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106. リザードマン

 何も聞かなかったことにしよう。

 琢郎はそう考えかけたのだが、助けを求める男の声は進行方向から聞こえてきた。

 ここまで来ておいて引き返し、山を迂回する街道のルートに戻るのはかなりのロスになる。


 それに、腕に抱えているリリィにも声は聞こえていた。

 口に出して何か言ったわけではないが、当然のように琢郎は助けに行くものだと思っているのが目を見ればわかる。


「……仕方ない、か」


 リリィと合わせていた目を声のした方へと戻し、小さく口の中で呟く。


 他者との積極的な接触は望んでいないが、それだけではない。リリィを助けて正体がバレてしまった時と、今の状況がどうも重なるように感じていた。

 だが、それは杞憂のはずだ。

 今はきちんとフードを被っているし、街ではこの格好でゾフィアや何人もの店屋の人間と話もしたが、問題は起きなかった。

 助けに行ったところで、正体を気づかれる心配はおそらくないだろう。


「多分、この辺りだと思うんだが……」


 何かあってもすぐ守れるよう、リリィを抱えたまま琢郎は声のした方へ進んでいった。

 そして、さっきの爆発音の時だろうか。折れ飛んだ木が道を遮るように倒れているのに遭遇した。


「何があったんでしょうか、これ……?」


「多分、爆発するような魔法があるんじゃないか? 俺はまだ知らないが」


 その光景に驚きつつも、木が倒れている向きから爆心地の方向を推測して道を外れる。爆発音の後に聞こえた声の主も、おそらくそちらにいるはずだ。


「おぉッ! 助かった。来てくれたのか!」


 想像通り、それからすぐに助けを求めていた声の主を見つけることができた。

 ただ、その状況は琢郎が想像していたものとはいささか違っていたが。


「こんなところで、あんたみたいのに会えるとは思わなかった。頼む、魔法でこの糸をどうにかしてくれ」


 そこには、頭とそのすぐ横で右手の先を除いた全身を粘性の高い糸でぐるぐる巻きになって地面に転がっている相手がいた。

 ほとんど身動きはとれないようだが、顔はこちらを向いていたため琢郎たちに気づいて声をかけてきた。 ただ、その顔が――鱗に覆われた、どう見ても爬虫類のそれだった。


「――(ひと)、か?」


「見りゃあわかるだろ。俺はラグード。この辺じゃあまり見ない種族だろうが、リザードマンだよ」


 見慣れない容姿に思わず口を突いて出た呟きに返ってきたのは、先ほど助けを求めていたのと同じ声だ。

 琢郎が『特殊表示(ステータス)』を使ってみても、本人の言った通りに


『個体名:ラグード   種族:リザードマン』


 との表示が映った。


「いいから、早くこの糸をなんとかしてくれよ。メシを調達しようと道から外れたところで、後ろの木の上から不意打ちをくらってな。襲ってきた魔物は倒したんだが、その時余計に糸が絡まっちまって、もう丸1日この状態なんだ」


 訴えるラグードの後ろには、おそらく蜘蛛型の魔物だったであろう魔物の残骸がバラバラに散らばっていた。その破れた腹から溢れ出した紫色の体液も乾きかけており、倒されて時間が経っているのは間違いない。


 ここで問題なのは、すでに干からび始めた本体に対して、どういう理屈か糸の方はまだまだ粘着性を保っているようだということだ。これでは、槍先やナイフを使って糸を切ろうとしても、逆に刃が糸に絡め取られてしまう。

 となると、実体のない風の刃を使うか、火で焼き切るか。だが、加減を誤れば糸だけでなく中身ごと切ったり燃やしたりしかねない。


<風刃>(ウィンド・カッター)


 助けるつもりがそんなことになっては元も子もないため、琢郎は慎重に作業を開始した。ラグードのそばにしゃがみ込み、小さな風の刃を生み出して少しずつ削るように糸を切り離していく。

 思った通り、粘性のある糸は切りにくいが、風の刃なら刃が糸にひっつくこともないためゆっくりとだが確実に切断することができた。


「いでッ!」


 胴を繭のように覆う糸のうち、なんとか1割から2割ほど切り離したところで、突然にラグードが声を上げる。

 しくじったかとフードの下で顔を青くしたが、ラグードを見るとその表情は苦痛に歪むどころか笑みを浮かべていた。


「なぁんて、な。リザードマンは身体が頑丈なんだ。ちまちまとまどろっこしいことしてないで、もっと豪快にさっさと終わらせてくれよ」


 その言葉に気を遣うのが馬鹿らしくなって、琢郎はすっと立ち上がった。そのまま、2歩3歩とラグードから距離をとる。


<火炎球>(ファイアー・ボール)!」


 そうして、言われた通りに遠慮なく、火球をラグードを覆う蜘蛛糸の繭に向けて投げ放った。


「あづッ! アチチチ!!」


 糸が燃え上がると、再びラグードが声を上げる。

 が、リザードマンは丈夫なんだそうだ。これもまた演技なのだろう。

 そういうことにして、火を消してやるのはもう少し懲らしめてからだとゆっくり水の用意をし始める琢郎。


 だが、その目の前で、火の付いた繭が大きく変形した。


「アッチー! 豪快にとは言ったが、加減を知らねぇのか。もうちょっとで火傷するとこだったぞ」


 燃えたことで糸が脆くなったのか。内側から糸を力任せに引き千切って、ラグードが脱出してきた。熱がってはいるものの、鱗に覆われた肌には別段傷はないようだった。

 繭を抜け出た勢いで地面を2回転ほどしてから、琢郎の目の前でゆっくりと起き上がる。


 でかい。

 繭に覆われて転がっていた時ははっきりとはわからなかったが、普通の人と比べるとかなり大柄な琢郎よりも、軽く頭1つ分は大きかった。


 その迫力に半ば反射的に身構えた琢郎だったが、ラグードの口からは更に決定的な警戒を呼ぶ衝撃的な言葉が飛び出した。


「俺ごと燃やすとか人でなしかよ。だいたい、『人か?』なんて、そっちにだけは言われたくないぜ。まさかオークだなんてよぉ」

更新予定の週末、頭痛で倒れてしまいましたが、ようやく更新です。

頭の痛みと一緒に、考えていた言い回しまで脳から消えてしまったために、途中流れが唐突になっていたらすみません。


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