンブレス』は使えず、蜘蛛糸は粘性と弾力性が残っている間は内から力ずくで引き千切ることもできず。

 琢郎たちが来なければ、最悪まだ1日2日はあのまま地面に転がっていたところだったようだ。


「その恩人を、大したメリットも無く売るような真似はしねぇよ。それに、会ったのは初めてだが、ある意味同郷の仲間だからな、尚更だ」


 と、リリィに。そして、同郷という言い方になるほどと感心する琢郎には、


「実際、本能的なものか『属性:転生者』の隠し効果か知らんが、転生者同士には仲間意識が生まれるからな。俺を信用しても大丈夫な気がしてるだろ?」


 不思議と抱いていた信頼感の理由付けをしてくれた。



「ところで。んなことより、西に向かってたってこたぁおまえらもヴェステンヴァルトに行くところか? あそこは今稼ぎ時って聞いて俺も向かってるとこだったんだが」


 一応の信頼の根拠を示したところで、ラグードが話題を転じる。


「だったら、俺も同行させてくれねぇか。女連れでこのルート通ろうってんだ。移動補助系の魔法使えるんだろ? ヘマして遅れちまった分を少しでも取り戻したいんだ」


「……いや、悪いが違う。俺らの行き先は、この道を抜けたところのオルベルクなんだ」


 話題の転換はともかく、その前提が間違っているので琢郎はすぐに否定した。

 そして、オルベルクに向かう理由――ヴェステンヴァルトに冒険者が集中した結果、その周辺の町で手が不足しているらしい状況を説明する。


「へぇ、なるほど。んなことになってたのか。なら、オルベルクまでってことでどうだ? 俺の足だと今からじゃ、今日中には道を抜けることはできても、町の門が閉まるまでには間に合いそうにねぇ」


 この提案に、琢郎はリリィの方を見る。

 先ほどのブレスや軽口に驚き怯えていた彼女が嫌がるようなら断ろうかと思ったのだが、少し考えるような素振りは見せたものの琢郎の視線に気づくと、頷いて見せた。

 ならばと、琢郎はラグードに向き直る。


「そっちがそれでいいなら、オルベルクまで送って行こう」


「そりゃぁ助かる。野宿するのと宿のちゃんとした寝床で寝るのとじゃ、やっぱかなり違うからな」


 再びラグードは笑みを見せ、初め糸に絡まって倒れていた場所近くの藪へと入る。

 そして、そこに隠すように置いてあった荷物を担いで戻って来た。


「それじゃあ、よろしく頼むぜ!」


「あ、あぁ……」


 頷く琢郎の声は少し引きつっていた。

 旅をするのに身1つではないのは当然だが、ラグードが藪から引き出してきた荷物は持ち主の体格に合わせてか、想像以上に大きかった。



「じゃあ、行くぞ。――<風加速>(フェア・ウィンド)!」


 琢郎よりも頭1つ大きいラグードは抱えにくいものの、左右に2人を抱える形で琢郎は加速魔法を唱える。


「ッ……とぉッ?」


 移動し始めて気づくが、抱えづらいだけでなく左右のバランスも悪い。

 重くなった分だけゾフィアとの時より込める魔力を大きくしたが、気をつけないとラグードの方へ身体が傾いてしまいそうだ。


「はは……ッ! 速ぇ速ぇ!」


 いつもと勝手が違うことに琢郎は難儀していたが、そんなことは関係なくラグードは歓声を上げる。


 その呑気な態度に少しだけイラついたが、すぐに<風加速>(フェア・ウィンド)の制御へと琢郎は意識を戻す。もう少し慣れるまでは、集中が必要だった。

新キャラ紹介はいい加減ここまで。

そろそろ次の舞台へ進みます。

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