107. 同類(お仲間)
「なッ……!」
ラグードの発言に、慌てて琢郎はフードを確認するが、ずれることもなくしっかりと被っている。
先ほどまで地面に転がっていたためラグードの頭の位置は低かったが、それで下からフードの中を覗き込まれるような安直なミスも、もちろん犯した覚えはない。
なぜバレてしまったのか。
理由が分からないが、正体を知られたことそれ自体がより問題だ。
助けたりなどするのではなかったか。いっそ、今からでも口を封じるか。
「おいおい、そう殺気立つ必要はねぇって。俺はお仲間だ。さっきも言ったが、見りゃわかんだろ?」
たしかに、琢郎の正体を口にした時も悪意や敵意よりはからかうような感じではあった。
が、見ればわかるとはどういうことか。リザードマンも一見、魔物のような姿ではあるが、それで仲間というわけでもあるまい。
「って、その反応。まさか見えてなかったのか? ちょっと待ってろ!」
ラグードは一旦、手の平を琢郎に向けて制止すると、その手をすぐに戻して指先で宙を突くような動作を幾度か繰り返す。
「よし。これで、もう1回俺を見てみろ。『特殊表示』を使って、な」
琢郎の正体に続いて、『特殊表示』のことまでラグードは口にする。
まさかとは思いつつ、言われた通りに再度意識してラグードを見つめた。
『個体名:ラグード 種族:リザードマン
追加属性:転生者
LV: 47 』
すると、どういうわけだか表示される情報が増えている。
LVの高さも驚きではあったが、ラグードが見せたかったのはもう1つの追加属性の方だろう。
なるほど、同類ということだ。
「さっきは、名前と種族しか見えなかったのに、どうして?」
こんな突然に、自分と同じ転生者に出会うことになるとは思ってもみなかった。
だが、同じ立場のはずなのに、ラグードが何をしたのかわからなかった。
「そんなことも知らねぇのか。まだ転生して日が浅いのか?」
先ほど助けたお返しというつもりもあるのかもしれない。琢郎の疑問にラグードは、その答えを望むままに説明した。
曰く、スキルには使用を重ねるうちに成長していくものがあり、『特殊表示』もそれに該当する。
それにより、初期では見ることのできない状態でも相手の情報を見られるようになったり、逆に『特殊表示』や他の鑑定系スキルから自分の情報を守ったりもできるようになるらしい。
さっきラグードが宙を指で突いていたのは、そこからさらに応用して、今の琢郎でも見えるように情報の優先度をいじっていたということだ。
「ちなみに、前に別の転生者に聞いた話なんだが、『追加属性:転生者』ってのはまた特殊なんだと。なんでも、転生者同士でないと見ることができねぇらしいぜ」
そのためか、転生者同士は仲間意識が強くなる傾向がある。ラグードがこうして琢郎に説明や助言をするのも、かつて自身も他の転生者の助力を得たことがあったからだ。
琢郎はフードで顔を隠すことで『特殊表示』からも自分の正体を隠しているつもりだったが、ラグードからは一目でその素性は見えてしまっていたらしい。助けられた時の少しふざけたような言動も、それを知るが故の親近感からのものだったようだ。
「まぁ、顔がまともに見えない状態で『特殊表示』が見えるのは、転生者でもなきゃよっぽどのレアケースだろうから、そんなに気にするこたぁない」
顔を隠した状態でも素性を看破される場合があると知って、琢郎が人里に出ることに再び不安を覚え始めていると、それはおおむね杞憂であるとも言う。
そして、それでも隠せるものならなるべく隠しておきたいというのもわかるため、『特殊表示』が成長した場合の情報開示レベルの変更法も前もって教授してくれた。
「ってか、そもそもなんでわざわざオークなんて種族に転生したんだよ、おまえ?」
「俺だって、好きでオークに転生なんてしてない。資格を得た直後に死んだせいで――」
事情をしらないラグードから見れば当然だろう疑問に、琢郎は覚えている限りの転生の経緯を説明した。
聞き終えたラグードは、ぽつりと感想をこぼす。
「おまえ。それ担当が悪かったっていうか、騙し入ってんじゃないか?」
今さらながらに、転生設定関連のもろもろ話。次回に続きます。




