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105. 出発

 翌朝、琢郎たちは街を移るために部屋の荷物を纏めていた。


「……よし。こんなところか」


 着替えや装備品など、来たばかりの頃よりはいくつか増えた物もあるが、持ち運べないような量にはなっていない。ただ、<風加速>(フェア・ウィンド)で移動する時のことを考えると、持ち易いようにはしておきたかった。

 衣服や食料品、装備などの種類別に分けて纏めたものを、一番大きな袋にすべて押し込むようにして入れると、琢郎は肩にそれを担ぐ。これなら、反対側でリリィを抱えるようにすればいつも通りだ。


 部屋を出て、宿代の清算を終えると、早速西門の方へ――行く前に、足をギルドへと向ける。

 前日の内に調べておけばよかったのだが、ゾフィアのいるオルベルクという町が西門を抜けた街道の先にあるということは手紙で分かっていても、それ以上の具体的な位置を知らない。

 出発の前に、ちゃんとした町の場所や道を地図で確認しておこうというわけだ。


「ああ、あったあった」


 各種魔物の換金部位の一覧表や、依頼書が貼られた掲示板とはまた別の壁。

 詳しく見たことはなかったが、そこにこの街を中心とした周辺地域の地図があることだけは知っていた。


 ギルドのロビーの一角にあるその地図の前に立ち、中央に赤く記されたここレオンハルトから西に伸びる街道を辿っていく。

 オルベルクという名前があったのは、途中4つの町を示す記号を通り過ぎた5つ目の町だった。

 そこで一度視線を中央に戻し、見知った街の北周辺と地図上の距離を比較してみる。


「これは、今日中に着くのは少し厳しいか」


 街道沿いの1つ目の町で、琢郎たちがここしばらく採取や狩りで活動していた範囲よりも距離があった。

 町と町の間隔は等分ではないが、オルベルクまでの街道の長さはその5倍に及ぶ。問題の大元だとゾフィアが手紙に書いていたヴェステンヴァルトなどは、もう大きな地図の端であった。


 それでも、オルベルクまで直線距離を進むのならばまだなんとかなりそうではあったが、実際は街道は一直線に真っ直ぐ伸びてなどいない。

 町の位置関係や地形の影響で、当然ながら曲線を描く部分も少なくない。中でも、2番目の町を出てすぐの辺りから山を迂回するために大きく北に弧を描いていた。


「なんか、ずいぶん遠回りしている感じですね。ここを真っ直ぐ行けたら近いのに」


 同じところを見て、リリィも似たような感想を口にした。


「……ん?」


 リリィが地図を指でなぞるのを目で追ったその時、初見では気づかなかった細い線がリリィがなぞった場所のすぐ近くにあるのを見つけた。


「これ……道、か?」


 地図に顔を寄せて目を凝らすと、街道が大きく弧を描く手前にある2番目の町から細い道が枝分かれしており、山麓の村に繋がっていた。そして、その村からオルベルクの近くまで山を貫いて細い髪の毛のような線が続いている。


「わたし、ギルドの人に訊いてみますね」


 琢郎に言われることで自分も気づいたリリィが、近くにいた職員を呼び止めて確認する。


職員の回答は、


「道か、と言われればその通りです。あまりお勧めはしませんが」


 というもの。

 オルベルクやその更に西へ向かう者にとっては、街道がかなり大回りになっているのは明白な事実。そこで山を突っ切る形の新しい道が造られたのだが、街道が山を迂回しているのは当然そうする必要があったわけで。

 一応、道らしきものを通すことはできたものの、荷車はもちろん馬や牛を連れて通ることもできない険しく細い獣道に毛が生えたようなものにしかならなかったそうだ。


「聖木も植えられてはいますが、間隔はかなり広いので道の上に魔物が出ることもあるそうです。それでなくともかなりの難所ですので、結局は通る者もほとんどいない道になっています」


「なるほど、参考になりました。ありがとうございます」


 丁寧な説明をしてくれた職員に礼を述べ、ギルドを後にする。


<風加速>(フェア・ウィンド)!」


 西門を通って街からも出た琢郎は、荷物とは逆側にリリィを抱え、加速して移動する。

 ただ、こちらの街道は狩りや採取によく通った北側に比べて人の通行が多いため、ややスピードを落としていた。


 それでも徒歩はもちろん、馬車も上回る速度で街道を進んでいき、2つ目の町に着くとそこでやや遅めの昼食をとった。


「さて。じゃあ、ここからはこっちの道を行けばいいわけだ」


 食後、町を離れた琢郎は当然の如く街道を外れ、ギルドの職員に教わった道へ向かった。


「早くゾフィアさんに会いたいです」


 というリリィの意見もあったが、職員が挙げた難点は琢郎にとっては問題とならなかったことも大きい。

 <風加速>(フェア・ウィンド)を使えば、険しい道も苦にはならない。むしろ人通りがほとんどないのならば、安心して速度が出せるくらいだ。

 魔物との遭遇の可能性も、凶悪な魔物がいればそもそも道を造ろうなどという話になるはずもなく、琢郎の手に負えないようなことにはならない。


 小さな村の横目に通り過ぎ、いよいよ山の中へと入って行く。

 たしかにほとんど獣道のようなものであったが、道さえ開けていれば<風加速>(フェア・ウィンド)で進むのに支障はなかった。


 山に入って小1時間。

 道も半ばを過ぎただろうと思われた頃、


ドゴオオォンッ!


 斜め前方より突如として爆音が響いてくる。


「何だッ!?」


 警戒して足を止めた琢郎の耳に、


「おぉ~い! 誰か、助けてくれーー!」


 同じ方向から、次いで低い男の声が流れてきた。

予定では前話と合わせて纏まるはずが、時間も量もかなりかかってしまいました。

それはさておき、次回いよいよ久しぶりに新キャラ登場です。

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