108. 異なる転生事情
「いや。騙されたってぇと、ちょいと言葉が違うかもしれねぇが。今聞いた感じだと、当然教えられてるはずのこともろくに説明されてねぇんじゃないか?」
言葉を少しだけ修正しつつも、琢郎の状況の問題点をラグードは指摘した。
「……ところで、なんで俺は転生先をリザードマンにしたんだと思う?」
かと思いきや、突然に自分のことを話し始める。
だが、そう問われても琢郎はラグードとは今会ったばかりで彼のことは知らないし、そもそも自分の時は転生先を選ぶこともできなかった。当然、見当もつかないので首を横に振る。
「本当はよぉ。俺は、ドラゴンに生まれ変わりたかったんだ」
果たして、全く想像もしていなかった答えをラグードは口にした。
「これでも、前世は身体が弱くってなぁ。なんだかんだ人生の半分くらいはベッドで過ごすことになった分、次は強い生物になりたかった。んで、ファンタジーの最強種ってぇと、例外も多いがやっぱりドラゴンだろ?」
ベッドの上で、よく冒険物の漫画や小説を読み耽っていたのだという。
「ところが、だ。ドラゴンってのはほとんど子どもを生まないらしくてな。100年単位でいつ新しく生まれるかわからないんで、転生先には選べないって拒否られちまった」
無念を表すように、1つ大きな溜め息。
「竜人族っていうドラゴンの形質を持った種族もいたんだが、今度はポイント不足だとさ」
なんでも、種族固有の強力なスキルを複数有する稀少種族であり、人間族にそれこそ勇者級の超チートスキルを付与できるほどの転生コストがかかったそうだ。
琢郎と違って、ラグードは生前の状況からそこそこ転生ポイントを持っていたが、それでも必要な半分ほどにしかならなかったとか。
「それで、次にまだ竜に近い姿で、かつ頑健な亜人種ってことで妥協点になったのが、リザードマンってわけだ」
また、随分と急にランクが落ちたようだが、ラグードの話では、担当の天使に協力してもらってその分スキルが充実しているらしい。
「リザードマンは本来そんなに魔法に長けた種族じゃないんでな。悪目立ちして便利屋使いされないためにも、魔法適性を無属性の身体強化系に極振りしてもらった。あと、ドラゴンに似せたユニークスキルもな」
「ユニークスキル?」
「おう。残りのポイント使って、俺の希望を元に調整・開発してもらった、俺だけの技だ。さっきも、お前らが近づいてくる気配を感じたんで、それを使って気づいてもらったんだぜ」
そういえば、さっきは聞き流したがラグードは、丸一日糸に絡まっていたようなことを言っていた。てっきり戦闘の際の音かと思っていたが、正体は何だったのか。
答えはすぐに明らかとなった。ラグードが再度、実演してみせたのだ。
すぅ、と大きく息を吸った後、琢郎たちを巻き込まないよう反対の森を向いて、一気に吐き出す。
「キャアァァ!」
その結果に、直接被害を受けなかったにもかかわらずリリィが悲鳴を上げた。
ラグードの吐いた息は、風の魔力を帯びた爆風と化して、轟音とともに辺りの樹を何本も纏めて薙ぎ倒したのだ。
「これぞ、俺のユニークスキル、『擬竜吐息』! その名の通り、ドラゴンのブレスを魔力で再現した技だ。口から吐くしかできないが、威力はご覧の通り!」
思い切り吐いた反動で、フシューと再び大きく息をしながらラグードは得意げに笑う。
「身体強化系に特化して、元素操作ならまだしも普通の魔法がろくに使えないという俺の欠点もこいつは補ってくれる。直線の放出のみだが、6属性のブレスを吐けるんだ。凄ぇだろ?」
確かに凄い。
魔法の汎用性こそ琢郎の方が高いが、一撃の威力においてはどう見ても負けている。
「強化系魔法で、体術でも地元じゃ負け無しでな。おかげで付いた異名が、『竜の子』だ。担当にゃ感謝してるぜ」
なるほど。今のブレスを見せられた後では、『特殊表示』が無ければ人型の竜種だと言われても信じていたかもしれなかった。
「それとに比べりゃ、お前の担当はひどすぎだろ。転生者の基本スキルである『特殊表示』のことや、転生先の特徴の説明はしない。それどころか転生先を一切選ばせることもさせずに、挙句は何に転生するかはしてのお楽しみってんだろ。ありえねぇ!」
全く、ラグードの言う通りだ。あまりに琢郎の場合と違いすぎる。
転生先を選ぶ余地がないにしても、もう少し説明をするなりサポートのしようはあったはずだ。
今さらながらにあのふざけた天使への怒りが再燃したが、ラグードも他の転生者に会ったことはあっても、こっちへ転生してから彼らには会ったこともそんな話を聞いたことすらないという。
怒りのぶつけどころがなく、琢郎は握った拳を振り上げることも無く解くよりなかった。
新キャラ、ラグードの紹介。
これでも、初稿段階からかなり削りました(笑)
竜人族の竜化スキルだとか、無限レベルアップや倒した相手の能力を奪うといった勇者級チートなど、本筋と関係ない設定がつらつらと……
あまりにろくでもないので、ばっさり切って書き直していると週末が終わっていたという。




